1.クロムとは
クロムは、動物や植物だけでなく、岩石や土壌、火山灰など自然界に幅広く存在する元素です。「三価クロム」「六価クロム」「金属クロム」に分類されています。
金属クロムや六価クロムは、ステレンス鋼の材料やメッキ、顔料などとして使用されているため、工業において重要な存在です。
三価クロムは肉類や魚介類、海藻などの幅広い食品に含まれ、不足すると、インスリン感受性の低下、体重減少などが引き起こされるといわれています。
しかし、その一方で通常の食生活であれば不足することほぼないともいわれています。
2.クロムのおもな働き
クロムは、人間の身体に対して重要な役割を果たしている栄養素です。ここでは、人間の身体におけるクロムの働きを紹介します。
2-1.血糖値のコントロール改善に期待できる
クロムには、インスリンの働きを増強する作用があると考えられています。
インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンの一種です。食後に血糖値が上昇することで分泌が促進され、細胞表面に存在するインスリン受容体に結合します。インスリン受容体に結合されると血中のブドウ糖が細胞内に取り込まれ、エネルギー源として活用されるので血糖値が低下します。
インスリンには、血糖値を低下させる作用だけでなく、余ったブドウ糖をグリコーゲンや中性脂肪として体内に蓄える作用もあるので、血糖値が高い状態が慢性的に続くと肥満などの原因になることもあるので注意が必要です。
クロムは、オリゴペプチドと結合することで、低分子量クロミウム結合物質が生成されます。低分子量クロミウム結合物質は、インスリン受容体に作用することでインスリン作用が増強されると考えられています。
2-2.血中の脂質の低下をサポートする働きがある
数多くの研究で、クロムの摂取状況と血中コレステロール代謝の間に関連性が示されています。しかし、総コレステロール値やLDLコレステロールには変化が見られないとされる解析もあるため、今後もクロムの作用に対するさらなる研究が必要です。
3.クロムを摂取する方法
体内に存在するクロムは微量であるため、通常の食事を摂っていれば不足することはありません。しかし、何らかの原因でクロムが不足すると、さまざまな健康上の問題が生じる可能性も考えられます。
3-1.クロム欠乏症になるとどのようなことが起きる?
通常の食事では不足することが少ないクロムですが、クロムをまったく含まない点滴による栄養摂取では欠乏し、上記のような症状が出現する可能性があるのです。しかし、塩化クロムを補給することで、症状は改善されると見られます。
3-2.クロムを過剰摂取すると大変?
クロムはインスリンをサポートする働きがあるとされるため、血糖値が気になる方やダイエット効果を期待する方などは摂取を検討することもあるでしょう。
しかし、クロムを過剰摂取して、健康被害が発生した事例が報告されています。クロムを過剰摂取すると、疲労感や筋肉のけいれん、低血糖などが生じる恐れがあるため、摂取量に注意しましょう。
万が一、体調変化を感じた場合は、使用を中止して医療機関を受診してください。
4.一日あたりのクロムの推奨摂取量
日本で推奨される一日あたりのクロム摂取量は、内閣府食品安全委員会によると18~69歳の男性で40μg/日、女性で30μg/日とされています。70歳以上では、摂取の推奨量もやや減少し、男性で35μg/日、女性で25μg/日です。
5.クロムを含む代表的な食品
クロムは、肉や穀物、野菜、ナッツ類、ビール、ワインなど多くの食品に含まれています。クロムや鉄などのミネラルを過不足なく摂取するためには、バランスの良い食事を摂ることが重要です。
食品中に含まれるクロム |
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ほしひじき |
240μg/kg |
さつまいも(塊根、生) |
20μg/kg |
ほうれん草(葉、生) |
20μg/kg |
大豆(全粒、国産、乾) |
30μg/kg |
さんま(生) |
20μg/kg |
アサリ(生) |
40μg/kg |
(文部科学省「日本食品標準成分表2010」をもとに作成)
クロムはさまざまな食品から摂取できるので、欠乏症にはなりにくい
クロムは、血糖値を下げるホルモンのインスリンの作用に重要な役割を果たしていると考えられているため、健康維持に必要な栄養素といわれています。
体内に存在するクロムの量は微量で、かつ、さまざまな食品から摂取できるので通常では欠乏症になる可能性は低いでしょう。ただし、偏った食事をしていると、クロムが不足するかもしれません。
適切な量を守ることで、サプリメントで効率良く摂取することも可能です。もしサプリメントを使用して体調に変化があれば、医療機関を受診することをおすすめします。
身体の健康を守るためにも、一度食生活を見直してクロムの摂取量を意識してみてはいかがでしょうか。
監修者情報
氏名:河村優子(かわむら・ゆうこ)
アンチエイジングをコンセプトに体の中と外から痩身、美容皮膚科をはじめとする様々な治療に取り組む医師。海外の再生医療を積極的に取り入れて、肌質改善などの治療を行ってきたことから、対症療法にとどまらない先端の統合医療を提供している。