1.中性脂肪とは?
中性脂肪とは体脂肪の大部分を占める物質で、「トリグリセリド」または「トリグリセライド」ともいわれます。肉、魚、食用油など食品中にも豊富に含まれる脂質です。
中性脂肪は、3本の脂肪酸がグリセロールという物質で束ねられたような構造をしており、中性を示すので中性脂肪という名前がつけられています。コレステロールとともに血中脂質と呼ばれ、人体にとって重要な物質です。脂肪組織のなかでエネルギー源として貯蔵されたり、皮下脂肪になって体温を保ったり、人体を外部の衝撃から保護するクッションとして働いたりします。
本来、中性脂肪は一定範囲内に維持されているのですが、食事から脂質を摂り過ぎたり、体内の脂質代謝に問題が起こったりすると基準値から外れてしまうことがあります。中性脂肪が過剰になると、肥満や生活習慣病のもとになるので注意が必要です。
血液中の中性脂肪の基準値は150mg/dL未満です。150mg/dLを越えると「高トリグリセライド血症」とされ、メタボリックシンドロームの診断基準の一つにもなっています。なお、食事を摂ると中性脂肪値は上昇するため、原則10時間以上絶食して空腹時に採血した血液で中性脂肪値を検査します。
2.中性脂肪が低くなるおもな原因
肥満やメタボリックシンドロームへの配慮から、中性脂肪を減らすことに注意が向きやすいかもしれせん。しかし、中性脂肪は大切なエネルギー源であるため、低くなりすぎるのも良くありません。
中性脂肪が低くなるおもな原因には、過剰な食事制限・ダイエットなどで食品からの脂質や糖質の摂取量が減っていること、激しい運動をしすぎていることなどが挙げられます。
また、なかには、脂質を運ぶ担い手であるリポタンパクの異常で脂質の吸収・利用障害を引き起こし、下痢や成長障害をはじめさまざまな影響をきたす「無βリポタンパク血症」など、なにかしらの疾患が背景にあるケースもあるので、中性脂肪が低い場合でも医師に相談することをおすすめします。
3.中性脂肪が低い状態によって引き起こされる症状
中性脂肪が低すぎる状態とは、基本的には摂取エネルギーが消費エネルギーを下回っており、エネルギー源の蓄えが少なめであるということを示唆します。中性脂肪が低いと、全身にさまざまな不調が起こる可能性があります。
3-1.エネルギー不足
体内の中性脂肪が少なすぎると、エネルギー不足になる場合があります。なぜなら、中性脂肪は人体のエネルギー源として用いられる物質だからです。中性脂肪の構成要素である脂肪酸は、炭水化物やたんぱく質に比べて1gあたりのエネルギー価が2倍以上高いことが知られています。そのため、人体にとって脂質は不可欠なエネルギー蓄積物質といえるでしょう。食事から摂取する脂質の量が少ないと、中性脂肪値も減少傾向になります。
また、中性脂肪が少ないと必要な皮下脂肪が形成されにくくなります。皮下脂肪は空腹時にエネルギー源となるものなので、適量の皮下脂肪を維持することが大切です。
3-2.脂溶性ビタミン・必須脂肪酸などの吸収不足
中性脂肪などの脂質は、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)やカロテノイドの吸収を補助する役割もあります。また、ヒトの体内で合成できないDHA(ドコサヘキエン酸)、IPA(エイコサペンタエン酸)のような必須脂肪酸の摂取にも、中性脂肪は重要な役割を果たします。
そのため、中性脂肪が欠乏すると脂溶性ビタミンや必須脂肪酸など、人体にとって必要な物質の吸収にも悪影響となるのです。
3-3.体温調節のへの影響
中性脂肪は皮下脂肪となって体温を調節する役割も担っているため、中性脂肪が欠乏すると体温を維持する機能が不十分になり、外気温の変化に弱くなる可能性があります。中性脂肪のうち、体内でエネルギー源として利用されずに「余分」な状態になったものが皮下脂肪として蓄えられます。
中性脂肪を適切に保って健やかな体をつくろう
中性脂肪値が高いと肥満や生活習慣病のリスクとなりますが、その一方で、少なすぎても人体に悪影響をもたらします。中性脂肪は生命の維持に必須のエネルギー源であり、皮下脂肪として蓄えられて体温維持を担ったり、脂溶性ビタミンや必須脂肪酸の摂取をサポートしたりと、さまざまな役割を果たしているからです。
血液検査で中性脂肪値が低くなりすぎている方は、極端な食事制限や過度の運動習慣、あるいは基礎疾患などが背景にある可能性があります。不安な点があれば、医師に相談することをおすすめします。中性脂肪を適切な水準に保ち、健康的な生活を送りましょう。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。