1.そもそも免疫力とは?
免疫力とは、“病気(疫)を免れる力”です。免疫は、一度感染した病気に対して、再び感染することのないように抵抗する生体反応をいいます。
体内に異物(ウイルス・病源体など)が侵入すると、体の免疫システムが働き体を防御します。また、体内で発生した有害な細胞に対しても免疫システムが働き、体を守ります。
免疫系は、以下「自然免疫」と「獲得免疫」の2つが担っています。
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自然免疫
体内に侵入してきた病源体(細菌・ウイルスなど)をいち早く見つけ出し、それぞれが共通して持っている物質を認識し、攻撃するのが「自然免疫」です。白血球(好中球・マクロファージなど)が、これらの病原体を排除することで、私たちの体を守っています。
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獲得免疫
体内に病源体(抗原)が侵入すると、それに対する攻撃力を持つ武器(抗体など)が作られます。この武器の役割を担っているのが「獲得免疫」です。自然免疫とは異なり、特定の微生物に対して攻撃力を発揮します。
ただし、抗体を作るのに時間が必要です。そのため、自然免疫と比較すると、効力を発揮するまで時間がかかります。
一部の獲得免疫は、過去に生じた免疫反応の特徴を記憶することができます。これにより、再度、同じ抗原が体内に侵入したときには、迅速かつ強力に病原菌を排除して体を守ります。この働きを応用したのが、予防接種です。
2.免疫力が低下した場合のおもな症状
免疫力は加齢により低下していきます。加齢による免疫機能の低下は、自然免疫よりも獲得免疫のほうが顕著に表れます。獲得免疫の能力は20代を過ぎると低下し、40代になると半分になるのです。
免疫力が低下すると、以下のような症状が現れます。
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・細菌やウイルスに感染しやすくなる
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・口内炎やものもらいがよくできる
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・のどが腫れやすい
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・病気やケガが治りにくくなる
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・抗生物質の効き目が悪くなる
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・自己免疫疾患が発症しやすくなる
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・予防接種の効き目が悪くなる
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・活動するのが億劫になる
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・疲れやすくなる・だるい
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・食欲の低下
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・肌が荒れやすい
3.免疫力が低下する原因とは
免疫力を低下させるおもな原因は、以下のとおりです。当てはまる項目を減らす努力をして、免疫力を保ちましょう。
3-1.食生活の乱れ
食生活が乱れると、免疫力の維持に必要な栄養成分が不足しがちです。また、高脂肪の食事に偏ると免疫の働きが低下します。
3-2.睡眠不足
免疫細胞は夜寝ているときに作られるため、睡眠不足は免疫力低下に直結します。
3-3.運動不足
運動不足は体力や筋力の低下を招き、免疫力の低下につながります。
3-4.ストレス
人の脳はストレスを感じると、免疫系から免疫の働きを抑える物質が放出され、免疫力が低下します。
3-5.環境ホルモン
大気中には、化学物質や農薬など免疫に悪影響をおよぼすものが多く存在します。
3-6.喫煙
有害物質を呼吸器に入れている状態になるため、免疫機能低下につながります。
3-7.冷え
冷えは自律神経の乱れを引き起こし、免疫力を低下させるおそれがあるでしょう。
3-8.加齢
加齢によって体全体の機能が衰えると、免疫機能を作り出す働きや、皮膚などのバリア機能が低下します。
免疫系は、さまざまな細胞によって成り立っています。なかでも主要な働きをする「T細胞」は胸腺という組織から作られますが、胸腺は20歳をピークに急激に萎縮します。そのため、T細胞が作り出される量が減り、最終的にはすでに体内にある免疫だけで体を守っていく状態になるのです。
4.免疫力を高める方法
免疫力が高まると、免疫システムがスムーズに働き、病原体に対する抵抗力を維持します。免疫力を高めるためには、「規則正しい生活習慣」がカギとなります。以下の点を心がけることで、免疫力アップにつながるでしょう。
4-1.栄養バランスの良い食事を摂り、腸内環境を整える
「一汁三菜」を基本とした和食にすると、栄養バランスが整いやすくなります。一汁三菜とは、「ごはん・汁物・3つのおかず(菜)」をそろえた食事のことです。しかし、塩分が過剰になるため、汁物は一日1杯にしましょう。その他、牛乳をコップ1~2杯/日、果物を握りこぶし1個分程度/日を摂るのが理想です。
免疫細胞の約60%は腸内に集まっています。発酵食品や野菜などを積極的に摂りましょう。
4-2.適度な運動を習慣化する
無理のない程度の軽いジョギングやウォーキングがおすすめです。適度な運動は体を活性化させ、感染症予防に効果的だといわれています。
一方で、過度な運動は体にストレスを与え、免疫力を低下させることがあるため、要注意です。筋力と体力維持のためにも、無理のない運動を習慣化させましょう。
4-3.ストレスを溜めない
免疫力は、ストレスによって低下します。ストレスと密接に関わっているのが自律神経です。自律神経は、交感神経と副交感神経の2つから成り立っています。
ストレスを感じているときは、交感神経が優位な状態です。交感神経が優位になると、血管の収縮を招き、酸素と栄養がスムーズに供給できなくなります。その結果、免疫システムがうまく機能しなくなるのです。
反対に、心身がリラックスした状態のときは副交感神経が優位になっており、免疫システムが正しく機能しやすくなります。ストレスを溜めないよう、心が解放されるような楽しいことをしましょう。
4-4.十分な睡眠をとる
免疫システムを正常に維持するためには、十分な睡眠が大切です。睡眠(休息)は、体をリラックスさせて副交感神経を優位にし、正常な免疫システムを維持します。
風邪をひいたときに体がだるくなったり眠くなったりするのは、体内で免疫システムが働いて病源体と戦うことで起こる変化です。
免疫システムは、感染の原因となる病原体と戦うときに「サイトカイン」という物質を出します。サイトカインは、病源体を撃退するために働くとともに、脳に働きかけて眠気を引き起こすのです。
そのため、十分な睡眠(休養)で心身を休ませると、免疫システムの働きを後押しすることにつながります。
規則正しい生活と腸に優しい食事で免疫力の低下を防ぎましょう
免疫力は、自分自身病原体から守る防御システムです。免疫力は加齢や生活習慣・環境によって低下してしまいます。しかし、日々の過ごし方を改善することで、免疫力を上げることも可能です。
栄養バランスの良い食事・適度な運動・十分な睡眠・ストレスを溜めないなど、日々の心がけで、いくつになってからでも鍛えることができます。
また、腸は免疫細胞の約60%が集まっている人体で最大の免疫器官です。日頃から腸の調子を整えておくことが、健康への近道になります。
規則正しい生活と腸に優しい食生活で、イキイキと過ごしましょう。
監修者情報
氏名:高橋健太郎(たかはし・けんたろう)
循環器内科医として臨床に関わりながら、心血管疾患のメカニズムを解明するために基礎研究に従事。現在はアメリカで生活習慣病が心血管疾患の発症に及ぼす影響や心血管疾患の新しい治療法の開発に取り組んでいる。国内・海外での学会発表や論文報告は多数。
日本内科学会認定内科医、日本循環器学会所属。