1.鉄分の役割
冒頭でも触れたとおり、鉄は人体に不可欠なミネラルの一種です。鉄は赤血球のヘモグロビンに多く含まれ、赤血球が全身に酸素を運搬する役割などに影響をあたえます。
また、鉄は筋肉のミオグロビンにも含まれ、筋肉中の酸素運搬などにも関わっている栄養素です。人体内の鉄のうち約7割が赤血球やミオグロビンに含まれ、残りは貯蔵鉄として骨髄や肝臓などに蓄えられています。
体内の鉄が足りなくなると、ヘモグロビンが減って赤血球数も減少し、貧血につながってしまいます。貧血のおもな症状は頭痛や息切れ、集中力の低下、食欲不振などです。また、鉄が足りないと筋肉中のミオグロビンも減り、筋力低下や疲労感が起こりやすくなるでしょう。
鉄の必要量は男女により異なり、さらに女性は月経による鉄不足や授乳中の需要増加の影響を大きく受けます。鉄は体内で作られないため、食品から摂取しなければなりません。なお、食品中の鉄には、「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。
ヘム鉄は肉や魚由来の鉄、非ヘム鉄は野菜などに含有される鉄です。ヘム鉄は非ヘム鉄よりも吸収されやすく、ヘム鉄を摂取すると非ヘム鉄の吸収も良くなるとされています。さらに、動物性たんぱく質やビタミンCも一緒に摂ると、鉄が吸収されやすくなるでしょう。
2.鉄分を多く含む食べ物と摂取量の目安
鉄分豊富な食品や摂取目安量を解説します。
2-1.鉄分の一日摂取量の目安
一日に摂取する鉄分の目安を、性別・年代別に紹介します。
鉄の食事摂取基準(mg/日)
性別 |
男性 |
女性 |
年齢など |
推定平均必要量 |
推奨量 |
目安量 |
耐容上限量 |
月経なし |
月経あり |
目安量 |
耐容上限量 |
推定平均必要量 |
推奨量 |
推定平均必要量 |
推奨量 |
0 ~ 5 (月) |
– |
– |
0.5 |
– |
– |
– |
– |
– |
0.5 |
– |
6 ~11(月) |
3.5 |
5.0 |
– |
– |
3.5 |
4.5 |
– |
– |
– |
– |
1 ~ 2 (歳) |
3.0 |
4.5 |
– |
25 |
3.0 |
4.5 |
– |
– |
– |
20 |
3 ~ 5 (歳) |
4.0 |
5.5 |
– |
25 |
4.0 |
5.5 |
– |
– |
– |
25 |
6 ~ 7 (歳) |
5.0 |
5.5 |
– |
30 |
4.5 |
5.5 |
– |
– |
– |
30 |
8 ~ 9 (歳) |
6.0 |
7.0 |
– |
35 |
6.0 |
7.5 |
– |
– |
– |
35 |
10~11(歳) |
7.0 |
8.5 |
– |
35 |
7.0 |
8.5 |
10.0 |
12.0 |
– |
35 |
12~14(歳) |
8.0 |
10.0 |
– |
40 |
7.0 |
8.5 |
10.0 |
12.0 |
– |
40 |
15~17(歳) |
8.0 |
10.0 |
– |
50 |
5.5 |
7.0 |
8.5 |
10.5 |
– |
40 |
18~29(歳) |
6.5 |
7.5 |
– |
50 |
5.5 |
6.5 |
8.5 |
10.5 |
– |
40 |
30~49(歳) |
6.5 |
7.5 |
– |
50 |
5.5 |
6.5 |
9.0 |
10.5 |
– |
40 |
50~64(歳) |
6.5 |
7.5 |
– |
50 |
5.5 |
6.5 |
9.0 |
11.0 |
– |
40 |
65~74(歳) |
6.0 |
7.5 |
– |
50 |
5.0 |
6.0 |
– |
– |
– |
40 |
75 以上(歳) |
6.0 |
7.0 |
– |
50 |
5.0 |
6.0 |
– |
– |
– |
40 |
妊婦(付加量) 初期 中期・後期 |
|
+2.0 +8.0 |
+2.5 +9.5 |
– |
– |
– |
– |
授乳婦(付加量) |
+2.0 |
+2.5 |
– |
– |
– |
– |
※1歳未満は目安量
※推奨量:ある性・年齢階級に属する人々のほとんど(97~98%)が1日の必要量を満たすと推定される1日の摂取量
※目安量:推定平均必要量・推奨量を算定するのに十分な科学的根拠が得られない場合に、ある性・年齢階級に属する人々が、良好な栄養状態を維持するのに十分な量
