1.過呼吸(過換気症候群)とは?
過呼吸とは、文字どおり「呼吸を過剰にすること」により体に生じる、さまざまな症状を指し、過換気症候群とも呼ばれます。
通常、人間の体は呼吸によって酸素を取り込み、体内の二酸化炭素を外に出しています。呼吸は脳が調整しているため、普段は意識せずとも、吸ったり吐いたりを自然と行なえているのです。
このような働きにより、体内の酸素と二酸化炭素のバランスは保たれ、血液中の酸とアルカリのバランスも自然に調節されています。
しかし、何らかの原因で呼吸のリズムが浅くなって乱れると息苦しいと感じる状態になり、その状態に焦って呼吸を続けることで過呼吸になってしまうのです。
過呼吸になると、血液中の二酸化炭素濃度が低下して体内がアルカリ性に傾き、血管の収縮やカルシウム濃度の低下なども見られるようになります。その結果、めまいやしびれなどさまざまな症状につながります。
過呼吸は若い女性によく見られますが、男性や高齢者にも起きる症状です。一般的には、長くとも数時間程度で症状が改善・消失します。
2.過呼吸(過換気症候群)のおもな症状
過呼吸(過換気症候群)でよく見られる症状には、次のようなものがあります。
2-1.呼吸困難(呼吸ができない)
どれほど呼吸してもうまく息が吸えず「酸素が足りない」と感じる状態になり、呼吸のリズムが乱れて荒くなったり早くなったりします。しかし、実際に血液中の酸素が不足した状態になることはありません。
2-2.頭痛や動悸、めまい
頭痛や動悸も、起こりうる症状です。その他、ふらふら感(めまい)や胸部の圧迫感、吐き気、冷や汗も見られ、ひどくなると失神する場合もあります。
2-3.口周りや手足のしびれ
口周りや手・足の指先が、しびれるような状態になることがあります。これはテタニー症状と呼ばれるもので、筋肉が硬直・けいれんする状態を指し、場合によっては痛みをともないます。
3.過呼吸(過換気症候群)の原因
過呼吸の発作が起きる原因は、おもに次のような心身の状態が引き金になるといわれています。
3-1.精神的ストレス
心の内にある不安や緊張、恐怖といった精神的ストレスが、自律神経や呼吸中枢に影響をおよぼし、発作の原因をつくります。そのため、我慢することが多い方や心配性な方、几帳面な方などに起きやすいといわれています。
3-2.肉体的な疲労
睡眠不足や疲れがたまった状態、体調不良などの肉体的な疲労も、呼吸中枢に影響をおよぼし、発作が起きることがあります。
4.過呼吸(過換気症候群)の対処法
過呼吸の発作が起きた場合は、次のような対処法を思い出してください。
4-1.まずは慌てず、気持ちを落ち着かせる
過呼吸の発作を起こしやすい方は、強い不安を抱いている場合が少なくありません。発作の恐怖からさらに呼吸が激しくなり、症状が悪化してしまうケースもあるため、まずは不安を軽減できるように気持ちを落ち着かせることが大切です。
発作はとてもつらいものですが、時間の経過によって、アルカリ性に傾いていた血液の状態が体内の恒常性に伴い落ち着いてきます。できるだけリラックスして、収まるのを待ってください。好きな音楽を聴くなど、自分なりの対処法を持つのも効果的です。
4-2.いざというときの呼吸法を覚えておく
腹式呼吸を行なうと発作の症状を抑えやすくなるので、発作を起こしやすい方は覚えておきましょう。
腹部に手を当てて、まずは4秒ほどかけて息を吸います。このとき、横隔膜が下がって腹部がふくらむことを意識してください。次に数秒息を止め、8秒ほどかけて息を吐きましょう。息を吐くときに、腹部をへこませることを意識して横隔膜を引き上げます。
このように、ゆったりとした呼吸を繰り返していくと、次第に過呼吸の症状が落ち着いていきます。
4-3.家族や友人が過呼吸を起こした場合
家族や一緒にいる友人が過呼吸の発作を起こすと、周囲の方もどのようにしたら良いかわからず慌ててしまうでしょう。しかし、過剰に慌てたり心配したりすると、発作を起こした方がますます不安になってしまいます。
まずはゆっくりと話しかけ、背中をさするなどして、呼吸のリズムが整うまで本人が安心できるようにしてください。
5.過呼吸(過換気症候群)の処置の注意点
過呼吸の対処法として、以前は紙袋などを口にあてて呼吸する「ペーパーバック法」が良いとされていました。しかし、この方法では窒息するリスクがあるため、現在は推奨されていませんので注意してください。
過呼吸対策には不安やストレス・疲労を溜めこまない生活を
過呼吸は、呼吸困難や動機、めまい、手足のしびれなどの症状が現れるものです。突然の過呼吸(過換気症候群)の発作はつらいものですが、ゆっくりと呼吸していれば、次第に落ち着いてきます。
過呼吸は精神的なストレスや肉体的な疲労が引き金になるため、日頃から心身の疲れを溜めないように過ごしましょう。
また、過呼吸の対処法として、紙袋などを口に当てて呼吸するペーパーバック法は危険なため行なわないように注意してください。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。