1.鉄分の働きと一日の摂取目安量について
鉄分は、生命維持に欠かせない栄養素です。ここでは、体内における鉄分の役割と、年代別の一日に摂るべき目安量を紹介します。
1-1.鉄分の働き
鉄分はミネラルの一種で、赤血球のヘモグロビンに大部分が含まれるほか、筋肉のミオグロビンに存在します。赤血球中の鉄分は体内で酸素の輸送に関わり、人間が生きていくために必要な栄養素の一つです。
また、肝臓または脾臓、骨髄などに貯蔵鉄として蓄えられ、赤血球の鉄分が足りなくなったときに使用されます。
食品中に存在する鉄分は、ヘム鉄と非ヘム鉄の2種類です。ヘム鉄はタンパク質と結合しており、おもに肉や魚といった動物性食品に含まれています。非ヘム鉄は、ヘム鉄以外の無機鉄であり、おもに植物性食品に存在します。
1-2.鉄分の一日の摂取目安量
成人の一日に必要な鉄分の推奨量は、以下のとおりです。
|
男性 |
女性(月経なし) |
女性(月経あり) |
18~49歳 |
7.5mg |
6.5mg |
10.5mg |
50~64歳 |
7.5mg |
6.5mg |
11.0mg |
65~74歳 |
7.5mg |
6.0mg |
– |
75歳以上 |
7.0mg |
6.0mg |
– |
※1歳未満は目安量
※推奨量:ある性・年齢階級に属する人々のほとんど(97~98%)が一日の必要量を満たすと推定される一日の摂取量
※目安量:推定平均必要量・推奨量を算定するのに十分な科学的根拠が得られない場合に、ある性・年齢階級に属する人々が、良好な栄養状態を維持するのに十分な量
※上限量:ある性・年齢階級に属するほとんどすべての人々が、過剰摂取による健康障害を起こすことのない栄養素摂取量の最大限の量
引用:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
月経による鉄分不足は女性に多い貧血の発症の一因です。そのため、女性の場合は月経の有無によって必要な鉄分の量が変わります。
一方で、「令和元年国民健康・栄養調査」によると鉄分の一般食品からの一日摂取量は平均7.6㎎です。鉄分不足にならないよう、鉄分を豊富に含む食材を積極的に摂りましょう。
2.煮干しに含まれる鉄分について
煮干しとは、魚介類を煮熟(塩水で加熱)したあとに乾燥させた保存食品です。いわしなどの魚類のほか、さくらえび、ほたるいか、貝柱といった魚介類を原料に作られます。煮干しいわしは、古くから代表的なだし素材として使われてきましたが、近年ではカルシウムや鉄分などの補給源として評価も高まっています。
おもな煮干しに含まれる鉄分は、次のとおりです。
食品 |
可食部100gあたりに含まれる鉄分 |
かたくちいわしの煮干し |
18.0mg |
いかなごの煮干し |
6.6mg |
さくらえびの煮干し |
3.0mg |
ほたて貝柱の煮干し |
1.2mg |
参照:文部科学省「食品成分データベース」
魚介類にはヘム鉄が多く含まれており、ヘム鉄は非ヘム鉄よりも吸収率が高いのが特徴です。鉄分はタンパク質やアミノ酸、ビタミンCと一緒に摂ると、さらに吸収が高まります。
一方で、紅茶や緑茶に含まれるタンニンやほうれん草に含まれるシュウ酸は、鉄分の吸収を低下させます。調理の際は、ほかの食材との組み合わせを考えながら調理するとよいでしょう。
3.鉄分の不足・過剰摂取について
鉄分は、人間が健康に生きていくうえで欠かせない栄養素です。不足や、反対に摂り過ぎると体調を崩してしまいます。ここでは、鉄分が不足したときと、鉄分が過剰摂取したときに体に与える影響をそれぞれ見ていきましょう。
3-1.鉄分不足について
鉄分不足になると、赤血球中のヘモグロビンが減ることで赤血球の数が減少します。そのため、体中に十分な酸素を運ぶことができず、集中力の低下や頭痛、食欲不振などの症状を引き起こします。このような状態が、鉄欠乏性貧血です。その他、筋肉中のミオグロビンが減少すると、筋力低下や疲労感につながりやすくなります。
赤血球中のヘモグロビンは鉄分とタンパク質から構成されています。貧血を防ぐには鉄分はもちろん、タンパク質や赤血球の合成をサポートするビタミンB12や葉酸もしっかり摂取しましょう。
3-2.鉄分の過剰摂取について
一方で、過剰摂取が続くと便秘、胃の不快感が発生する可能性があります。過剰摂取を起こさない最大限量は18歳以上の女性で40mg、男性で50mgと設定されています。
サプリメントなどで鉄分を補給するときは最大限量を超えないように、説明書に記載されている目安量を参考に摂取しましょう。
煮干しを利用したメニューで鉄分不足対策を
鉄分は酸素を運ぶという重要な役割を持ち、健康維持に欠かせない栄養素です。なかでも肉や魚介類に豊富に含まれるヘム鉄は、体への吸収が良い特徴があります。
また、煮干しは、鉄分が豊富な食材です。タンパク質やビタミンCを一緒に摂取すると鉄分の吸収率を高められるため、組み合わせる食材を工夫しながら栄養たっぷりな煮干しを料理に活用しましょう。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。