1.鉄分不足が起こりやすい人
鉄分不足は、以下のような要因で起こります。
1-1.もともと日本人は慢性的な鉄分不足
日本人の食生活は欧米に比べると、慢性的に鉄分が不足しているといわれます。
欧米では日本に比べて、小麦粉に鉄が添加されていることがあります。また、サプリメントなどを日常的に活用している人も多いことが、欧米と日本での鉄分事情に関係していると推察されます。
1-2.特に鉄分が不足しやすい人
鉄不足は、急激な成長期にある乳幼児、生理のある女性、鉄を多く必要とする妊婦や授乳婦に多い傾向にあります。女性の10人に1人は、貧血の疑いがあるといわれています。
1-3.食事や吸収障害の影響も
偏った食事や朝食を抜く習慣などは、食事から摂取する鉄の量が減るため、鉄分不足の原因になるといえます。
また、鉄は酸化されて吸収されるため、胃酸の減少などによる吸収障害も鉄分不足を引き起こす要因です。
2.鉄分不足が原因で起こりうるおもな症状
ここでは、貧血のメカニズムと症状を解説します。
2-1.鉄欠乏性貧血とは
貧血にはいくつかの種類がありますが、なかでも最も多いものが「鉄欠乏性貧血」です。
血液は酸素を全身に運搬する働きがあり、おもに赤血球に含まれるヘモグロビンがその機能を担っています。
ヘモグロビンは鉄を含む色素である「ヘム」とたんぱく質が結びついて(ヘムたんぱく質)できており、これが酸素と結合して体の隅々まで運ばれます。
鉄不足に陥ると赤血球中のヘモグロビンも減り、体内に酸素の供給が十分にできない状態となり、さまざまな不調が起こります。この状態が「鉄欠乏性貧血」です。
2-2.鉄欠乏性貧血のおもな症状
鉄欠乏性貧血の症状は、頭痛やめまい・動悸・息切れ・全身の倦怠感・集中力の低下・食欲不振などが挙げられます。
その他、筋肉中のミオグロビンが減少すると、筋力低下や疲労感などの症状が見られる場合もあります。
ミオグロビンとは、筋肉にある赤色のたんぱく質で、ヘモグロビンから渡された酸素を筋肉内に貯蔵する働きをしています。
外見上、顔色が黄色くくすんだようになる、爪の色が白っぽいなどの場合は、貧血が疑われます。
2-3.精神運動機能の発達
乳幼児や小児の場合、鉄不足により精神や運動機能の発達に支障が生じうることがあります。
特に、乳幼児の場合、発語や動作に少し遅れが見られる傾向にあるため、保育士など周りの人が「他の子と違う」と気付くケースが多いといわれています。
3.鉄分不足の対処法3選
鉄分不足を改善するには、次の3つの方法が効果的です。
3-1.鉄分を多く含む食品を摂る
食品中に含まれる鉄には、吸収率の高い「ヘム鉄」と、吸収率があまり良くない「非ヘム鉄」の2種類があります。
ヘム鉄は、赤身の肉・まぐろ・かつお・いわし・めざし・あさりなどの肉類や魚介類に多く含まれます。
一方で「非ヘム鉄」は、のり・ごま・納豆・調整豆乳・厚揚げ・小松菜・ほうれんそう・春菊・卵・ヨーグルトなどの海藻・野菜・豆類・卵・乳製品などに多く含まれます。
一般的に、食品から摂る鉄分の吸収量は、約15%程度です。鉄の損失量と吸収率を考慮すると、一日の食事から鉄を摂取する量は、成人(20~49歳)の男性では7.5mg、月経のある女性では10.5mg、月経のない女性は6.5mgが推奨されています。
3-2.鉄の吸収を高める食品を一緒に摂る
鉄分は、動物性たんぱく質やビタミンCを多く含む野菜や果物などを一緒に摂ると、吸収率が良くなります。
緑茶や紅茶、ウーロン茶などに含まれるタンニンは、鉄の吸収の妨げになるため、食事中は控えたほうがよいでしょう。
3-3.鉄製の鍋などを使う
鉄製の鍋・やかん・フライパンなどの調理器具を使って調理すると、鉄が溶け出して自然と鉄の摂取量が多くなります。
鉄製の調理器具を持っていない場合は、鉄補給用の調理補助グッズ「鉄玉」がおすすめです。南部鉄を卵型に加工したもので、お湯を沸かすときや調理するときに一緒に入れることで、鉄補給を助けます。
また、鉄は基本的に吸収率が低く、ダイエットなどで食事の量を減らすと摂取できる鉄の量も減り、貧血などの症状が起こりやすくなるので注意しましょう。
鉄分不足の改善は継続的に摂取することを心がけましょう
鉄分は、今日多く摂ったから、明日は少なくて良いというものではありません。鉄分不足を改善するには、いろいろな種類の食品を毎日継続して食べる習慣が大切です。食事で不足する分は、市販のサプリメントで補うなどの工夫もしてみましょう。
貧血の症状は、重篤な病気のサインである場合もあります。頭痛・めまい・立ちくらみ・動悸・息切れ・疲れやすい、などの症状を感じたときは、早めにかかりつけ医などの医療機関を受診することをおすすめします。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。