1.抜毛症とは
抜毛症はトリコチロマニアとも呼ばれ、自分の毛を繰り返し抜いてしまって、毛が薄くなる状態です。
利き手側の髪の毛のほかに、まゆ毛やまつ毛などを抜いてしまう人もいます。毛を抜いた部分はきれいな円形ではなく、バラバラと毛が残っている状態です。
また、髪を無理やり引き抜くことで頭皮が赤くなって傷ついていることもあります。
抜毛症は、学童期の子どもや思春期の女性に多い症状です。抜毛症は一種のクセであることもありますが、ストレスが原因となっていることもあります。毛髪や頭皮自体の病気ではないため、抜毛行為さえやめれば、毛はもとどおりに生えてきます。
毛が抜けたことに対する皮膚治療を行なう必要はありませんが、円形脱毛症や頭部白癬(水虫)による脱毛と勘違いされることもあるため、注意が必要です。
2.抜毛症の原因
抜毛症への対処をするにはまず、なぜ抜毛行為が始まったのかを考えることが大切です。抜毛症の原因はストレスと考えられています。ストレスを我慢し、それから逃避するために抜毛行為が始まることもあります。
抜毛症になる人のなかには、おとなしく聞き分けの良いタイプが多く見受けられます。不安な気持ちや退屈な状況がきっかけとなり毛を抜いたところ、気持ちがやわらいでクセになってしまいます。
一方で、やめたくてもやめられないと思い悩み、強い苦痛を感じる場合もあります。その結果、人と関わることを避けがちになり、学校や会社など日常生活に支障をきたすパターンもあります。
抜毛症のストレスの多くは人間関係や環境変化です。家庭の問題が原因であることも多いようです。
10代から20代の若い世代では、心に受けたストレスがもととなり自分自身を傷つけることは少なくありません。自傷行為の一つとして毛を抜く人もいます。
こういった行動には、自分自身の体を傷つけることによって、心の苦しみをやわらげようする思いが潜んでいる場合があります。
寂しいという気持ちや他人よりも劣っているという思い、怒り、虚しさなどが抑えきれずに、自傷行為は行なわれがちです。行動はたびたび繰り返され、やがて常習化します。傷つける行動は一つだけではなく、いくつかのやり方や手段で行なうこともあります。
自傷行為を行なう人は、自己否定的で自尊心が低い人が多い傾向にあります。人によっては虐待がきっかけとなっているケースもあるようです。
3.抜毛行為をやめさせる方法
抜毛行為をやめさせるには、まず抜毛行為を叱らずにやさしく注意することが大切です。まずは周りの人が本人の気持ちを理解して、受け止めましょう。
頭ごなしに注意すると、余計に心に負担がかかり症状が悪くなるおそれもあります。抜毛行為が始まった原因を一緒にさぐり、「隣にいるよ」「一緒に治そうね」と患者本人を支える存在であることを伝えましょう。
自傷行為は、心がSOSを発しているサインです。抜毛症があらわれたときは、まずはゆっくりと本人の話を聞きましょう。抜毛症かそれ以外の病気かは、皮膚科医が診察をすれば判断できます。その際に、皮膚科医が患者と話すだけでも多くの抜毛症はおさまるものです。一方でなかなか抜毛行為が止まらないときは、精神科医などの専門家へ相談する場合もあります。
心の病気は誰にでも起こりえますし、自分自身では気付きにくいケースもあります。自分で気付いていても、心の病気だと思っていないパターンもあります。これまでになかったような行動が続いたり、生活するうえで問題が起こっていたりするときは、専門機関に早めに相談しましょう。
抜毛症を責めずに、まずは受け止めることから
抜毛症は皮膚の病気ではなく、自分の手で髪の毛やまゆ毛、まつ毛を抜いてしまう状態を指します。
抜毛症があらわれるのは子どもや思春期の女性に多く、ただのクセの場合もありますが、原因が精神的なストレスであるケースも多くあります。
抜毛症をやめさせるには、抜毛行為を責めるのではなく、まずは本人の心を受け止めることが大切です。周りの人間がやさしく接し、状況に合わせて皮膚科医や精神科医などの専門医への相談も検討しましょう。
抜毛症は心のSOSである場合があります。まずはゆっくりと話を聞いてあげることが大切です。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。