1.そもそも疲労とは?
疲労とは、病気などさまざまな原因によって、身体活動能力が一時的に低下した状態のことです。代表的な原因としては、ストレスが挙げられます。
疲労は肉体的な負担だけでなく、精神的な活動によっても起こりうるものです。つまり、肉体と精神のどちらか一方にでも負担がかかることで、疲労が引き起こされているといえるでしょう。
なお、疲労が引き起こされる直接的な要因が肉体的負担・精神的負担のどちらであっても、活性酸素による酸化ストレスが関係していると考えられています。活性酸素とは、呼吸によって取り込まれた酸素の一部が活性化されたもので、過剰に産生されると細胞傷害をもたらします。
疲労の蓄積によってみられるおもな症状は、次のとおりです。
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・注意力の低下
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・関節や足などの痛み
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・めまいや冷や汗などの自律神経症状
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・異常な眠気
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・免疫力が低下し感染症にかかりやすくなる
疲労が強くたまっている方ほど、これらの症状が強く出る傾向があります。
2.疲労回復に必要な睡眠や食事、生活習慣について
私たちが疲労を感じるのは、自分自身の体を守るためです。
疲労は、生まれ持った防御反応の一つだといわれています。もしも、疲労を感じることがなければ、際限なく活動を続けて体を傷め続けるかもしれません。そうならないために、疲労を感じるようになっているのです。
とはいえ、疲労が蓄積したまま日々を過ごすのはつらいものです。毎日を快適に過ごすために、疲労回復の方法をいくつか見ていきましょう。
2-1.睡眠
睡眠は、疲労を回復するうえでとても重要なものです。しっかりとした睡眠を取ることで、脳の疲労回復にもつながります。
脳の重さは体重のわずか2%ほどしかありませんが、消費しているエネルギーは体全体の約20%にもおよぶのです。
睡眠を取らない状態が続くと、エネルギー源として使っているブドウ糖をうまく使えなくなることがわかっています。ブドウ糖(エネルギー)を使えないということは、脳がしっかり働かないということです。
疲労回復のためには、睡眠時間をしっかり確保することが大事だということがわかるでしょう。
しかし、ただ睡眠を取れば良いわけではありません。十分な睡眠時間を確保することももちろん大切ですが、質の良い睡眠を取ることも重要です。睡眠の質に関わっている自律神経の働きが乱れていると、良い睡眠は取れません。
慢性疲労症候群の方は、本来なら睡眠中に活動が活発になるはずの副交感神経が、通常より働いていないことがわかっています。翌朝に疲れが残らない程度に睡眠時間を取り、さらに副交感神経がしっかり働くような質の高い睡眠を取ることが疲労回復には大切です。
質の高い睡眠を取るためには、メラトニンの分泌に着目した生活を送ってみましょう。メラトニンは、体内時計ホルモンとも呼ばれる物質で、入眠を促す働きがあります。部屋を明るくしているとメラトニンの分泌が妨げられるため、寝るときは部屋の電気を消し、スマートフォンなどの光はできるだけ見ないようにすることがポイントです。
2-2.食事
疲労回復に役立つ栄養素としては、炭水化物が知られています。炭水化物は、米・パン・麺類・いも類などに豊富に含まれている栄養素です。炭水化物が消化吸収されてブドウ糖になると、おもに筋肉中に存在するグリコーゲンとなり、エネルギー源として使われます。
グリコーゲンとは、筋肉に蓄えられている糖の一種です。グリコーゲンが多く蓄えられていれば体を長時間動かすこともできるため、疲労を感じ始めるのも遅くなるといわれています。
炭水化物以外には、肉や魚などのたんぱく質をとることも大切です。たんぱく質を一緒にとることで、グリコーゲンの蓄積量が多くなるといわれています。
その他、次のような栄養素も疲労回復に効果的です。
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ビタミンB1
炭水化物からエネルギーを作るために必要となります。どれだけ炭水化物を食べてもビタミンB1が不足しているとエネルギーが作られないため、とても大切な栄養素です。
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α-リポ酸
ビタミンB1と働くことで、炭水化物からエネルギーを作り出します。抗酸化作用があることも特徴です。
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L-カルニチン
脂肪からエネルギーを作り出すために必要な栄養素です。エネルギーを作っている工場である、ミトコンドリアの働きと密接な関係があります。
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クエン酸
エネルギーを作り出すクエン酸回路に必要な栄養素です。クエン酸回路の動きをスムーズにすることで、エネルギーを効率良く作ります。
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コエンザイムQ10
クエン酸回路でエネルギーを作るために必要な栄養素です。抗酸化作用も持っています。
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イミダゾールジペプチド
強い抗酸化作用と、疲労を軽減する効果がある栄養素です。渡り鳥が長時間にわたって飛び続ける際に必要になるものとして知られています。
2-3.生活習慣
疲労を回復するためには、規則正しい生活と習慣的な運動、そして入浴が大切です。しっかりと睡眠を取って疲労を回復させるためにも、できるだけ規則正しい時間に寝るようにしましょう。
また、運動をすることも大切です。運動習慣がある方は、不眠が少ない傾向にあることがわかっています。ただし、激しい運動はかえって睡眠を妨げてしまうため、毎日続けられるようなほど良い負荷がかかる運動を習慣にしてみてください。
その他、入浴も疲労回復に効果があります。寝る2~3時間前に熱めの温度のお湯につかって体温を上げることで、深い睡眠を取りやすくなるのです。
疲労回復には食事だけでなく質の良い睡眠や適度な運動を
疲労とは、病気などさまざまな原因によって、身体活動能力が一時的に低下した状態のことです。疲労の根本的な原因を解決することで、疲労回復につながり身体活動能力は元に戻ります。
疲労を回復させるためには、しっかりと睡眠を取ること、炭水化物やビタミンB1などをとること、そして規則正しい睡眠や運動が大切です。
日頃の生活習慣を少し意識するだけでも、疲労回復につながります。疲れをため込まないよう、取り組みやすいことから始めてみてください。
監修者情報
氏名:梅村 将成(うめむら・まさなり)
外科医として地方中核病院に勤務中。
消化器外科のみならず総合診療医として、がん治療(手術・抗がん剤・緩和治療/看取り)を中心に、幅広く内科疾患・救急疾患の診療を行なっている。
資格:医師免許・外科専門医・腹部救急認定医