1.沈黙の臓器とはどこ?
「沈黙の臓器」と呼ばれる臓器は、いくつかあります。
なかでも、沈黙の臓器と呼ばれることが多いのは肝臓です。肝炎ウイルスに感染したとしても、最初は熱や痛みなどの症状がほぼ起こりません。そして、気付かないうちに肝硬変などへ進行する可能性があるのです。
腎臓も、何か疾患があっても自覚症状がなかなか起こらず、症状を自覚する頃にはすでに進行しているケースが多いため沈黙の臓器と呼ばれています。
また、膵臓は病気を見つけにくい特徴があるため一部の医師からは「暗黒大陸」とも呼ばれることがあります。
次の段落からは、それぞれの臓器の働きについて解説します。
2.沈黙の臓器「肝臓」の働き
まずは、肝臓の働きについて解説します。肝臓とは私たちの体のなかで最も大きな代謝器官であり、おもな働きは以下のとおりです。
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・ブドウ糖や脂質の代謝や貯蔵
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・体に必要であるタンパク質の合成と分解
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・体にとって有害な物質の解毒と排泄
肝臓は、おもな肝機能の働きを担う「肝細胞」と、それ以外の働きに関与する「非実質細胞」で成り立っています。肝臓が損傷を受けたとしても、各細胞が連携をとって回復を行なうことが可能です。
しかし、慢性的にダメージを受けて肝機能が破綻してしまうと、肝臓の病気である非アルコール性脂肪性肝炎や、肝硬変などにつながってしまいます。肝臓は再生能力が高い臓器ではありますが、一方で解毒や体の防御機能などを担うことから、危険因子にさらされやすい臓器でもあるのです。
肝臓の病気を早めに発見するためには血液検査が有効で、検査項目としてはAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPがあります。
3.沈黙の臓器「腎臓」の働き
次に、腎臓の役割を解説します。腎臓は体内に2つ存在し、そら豆のような形をしている臓器です。腎臓の働きを以下に挙げます。
腎臓のおもな病気としては、糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎、腎硬化症などが知られています。
また、腎機能低下にともなうさまざまな腎臓病の総称として、慢性腎臓病(CKD)という言葉があります。医学的な定義は「タンパク尿」等または「腎機能の低下」が3カ月以上続く状態のことです。
CKDのスクリーニングや重症度を判定するための検査項目としては、尿タンパクや血清クレアチニン、eGFR(推算糸球体濾過量)などがあります。
4.暗黒大陸「膵臓」の働き
最後に膵臓の働きについて解説します。膵臓は、胃の後ろ側に存在する細長い臓器です。
膵臓のおもな働きとしては、以下の2つが挙げられます。
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外分泌機能
外分泌機能は、食事中に含まれるタンパク質や脂質、糖質を消化する酵素を生成し、十二指腸に出す働きです。食べ物の消化や栄養の吸収をサポートします。
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内分泌機能
内分泌機能とは、膵臓から血管内へインスリンやグルカゴンなどのホルモンを分泌する機能を指します。これらのホルモンには、血糖値や消化液の量を調節する働きがあるのです。
膵臓に関連する疾患には急性膵炎や慢性膵炎、慢性膵炎からつながる糖尿病、また膵のう胞などが存在しています。
急性膵炎の症状としては、おへその上あたりや背中側の激しい痛みが特徴的です。重症の場合は命に関わることもあります。
慢性膵炎になると急性膵炎の症状のほか、体重の減少、食欲低下や倦怠感が起こりやすくなります。また、インスリンの分泌機能が低下することにより、糖尿病にもつながりやすいです。
膵のう胞とは、膵臓内や周りにできる「液体の溜まり」を指します。それ自体に症状はなく、エコーなどで見つかることが多い病気です。
膵臓に関わりのある検査項目には、アミラーゼ、エラスターゼ1、リパーゼなどがあります。
沈黙の臓器は定期的に検査をしておきましょう
肝臓・腎臓・膵臓などは、症状を自覚したときには病気が進行しているケースが多いため「沈黙の臓器」と呼ばれる臓器です。なかでも、膵臓は病気が見つかりにくいため「暗黒大陸」と呼ばれることもあります。
健康診断の結果はもちろん、人間ドックなどで何か病気の兆候がないか定期的に検査をすることが安心につながります。今回お伝えした3つの臓器は特に注意し、健康的な日々を送りましょう。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。