1.朝食を抜くことと血糖値の関係性について
まずは、朝食と血糖値の関係性について解説します。
1-1.血糖の役割とは?
血糖の役割は、全身へのエネルギー供給です。私たちの血糖値は、空腹時は約70~100㎎/dl前後を保っています。食事をすると一時的に血糖値は上がるものの、ホルモンの働きによって2時間後には正常値まで下がり、エネルギー源として供給されます。
そもそも血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の濃度のことです。食事で炭水化物を摂取すると体内で分解され、ブドウ糖になります。ブドウ糖は吸収されると血液内に入るため、食後は血糖値が高くなるのです。
血糖値が高くなると、膵臓から「インスリン」というホルモンが分泌されます。インスリンの働きにより、血液中のブドウ糖は体の各組織に取り込まれ、エネルギー源として供給されるのです。
また、エネルギー源として消費しきれないブドウ糖はグリコーゲンに変換され、筋肉や肝臓に貯えることで、血糖値を正常値まで下げます。
反対に空腹時は血糖値が下がり、血糖値を正常に戻すために「グルカゴン」などのホルモンが膵臓から分泌されます。グルカゴンは、筋肉や肝臓に蓄えられたグリコーゲンをブドウ糖に分解し、血糖値を上げる働きがあります。
血糖値が高すぎる場合(高血糖)と、低すぎる場合(低血糖)の体への影響は以下のとおりです。
1-2.朝食を抜くことは血糖値や体にどう影響する?
朝食を抜くと、血糖値の乱高下を招きます。人間の体は食事間隔が長く空くほど、次に食べた栄養をより体に取り込もうとする性質があるのです。そのため、午前中は血糖値がとても低くなり、昼食後には血糖値が急激に上がってしまいます。
また、朝食を抜くと肝臓でのコレステロールや中性脂肪の合成が促進されることもわかっているのです。
つまり、一日の摂取カロリーが同じであっても、朝食を抜いて一日2食の場合は、一日3食の場合よりも体脂肪の蓄積量が多くなり、太りやすくなります。
1-3.朝食を抜くと食後高血糖・糖尿病のリスクがある
ある実験によると、朝食を抜くと「食後高血糖」や「糖尿病」になりやすいという結果が出ています。食後高血糖とは、食後2時間以降も高血糖状態が続くことです。通常であれば、食後に上がった血糖値は、2時間後には正常値に戻ります。食後2時間を経過しても血糖値が140㎎/dl以上の場合は食後高血糖に該当します。
空腹時の血糖値が正常であっても、食後の血糖値が大きく上昇する場合は「隠れ糖尿病」の疑いがあります。これは、インスリンが十分に分泌されない場合や働きが悪いために、食後の血糖値が必要以上に上がってしまうことで起こります。
2.朝食を抜くことが心身にもたらす影響
続いて、朝食を抜いた場合、心と体に起こるさまざまな悪影響を、詳しく見ていきましょう。
2-1.やる気や集中力の低下
ブドウ糖は、脳が働くための唯一のエネルギー源です。朝食を抜いて、ブドウ糖が不足すると、脳はエネルギー不足状態になります。体はストレス状態となり、集中力が発揮されず、イライラして勉強や仕事に身が入らなくなることがあるのです。
実際に、大学生を対象にした調査では「朝食を抜くと成績が下がる」という結果が出ています。朝食は、脳を活性化してやる気を起こすために欠かせません。
2-2.体内時計が乱れる
人間の体内時計は一日25時間周期で回っていて、24時間周期の地球のリズムと1時間の誤差があります。その体内時計のリズムをリセットしてくれるのが朝食です。
そのため、朝食を抜くと一日の生活リズムが崩れ、体調不良の原因になります。
2-3.便秘になりやすい
朝食を抜くと、便秘の原因になります。私たちの体は、朝食をとることで排便が促されるのです。胃のなかに食べ物が入ってくると、大腸は活発に動き出し、便を直腸へと送り出します。そのため、朝食を抜くと、排便のリズムが崩れて便秘の原因になってしまうのです。
2-4.体温が低くなる
私たちが体温を上げたり、維持をしたりできるのは食事のおかげです。朝食を抜くと体温は低くなり、免疫機能の低下や血液循環悪化など体調不良を招きます。
また、体温は睡眠と連動しており、朝食を抜くと体温が上がらず、睡眠と覚醒のリズムが崩れて、規則正しい生活に支障をきたすおそれがあります。
3.朝食をとるときに注意すべきポイント
ここからは、朝食をとる際の注意点を紹介します。
3-1.朝9時までに朝食をとる
朝食は、通常であれば3時間程度で消化されるため、昼食の3時間前までにとるのが理想です。昼食を12時前後に食べる場合は、朝の9時までに朝食をとりましょう。
起床直後ではなくても、朝9時までであれば昼食時には消化されるため、効率良くエネルギー補給ができます。また、毎日3食規則的に食べることで、血糖値の乱高下を防ぐことにもつながります。
毎日しっかりと朝食を準備しようと思うと大変ですが、前日の夕食を多めに作っておいて、朝に食べるなど工夫をするとよいでしょう。
3-2.必ず炭水化物をとる
朝の体が求めているのは、脳のエネルギー源であるブドウ糖です。そのため、ブドウ糖の供給源になるごはんやパンなどの「炭水化物」は必ずとりましょう。
加えて、日中の活動に必要な「タンパク質」や「ビタミン」などを、朝食で補給することが大切です。朝食を“パンとコーヒーだけ”や“牛乳だけ”で済ませる人もいますが、それでは体内時計をリセットできません。しっかりと肉や魚・卵・大豆製品などのタンパク質もとりましょう。
また、炭水化物のブドウ糖をエネルギーに変えるためには、ビタミンB1が必要です。ビタミンB1が多く含まれている肉類・魚類・雑穀・種実類・豆類などをとりましょう。穀類は、精製されるとビタミンB1が減ってしまうため、主食には玄米やライ麦パンがおすすめです。
朝食をとって心も体もベストな状態に整えましょう
朝食を抜くと心と体にさまざまな悪影響を与えることが、おわかりいただけたのではないでしょうか。
朝食を抜くと、「イライラ」「便秘」「集中できない」「寝つきが悪い」「朝起きられない」といった不調を招きます。また、血糖値の乱高下を招き、太りやすくなったり糖尿病になりやすくなったりするなど、健康への悪影響をおよぼします。
忙しい日々のなかで、毎日朝食をとるのは簡単なことではないかもしれません。しかし、心も体も元気に保つために、朝食をとりましょう。
監修者情報
氏名:高橋健太郎(たかはし・けんたろう)
循環器内科医として臨床に関わりながら、心血管疾患のメカニズムを解明するために基礎研究に従事。現在はアメリカで生活習慣病が心血管疾患の発症に及ぼす影響や心血管疾患の新しい治療法の開発に取り組んでいる。国内・海外での学会発表や論文報告は多数。
日本内科学会認定内科医、日本循環器学会所属。