「ビオチン」の働きとは?
役割や含まれる食べ物、一日の摂取量について解説

ビオチンは皮膚や粘膜の健康を維持するために大切な栄養素の一つです。人の体内ではほぼ合成できないため、食べ物やサプリメントから摂取する必要があります。

しかし、どのようなものに多く含まれているのか、どのくらいの量を摂取すれば良いのかなど、疑問に思う方も多いでしょう。今回は、ビオチンの働きや役割、含まれる食べ物、一日の摂取量について解説します。

1.ビオチンとは

ビオチンは、哺乳類にはほぼ合成できない必須の水溶性ビタミンです。腸内細菌によって多少は合成されますが、それだけでは必要量を確保できないことから、食べ物やサプリメントで摂取する必要があります。

ビオチンは動物の肉や乳、卵などに含まれ、日々の食事から摂取できるため不足することはほとんどありません。また、過剰に摂取した場合でも、水溶性で尿と一緒に排泄されるので過剰症の心配もほぼないでしょう。

2.ビオチンのおもな働き

ビオチンは、糖質や脂肪・アミノ酸の合成や代謝、皮膚や粘膜の健康を維持するなど、重要な役割を果たしています。

食品から摂取したビオチンは、そのほとんどがたんぱく質と共有結合をしている状態です。そのため、まず膵臓から分泌されるビオチニダーゼがたんぱく質からビオチンを引き離した後、おもに小腸の空腸で吸収され、血液中に移行します。

そして、肝臓でビオチニダーゼと結合して細胞内に取り込まれますが、細胞内で再び引き離しが行なわれ、4種類あるカルボキシラーゼの補酵素として作用するのが、ビオチンの一連の代謝の流れです。

またビオチンは、抗炎症物質を作り出すことで、アレルギー症状を軽減する作用もあると報告されています。

3.ビオチンの一日の摂取量

ここからは、一日に必要とされるビオチン摂取量を世代別に解説します。

3-1.成人の一日摂取量

男性と女性、年齢などによっても目安となる摂取量を異なりますが、18~64歳の成人の目安量は50μg/日です。一方で、一日摂取量調査(トータルダイエット法)によると、日本人は一日当たり45.1μg、またはや60.7μg摂取しているという結果があります。。このため、通常の食生活をしている人では目安量より不足することは少ないでしょう。

ただし、生卵白を長期間、多量に摂取した場合は、ビオチンの欠乏症になる可能性があるとされます。これは、アビジンという卵白に含まれる糖たんぱくが、ビオチンと強く結び付いてビオチン-アビジン結合体になり、消化管でのビオチンの吸収を阻害することが原因です。

3-2.高齢者の一日摂取量

高齢者については十分な情報がありません。そのため、成人と同じく50μg/日が目安量とされています。

3-3.小児の一日摂取量

小児については、成人の目安量をもとに、体重比の0.75乗を使用して推定した体表面積比と、成長因子を鑑みて組み立てられた計算式によって算出されます。

3-4.妊婦・授乳婦の一日摂取量

妊娠後期は尿中のビオチン排泄量や血清ビオチン量が低下したり、ビオチン酵素が関与する有機酸が増えたりすることが報告されています。そのため、妊娠中はよりビオチン摂取を必要とすると考えられるでしょう。

しかし、胎児の発育に影響をおよぼさないとする目安量を設定するには十分なデータがないため、成人と同様に50μg/日を目安量としています。

また、授乳婦の目安量を算出するには、授乳婦と非授乳婦のそれぞれが摂取するビオチン量の比較が必要です。しかし、該当するケースの十分な報告がないため、50μg/日が目安量とされています。

3-5.ビオチンの過剰摂取について

ビオチンを過剰摂取しても速やかに尿中に排出されるため、一般的に過剰症が現れることはないでしょう。また通常の食事を摂っている健康な人で、過剰摂取による健康被害の報告は見当たらなかったことから、耐用上限量の設定はされていません。

しかし、妊娠中に多量のビオチンを投与してしまうと、妊娠初期の胚・胎児の死亡や胎盤・卵巣の萎縮が起こるといった報告もあるため注意が必要です。

また、ビオチンの過剰摂取は臨床検査へ悪影響をおよぼす可能性もあります。例えば、甲状腺ホルモンの測定では見かけ上高値を、甲状腺刺激ホルモンの測定では見かけ上低値を示した報告があるため、臨床検査を受ける際はビオチンの摂取量に注意しましょう。

4.ビオチンを含む食べ物

ビオチンは、普段の食事から摂取しやすい栄養素です。ここでは、ビオチンを多く含む食べ物を紹介します。

4-1.動物性食品

食品名 1食あたりの重量(g) ビオチン(μg)
1食あたり 100gあたり
鶏卵 全卵 (ゆで) 55 13.8 25
さんま(焼き) 100 9.4 9.4
あさり(生) 40 9.2 23
たらこ(生) 40 7.2 18
豚ヒレ(焼き) 100 6.4 6.4

(文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より引用)

4-2.植物性食品

食品名 1食あたりの重量(g) ビオチン(μg)
1食あたり 100gあたり
そば(ゆで) 200 5.4 2.7
玄米 150 3.8 2.5
そらまめ(生) 60 4.1 6.9
ブロッコリー(電子レンジ) 50 7 14
落花生(いり) 15 16.5 110

(文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より引用)

ビオチンは皮膚や粘膜の健康維持に欠かせない大切なビタミン

ビオチンは皮膚や粘膜の健康をサポートする大切な栄養素ですが、その他に糖質や脂肪・アミノ酸の合成や代謝などに関与するなど重要な役割を果たしています。

人の体内ではほとんど合成できない水溶性ビタミンであるため、食べ物やサプリメントから摂取する必要があります。ただし、ビオチンはあらゆる食べ物に含まれていることから、通常の食生活であれば、ビオチンが不足することはまずないでしょう。また、過剰摂取による健康被害の報告もありません。

ビオチンを多く含む代表的な食べ物は、鶏卵やさんま、そばなどです。これらを上手に取り入れてバランスの良い食事を心がけましょう。

監修者情報

氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。