1.栄養失調について
そもそも栄養失調とは、どのような状態を指すのでしょうか。
栄養失調は、「栄養素の摂取が不十分または不均衡であるため、栄養上の欠点がある状態」と定義されています。
一般的にはやせている人に関連すると想像する人も多いでしょう。しかし、現代においては過体重や肥満の人にも起こり得るとされています。
また、近年の日本においては、特に女性の栄養失調が問題視されています。
これは食事制限によるダイエットや、食生活の偏りなどが原因で、体に必要なカロリーだけでなくビタミン・ミネラル・タンパク質などが不足するためです。
このような状態は「新型栄養失調」とも呼ばれていて、もともとは高齢者に多かったのですが、現在では若い女性にも見られます。
2.栄養失調が引き起こす体の変化
栄養失調になるとどのような変化が体に現れるのでしょうか。低栄養と、脱水にともなう体の変化に分けて解説します。
2-1.低栄養や栄養の偏りで現れやすい体の変化
毎日食事をとっていても栄養が不足していたり、偏りがあったりすることによる影響は、以下のようなものがあります。
褥瘡とは、床ずれのことです。長時間同じ姿勢でいることで、皮膚が圧迫されて炎症を起こします。深い褥瘡はなかなか治癒が難しいため、栄養状態を改善することも大切といえるでしょう。
2-2.脱水にともない現れやすい体の変化
食事量が少ないと水分の摂取量も減少するため、脱水にともなう体の変化が見られる場合もあります。脱水による体の変化は以下のとおりです。
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・食欲が低下する
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・口の中が乾く
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・皮膚が乾燥し、弾力がなくなる
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・唾液に粘りがある
上記のような体の変化は、脱水と低栄養どちらでも見られます。
3.栄養失調が体におよぼす影響
ここからは、栄養失調になると高齢者と女性の体にどのようなリスクがあるのかを解説します。
3-1.高齢者の場合
高齢者の場合、栄養の不足は健康障害に直接つながるため注意が必要です。
低栄養になると感染症や褥瘡・傷などの治りが遅くなり、骨格筋が萎縮しやすくなります。
また、筋肉量や骨量が減少しやすく、転倒や骨折リスクも上がります。一度骨折すると治りが遅いため、活動量が低下しさらに筋肉量が減り「サルコペニア」のリスクが増加する悪循環に陥るのです。
サルコペニアとは筋肉量や筋力が低下した状態であり、疲れやすくなったり、活動量が低下したりします。そうすると食欲も低下するため、さらに低栄養を招くのです。このような状態が続けば介護が必要となる状態につながり、体と心が衰えた「フレイル」という状態も進行しやすくなります。
高齢で寝たきりの人は、タンパク質とエネルギーが不足している場合が多いため、これらを十分に摂る工夫が必要でしょう。
3-2.女性の場合
特に若い女性はやせる必要がないのに、極端に偏った食事によるダイエットを繰り返す人が多いといわれています。女性が栄養不足でやせ過ぎると健康問題のリスクが高まり、出産後の子どもの健康にも悪影響をおよぼす可能性があるのです。
例えば、食事の偏りによって鉄欠乏になると貧血を招き、だるさや疲れやすさにつながります。無理な食事制限によるダイエットは栄養不足の原因にもなるため、バランスの取れた食事をとるよう心がけましょう。
また、日本においては低出生体重児が増えており、その要因の一つとして妊娠中の体重増加不足が挙げられています。
生まれたときに体重が少ない子どもは、エネルギーをため込みやすく、成長すると生活習慣病にかかるリスクが高まると考えられています。そのため、妊娠前から適正体重の維持やバランスの取れた食生活を心がけることが大切です。
栄養失調を防ぐために、バランスの良い食事を心がけてましょう
栄養失調はやせている人だけでなく、過体重の人にも起こり得るといわれています。
また、現代においては偏った食生活によって必要な栄養素が摂れていない「新型栄養失調」が問題視されています。
体に必要な栄養が不足すると、特に高齢者は筋肉量の低下によりサルコペニアやフレイルのリスクを高めてしまうため注意が必要です。また、女性の低栄養は、本人だけでなく出産する子どもの健康に影響をおよぼす可能性があります。
栄養失調を予防するためには、日頃から偏った食生活ではないか見直し、バランスの良い食事を心がけましょう。
監修者情報
氏名:高橋健太郎(たかはし・けんたろう)
循環器内科医として臨床に関わりながら、心血管疾患のメカニズムを解明するために基礎研究に従事。現在はアメリカで生活習慣病が心血管疾患の発症に及ぼす影響や心血管疾患の新しい治療法の開発に取り組んでいる。国内・海外での学会発表や論文報告は多数。
日本内科学会認定内科医、日本循環器学会所属。