1.筋力とは
筋力の定義や筋力が上がるメカニズムについて、詳しく説明します。
1-1.筋力の定義
筋肉により発揮される力のことを筋力と呼びます。
筋肉の性質に着目して説明すると、高負荷の筋力トレーニングで鍛えられるのは主に「速筋」と呼ばれる筋肉です。速筋はパワーが高いものの、持久力がなく疲れやすい特徴があります。一般的に、筋力は一度に発揮できる最大筋力をもとに計測するため、「速筋が発揮する力=筋力」だと考えられるでしょう。
ちなみに、有酸素運動のように軽く継続的な負荷で鍛えられる筋肉は「遅筋」と呼ばれ、速筋とは対照的にパワーは低いものの、耐久力が高い特徴があります。
したがって、以降では速筋に注目して説明を行ないます。
1-2.筋力が上がるメカニズム
筋力は、高負荷の筋力トレーニング後に起こる「超回復」によって上がります。
超回復とは、筋肉に負荷をかける運動を行なうことで筋繊維の一部が壊れ、その後2~3日かけて筋肉が回復し、壊れる前よりも大きい状態になる現象のことです。
高負荷のトレーニングと超回復を繰り返すことで筋肉は次第に大きくなり、それにともなって筋力も上がります。
2.筋力を高めるメリット
筋力を高めるメリットとしておもなものは、サルコペニアの予防、QOL(生活の質)の維持や向上、肥満をはじめとする生活習慣病の予防に役立つことの3つです。それぞれのメリットについて詳しく説明します。
2-1.サルコペニアの予防
サルコペニア(ギリシャ語:サルコ=筋肉、ペニア=喪失)とは老化現象の一つで、25~30歳頃から少しずつ筋力低下が起こる現象のことです。
2-2.QOL(生活の質)の維持・向上
筋力低下により体が動かせなくなると、生活が制限されてQOL(生活の質)の低下につながります。筋力低下で起こるロコモティブシンドロームの対策のためにも、筋力の維持・向上は重要です。
特に、脚の筋肉を鍛えると、他の部位を動かしやすくすることや血液循環のサポートにもつながるため、QOL(生活の質)の維持や向上に役立つと考えられるでしょう。
2-3.肥満をはじめとする生活習慣病の予防
食事のとりすぎなどで摂取量が運動量を上回ると肥満になりやすくなり、高血圧といった生活習慣病になるリスクが上がります。
普段から運動を取り入れて筋力を高め、基礎代謝(何もしていなくても消費される生命維持に必要なエネルギー量)を高めることが肥満の対策につながるでしょう。
3.筋力を維持・向上させる方法
ここでは筋力の維持や向上のためにできることを説明します。
日常の動作を少し工夫したり、普段の食事で気を付けたりするなど、手軽に始められる具体的な方法を紹介します。
3-1.筋力を高めるトレーニング
筋力を高めるには有酸素運動ではなく、速筋を鍛える筋力トレーニングがおすすめです。また、トレーニング時は動作をゆっくりと行い、筋肉の緊張を保つことを心がけてください。
3-2.階段を使う、移動で体を使う、普段からテキパキ動く
日常生活で筋肉への負荷を高めることにより、不足した活動量を補うことができます。普段から体のエネルギーを節約しないように心がけ、できるだけ階段を使ったり、自転車や徒歩で移動したりするとよいでしょう。
また、普段からテキパキ動くようにすることも有効な手段です。動作一つひとつに消費するエネルギー量は小さなものですが、長期間にわたって継続できれば結果的に多くのエネルギーを消費することになると考えられます。
3-3.食事ではタンパク質や分岐鎖アミノ酸をとる
筋肉を作るうえでは、十分な栄養素の摂取が必要です。なかでも、筋肉の構成成分であるタンパク質や分岐鎖アミノ酸をとることが重要になります。
タンパク質や分岐鎖アミノ酸は、鮭、鯖、まぐろ(赤身)、鶏肉(もも)、豚肉(ロース)、卵、納豆などに含まれています。
もちろん、食事全体の栄養バランスを取れていることが前提ですが、より筋肉のことを考えるなら、タンパク質や分岐鎖アミノ酸を積極的にとりましょう。
できる範囲から筋力アップを行ない、健康を維持しましょう
運動や筋力トレーニングの重要性を理解していても、いざ行うとなったら腰が重くてできない人は多少なりともいることでしょう。
筋力を高めるには、必ずしも最初から負荷の高いトレーニングや長時間のジョギングをしなければならないわけではありません。日常生活の小さな工夫から、筋肉に負荷を与えることは可能です。
運動の習慣がない人がいきなり激しい運動をすると怪我につながることもあるので、まずはできる範囲から筋力アップを始めてみましょう。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。