1.高齢者の身体的特徴
年を重ねると、体内のそれぞれの器官を構成する細胞の数が減り、細胞そのものの機能が衰えていきます。
これらの生理的老化の進行が、臓器の働きを低下させる原因です。加齢にともなって、体には次のような変化が現れます。
変化が現れる場所 |
加齢による変化 |
見た目 |
白髪の増加、脱毛、しわ・しみ・たるみ |
感覚器 |
老眼・白内障・難聴・温度覚の鈍化 |
泌尿器系 |
頻尿、前立腺肥大(男性)、腹圧性尿失禁(女性) |
そのほか |
睡眠障害・更年期障害・免疫機能の低下 |
高齢になると、見た目でわかる老化だけでなく、体内の臓器の老化も進んでいきます。高齢者は外部環境の変化への適応力が低下し、複数の病気や症状になりやすい傾向にあります。その結果、さまざま病気にかかりやすく、また治りにくくなり「フレイル」という加齢による衰弱につながりかねません。フレイルは高齢者が要介護状態となる大きな原因の一つです。
また、筋力の低下などからADL能力が低下しやすいのも特徴です。ADLは、移動や排泄、食事、入浴などといった日常生活動作(Activities of Daily Living)を略した言葉です。ADLが下がると、高齢者の活動性の低下につながり寝たきりなどの問題を引き起こすことがあります。
さらに、高齢者が病気にかかると合併症や、病気が重篤化しやすいという特徴もあります。
2.高齢者の心理的特徴
高齢者の心理的な特徴は、「精神機能」と「知的能力」の2つに大きく分けられます。ここでは、それぞれの特徴について説明します。
2-1.精神機能の特徴
高齢になると、新しいことを覚えたり、直近の出来事を記憶したり、過去のことを思いだす力が弱まります。このほかに、ものごとへの注意力や集中力を保つことが困難になっていきます。
加齢は性格にも影響をおよぼす要因です。年を取ると頑固になり、保守的傾向が強くなる人が多くなります。さらに、人への態度が厳しくなり、ときに疑いやすくなるのも高齢者の特徴です。また、死への不安感から、健康への興味が異常に高まるケースもあります。
これらの変化には、大切な人との死別や退職による社会的立場の喪失、身体機能の低下などが関係していると考えられています。これらの、さまざまな原因が複雑に絡み合って高齢者の精神機能の低下につながるとされています。精神機能の低下はうつ病発症との関係性も示唆されており、高齢者のうつ病患者は軽度なものも含めれば15%ほどともいわれます。高齢化社会において、この割合は年を追うごとに増えていくと推測されています。
2-2.知的能力の特徴
高齢者は計算や新しいことを覚えることなど知的作業が苦手になっていきます。しかし、これまでの経験や知識をもとにした言語の理解能力などは、高齢になっても比較的保たれます。また、ミケランジェロやゲーテなどのように80歳を過ぎてから著名な作品を残した偉人も少なくありません。
たとえ記憶力が低下しても、培ってきた理解力がそれを補って新しいことを習得し、高齢になってから秀でた能力を発揮したり、創造性が増したりすることもあるのです。
高齢者の特徴を把握することで、ともに暮らしやすい社会に実現しましょう
年を取ると、体や心にさまざまな変化が現れます。体の面でいえば、白髪やしみ・しわ・たるみが増えるほか、臓器の機能が衰えさまざまな病気や不調が現れやすくなります。
また、病気になったときには、合併症や重篤化のリスクが高まるため注意が必要です。
心の面では、新しいことを学んだり、直近の出来事を覚えたり、昔のことを思い出すのが難しくなります。なかには、頑固で疑い深い性格になる方もいます。しかし、これまでの人生で得た経験や能力をもとに、高齢になってから素晴らしい功績を残す人も少なくありません。
高齢者の得手不得手や特徴を把握して、誰もがイキイキと暮らせる社会をつくっていきましょう。
監修者情報
氏名:梅村 将成(うめむら・まさなり)
外科医として地方中核病院に勤務中。
消化器外科のみならず総合診療医として、がん治療(手術・抗がん剤・緩和治療/看取り)を中心に、幅広く内科疾患・救急疾患の診療を行なっている。
資格:医師免許・外科専門医・腹部救急認定医