※上限量:ある性・年齢階級に属するほとんどすべての人々が、過剰摂取による健康障害を起こすことのない栄養素摂取量の最大限の量
引用:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
2-2.鉄分を多く含む食品
鉄分が豊富な食品の例は、以下のとおりです。こういった食品を、日頃から意識して摂取するとよいでしょう。
食品名 |
食品100gあたりの鉄(mg) |
ひじき(乾燥) |
58.2mg |
きくらげ(乾燥) |
35.2mg |
あさり水煮 |
29.7mg |
カレー粉 |
28.5mg |
パセリ(乾燥) |
17.5mg |
干しエビ |
15.1mg |
こしょう(粉) |
13.7㎎ |
いりゴマ |
9.9㎎ |
小松菜(生) |
2.8mg |
枝豆(ゆで) |
2.5mg |
グリーンピース(ゆで) |
2.2mg |
ブロッコリー(生) |
1.3㎎ |
参考:文部科学省「食品成分データベース」
3.鉄分がたっぷり摂れる野菜をメインとしたレシピ
ここでは、鉄分豊富な野菜をメインにしたレシピを2品紹介します。
3-1.枝豆と生ハムのマリネサラダ
枝豆・生ハムのうま味と、レモンの酸味が絶妙に絡み合ったサラダです。鉄分の吸収を助ける動物性たんぱく質とレモン由来のビタミンCも、一緒に摂取できます。
【材料】※作りやすい分量の目安
-
・枝豆 200g
-
・玉ねぎ 1/8個
-
・生ハム 20g
-
・塩 適量
【A】
-
・オリーブ油 大さじ1
-
・レモン汁 小さじ1
-
・塩 適量
-
・こしょう 適量
【作り方】
-
1.塩を入れた熱湯で枝豆をゆでて、粗熱が取れてからサヤから豆を取り出します。
-
2.玉ねぎをみじん切りにして水にさらし、生ハムを8mm角に切ります。
-
3.【A】をしっかりと混ぜます。
-
4.1と【A】、水気を切った玉ねぎと生ハムを加えたら、しっかり混ぜて10分置いて完成です。
3-2.小松菜のグリーンチキンペースト
鉄分豊富な小松菜を、おいしく食べられるチキンペーストです。レバーのようなくせがないので、食べやすいのもおすすめポイントです。
【材料】(2人分)
-
・小松菜 3本
-
・鶏胸肉 1/2枚
-
・水 200ml
-
・白ワイン 50ml
-
・塩 小さじ1/3
-
・長ねぎ 1/3本分
-
・しょうが(薄切り) 2枚
-
・バター 10g
-
・生クリーム 大さじ3
-
・すりおろしにんにく 1/2個分
-
・塩 ひとつまみ
-
・黒こしょう 少々
-
・バゲット(5mm幅) 10枚
-
・クラッカー 10枚
【作り方】
-
1.鶏胸肉に包丁で切込みを入れ、厚みを均一にして開きます。鍋に水、白ワイン、塩、長ねぎの青い部分、しょうがを加えて沸騰させ、鶏肉を入れましょう。再沸騰してからアクを取り、蓋をして弱めの中火で10分くらい加熱し、火を止めます。冷めるまで、蓋をしたまま置いておきます。
-
2.長ねぎの白い部分を小口切り、小松菜の緑の葉の部分をちぎり取ってザク切りにしましょう。フライパンでバターを温めて溶かし、長ねぎと小松菜の葉がしっとりするまで、中火で1~2分炒めます。
-
3.フードプロセッサーに2.とにんにく、生クリームを入れて拡販し、小松菜が細かくなったら全体をよく混ぜます。混ざったら、粗熱の取れた1.の鶏胸肉を一口サイズにちぎって加えてください。
-
4.3.を全体的になめらかになるまで撹拌したら、塩、こしょうで味を調えます。
-
5.バゲットをオーブントースターでカリッとするまで焼き、クラッカー、小松菜の茎とともにペーストに添えたらできあがり。
鉄分豊富な食べ物をおいしく食べよう
鉄分は、ヒトの健康に欠かせないミネラルの一種です。赤血球や筋肉などに含まれ、酸素を全身に運ぶ働きがあります。
鉄分が不足すると貧血につながり、集中力や食欲の低下といった症状を引き起こすことになります。また、鉄不足は筋力低下や疲労感につながることもあるでしょう。鉄分をはじめとするミネラルは体内で作られないため、不足しないように日々の食事から摂取することが大事です。
今回紹介したレシピなどで鉄分が豊富な食品をおいしく摂取し、鉄分不足を予防しましょう。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。