歩行能力とは?
低下による影響と維持する方法について詳しく解説

年齢を重ねるにつれ、歩幅が小さくなったり、歩く速度が遅くなったり感じることもあるでしょう。
しっかり歩くための歩行能力が低下すると、転倒リスクにつながります。特に高齢者は、転倒することで骨折や重大な後遺症が残る可能性があるでしょう。

この記事では、歩行能力の低下による影響と維持する方法について解説します。

1.歩行能力とは

まず、歩行能力について詳しく解説します。

歩行能力とは、立位の状態から継続的に歩行可能かどうかの能力です。
正常な歩行能力の判断基準は、歩き始めてから立ち止まったり座ったりせずに、約5m歩けるかが目安になります。

歩行能力が低下すると、次のような影響が出ます。

  • ・歩行速度が遅くなる

  • ・歩幅が小さくなる

  • ・歩くリズムが乱れる

歩行能力が低下すると、転倒リスクにつながります。

一つのデータとして次のようなものが報告されています。
65歳以上では、5人に1人が転倒を経験するとされ、年齢が高くなるにつれ転倒率は高い傾向にあるというものです。

転倒によるリスクは、高齢者にとって重大です。高齢者が転倒した場合、5~10%の方が骨折、約5%は骨折以外の重大な怪我を負う可能性があるといわれています。

特に、股の付け根部分にある大腿骨頚部骨折は、90%以上が転倒によるものとされています。さらに骨折によって安静にする期間が続くと、骨折が治っても以前のように歩けなくなる可能性もあるでしょう。
例えば、車いすが必要になったり、寝たきりになったりするケースもあります。

2.歩行能力の低下を引き起こす原因

ここでは、歩行能力が低下するおもな原因について解説します。

2-1.筋力の低下

歩行能力が低下する原因は、筋力の低下が考えられます。足腰の筋力が低下すると、転倒するリスクが高まるでしょう。
また、全身の筋力を表す目安である握力の低下も、転倒と関係があるとされています。

2-2.バランス能力の低下

バランス能力は、歩行能力と強く関係しており重要なポイントです。バランスを崩したりふらついたりしたときに、転倒することが多いとされています。またバランス能力には、足腰の筋力だけでなく関節のやわらかさも必要です。
片足立ちやつぎ足歩行、手のばし試験などを行うことで、バランス能力をチェックできます。

2-3.視力や聴力の低下

加齢の影響で視力や聴力が低下すると、そこから得られる情報量が少なくなるため、歩行能力に悪影響を与えるでしょう。
視力は、障害物を見分けたり自分の体の位置や動きを把握したりします。また周囲の状況を知るために、聴力は大切な機能です。

2-4.病気の影響

歩行能力の低下によって、現在抱えている病気の症状にも影響を及ぼします。
例えば、痛みで力が入りにくい関節リウマチや変形性関節症、ふらつきにつながりやすい起立性低血圧などです。

3.歩行能力を維持する方法

歩行能力を維持するための方法について解説します。

3-1.治療を優先する

病気が原因の場合は、治療を優先しましょう。また視力や聴力の低下も、治療が必要になることがあります。場合によっては、メガネや補聴器を使うケースもあるでしょう。

3-2.筋肉を鍛える

歩行能力を維持するためには、立ったり歩いたりする日常動作を支える筋肉を鍛えましょう。具体的には、大腿四頭筋・腹筋群・大臀筋・背筋群の筋肉などです。

筋肉を構成する筋繊維は、加齢によって大きく減ることはありません。そのため、年齢を重ねていても筋力アップは可能です。筋力が落ちたと感じるのは、年齢のせいというよりも、運動不足によって筋繊維が細くなったことにあるといえるでしょう。

鍛えたい筋肉を意識しながら、ゆっくり動くことで筋力アップが期待できます。筋力アップのトレーニングは、継続的に行なうことが大切です。

運動したりジムに通ったりできない場合でも、習慣を少し変えるだけで筋肉を鍛えられます。例えば、普段あまり階段を使っていない人は、意識して階段を使いましょう。また、バスや車などの乗り物に乗らず、歩ける距離は積極的に歩くのも良いトレーニングになります。歩きやすい靴を履き、いつでも気軽にトレーニングできるようにするのも良いでしょう。

3-3.バランスの良い食事を摂る

歩行能力を維持するためには、普段の食事のバランスを整えて、しっかり栄養を摂りましょう。栄養が不足している場合、体の活動に必要なエネルギーをつくるために、筋肉や脂肪を分解します。筋肉や脂肪が分解されると、体重や筋肉量が減りさらに栄養が足りなくなるでしょう。
そのため、栄養不足の状態で筋肉を鍛えても、筋肉量を増やすことは困難です。

運動する前に、バランスの良い食事で栄養を蓄え、適度に運動しましょう。

歩行能力を維持し重大な怪我のリスクを抑えましょう

歩行能力の低下は、加齢による体の変化や病気など、さまざまな原因で引き起こされます。
また歩行能力が低下すると、転倒しやすくなり、特に高齢者は骨折や他の重大な怪我を負うリスクが高い傾向にあります。

歩行のために必要な筋力の低下は往々にして年齢のせいだと考えがちですが、実はそうではなく、運動不足によるものが大きいとされています。そのため、年齢を重ねていても、体に合ったトレーニングや、日常生活のなかで筋肉を鍛える機会をつくることで筋力アップが期待できるでしょう。

しかし、効果的な筋トレを行なうには十分な栄養摂取が不可欠です。日々の食事から栄養をバランス良く摂りつつ、筋力アップに努め、歩行能力を維持できるようにしていきましょう。

歩行能力が低下する原因を知り、早めに対策を行なうのがおすすめです。

監修者情報

氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。