1.水分補給の重要性
私たちの体を構成する物質のうち、最も多くの割合を占めているのが「水」です。この水を毎日補給する重要性について、解説します。
1-1.水分補給の重要性について
成人の体のおよそ60%は、水分で作られています。この水分は、栄養素や代謝物を運んだり、体温調節をしたりと、生きるために重要な役割を担っているのです。
水は、おもに脳や腸・肝臓・腎臓・筋肉などに多く存在し、その含有率は約80%となっています。一方で、皮下などの脂肪組織は中性脂肪が多く、水分含有率はおよそ33%ほどです。したがって、太っている人は痩せている人に比べて、体重に対して体内の水分量が少ない傾向があります。
また、高齢者は実質的な細胞数が年齢を重ねるにつれて減るため、若年層と比べて50%ほどと水分量は少なめです。
水分補給をせずに必要以上に水分が失われると、体は異常を来たし、最悪の場合死に至ります。
【脱水の程度と症状】
脱水の程度 |
症状 |
体重の2%以上 |
精神不安定 体温上昇 |
体重の5%以上 |
脱水症状 熱中症 |
体重の10%以上 |
筋肉けいれん 腎機能消失 |
体重の20%ほど |
生命維持困難 |
参照:全国健康保険協会「体の水の働き」
このように、水分補給は健康と生命を維持するうえで欠かせません。
1-2.水分の一日の摂取目安量
厚生労働省の資料によると、日本人が一日に摂取すべき水分の目安量(食べ物に含まれる水分も含む)は、2.5Lです。一方で、特別な運動などをしなくても毎日2.5Lもの水分が失われているため、私たちの体は水分の供給と排泄の均衡のためにはそれだけ必要ということでもあります。
供給する水分2.5Lの内訳は、次のとおりです。
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・食事で摂取する水分:約1.0L
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・体内で代謝によって作られる水分:約0.3L
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・飲んで補給する水分:約1.2L
なお、これはあくまで安静時の目安量です。活動量が多い場合や気温が高くて発汗量が多い場合などは、もっと水分摂取量を増やさないと水分不足になるので注意しましょう。
2.水の飲み過ぎには注意が必要
水を過剰に飲みすぎると、最悪の場合には命に関わります。体内に大量の水分が入ると、水分を腎臓で処理しきれなくなり、電解質のバランスが乱れるのです。そうすると、希釈性低ナトリウム血症を招き、以下のような症状が現れます。
【多飲により生じる希釈性低ナトリウム血症の症状】
症状の程度 |
症状 |
軽症 |
疲労感 頭痛 嘔吐 浮腫 など |
重症 |
脳浮腫によるけいれん 錯乱 意識障害 肺水腫 など |
参照:公益財団法人福岡県薬剤師会「質疑応答」
3.水分補給のポイント
「のどが渇いた」と感じた時点で、すでに体内は水分不足の状態です。特に、高齢になると、のどの渇きを感じにくくなるため、のどの渇きを感じる前に水分補給を意識的に行なうことが大切です。
以下のポイントを意識して、水分補給してみましょう。
3-1.水分はこまめに飲みましょう
200mlほど(コップ1杯)の水を、一日6~8回に分けて飲むのがおすすめです。起床後・朝~夕食・休憩中・入浴前後・寝る前などに、意識的に飲むと目安量をクリアできます。
3-2.水分補給は、水・麦茶・黒豆茶などがおすすめ
水分補給は、水・麦茶・黒豆茶などがよいでしょう。カフェインを多く含むコーヒーや紅茶などには利尿作用があり、水分補給には適さないので注意しましょう。
3-3.熱中症・脱水症予防にはスポーツ飲料・経口補水液がおすすめ
スポーツ飲料や経口補水液は糖質のほか、ナトリウムやカリウムといった電解質の濃度が高いため、熱中症・脱水症の予防に適しています。
3-4.甘い飲み物は控えましょう
水分補給に甘い飲み物は適していません。毎日甘い飲み物を飲んでいると、肥満や高血糖を招くリスクがあるため、常飲せずに味を楽しむ嗜好品として飲みましょう。
最近は、炭酸飲料などでも糖分の少ないタイプや、無糖のタイプも多くなっています。そのため、パッケージで栄養成分表示を確認して選ぶのがおすすめです。
水分補給は適量を心がけましょう
水は、私たちが生きていくうえで必要不可欠なものです。食べ物がなくても、水さえあれば1カ月間程度は命をつなぐことができます。水のエネルギー量は0kcalですが、体にとって非常に重要な役割を果たしているのです。
とはいえ、水を過剰に飲み過ぎるのは避けましょう。水を飲み過ぎると体内の電解質バランスが崩れ、最悪の場合には命の危機に関わりかねません。
水の摂取目安量は、食べ物からの摂取も含めて2.5L程度、このうち飲み物からの水分補給は1.2L程度です。水分補給を行なう際は、今回紹介したポイントを参考に、適切な水分補給を心がけましょう。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。