1.高齢になると運動機能や筋力が低下する原因とは
高齢者の運動機能や筋力低下には、大きく分けて2つの原因が考えられます。
1つ目は、老化によるものです。加齢によって筋力が衰えていくことは自然なことですが、進行していくと日常生活に支障が出ることもあります。老化による筋肉の衰えは、日々の運動量が減って筋繊維が細くなることが原因です。
2つ目は、病気によるものです。筋肉が急激に減少し、「病気」として治療すべき状態を「サルコペニア」といいます。
高齢者のサルコペニアは体の機能に異常をきたし、日常生活が不自由になるため、単なる「自然な老化現象」と考えるわけにはいきません。
具体的には、歩行速度が低下し、入浴や着替えなど日常生活の動作にも支障が出てくるのです。また、体のバランスをとるのも難しくなり、転倒や骨折のリスクが高くなります。
2.高齢者の筋力向上のためのポイント
筋力を向上させることは、自立した生活を楽しむためにも重要です。ここでは、高齢者が筋力を向上させるための3つのポイントを紹介します。
2-1.レジスタンス運動を行なう
レジスタンス運動とは、筋肉に負荷をかけた動作を繰り返し行なう運動です。例えば、腹筋運動・腕立て伏せ・スクワット・ダンベル体操などがあります。
筋肉をつくっている筋繊維は加齢によって減少していくものの、大きく減少することはありません。つまり、高齢であっても毎日筋肉を使って鍛えることで筋肉を維持・強化できます。
レジスタンス運動を行なうと、筋力アップ・筋肉量の増加・筋肉の持久力を向上させることが可能です。
2-2.筋力低下の予防にフレイルの進行を防ぐ
フレイルとは、「加齢によって心身ともに老い衰えていて、健康障害に陥りやすい状態」のことです。
フレイルの原因は、加齢によって身体的・精神的な変化があることに加え、生活を取り巻く環境と社会的な要因が合わさることで起こります。
例えば、定年を迎え社会とのつながりが希薄になったり活動量が減ったりすることや、歩くスピードが遅くなったり、疲れやすくなるなど体力の衰えを実感します。その他、収入の減少による不安や、配偶者や親しい友人との死別などの環境の変化があります。
フレイルを食い止めるためには、精神面・身体面・社会面で働きかけることが重要です。
フレイルを予防し改善するポイントは、運動・社会参加・たんぱく質の摂取です。
運動はウォーキングなどの有酸素運動がおすすめですが、孫やペットの世話やこまめに家事をこなすことでも効果があります。社会参加は、趣味のサークルなど好きなことでよいでしょう。
食事では、体をつくるたんぱく質をしっかりと摂ることが重要です。
2-3.低栄養にならないよう食生活を心がける
筋肉量や筋力をアップさせるためには、栄養を十分に補給することが大切です。低栄養状態では、筋肉量と筋力の低下を招きます。
低栄養を防ぐ食生活のポイントは、以下のとおりです。
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バランスの良い食事を3食とり、欠食しないこと
高齢者では肥満よりも痩せすぎによる死亡リスクのほうが高くなるので、栄養不足にならないように気を付けましょう。
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毎日牛乳を200ml以上飲みましょう
牛乳には、カルシウム・たんぱく質・ビタミンが豊富に含まれています。この3つの栄養素は、高齢者のフレイルを回避するために特に意識して摂りたい栄養素です。牛乳のほか、乳製品にはたんぱく質やミネラルが豊富に含まれているので積極的に摂りましょう。
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誰かと一緒に食事をする
食事の持つ役割は、単なる栄養補給だけではありません。緊張を和らげたり、気持ちを安定させたりして、ストレスを解消する役割もあります。
また、閉じこもりを防ぎ、社会とのつながりを感じる場としても会食の機会をつくることは大切です。こういった人とのつながりは、自分自身のフレイルにも早く気付けるという利点もあります。
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動物性たんぱく質をしっかり食べる
魚・肉・卵・乳製品といった動物性たんぱく質は、筋肉や血液をつくるために重要な役割を果たします。たんぱく質の摂取が不足すると、血液中のアルブミン量が減少し、低栄養状態になるリスクが高まるのです。
高齢になると食が細くなる傾向があるので、意識的に食事に取り入れるようにしましょう。
運動と食事、人とのつながりを大切に
加齢によって筋力は低下するため、若い頃と同じようには体が動かなくなることは自然なことですが、その原因は加齢による老化だけではありません。
健康的な生活は、身体面だけでなく心と体、そして人とのつながりによってつくられます。
高齢になっても社会とのつながりを大事にしつつ、適度な運動とバランスのとれた食事を3食しっかりと食べて、いつまでもイキイキとした毎日を過ごしましょう。
監修者情報
氏名:梅村 将成(うめむら・まさなり)
外科医として地方中核病院に勤務中。
消化器外科のみならず総合診療医として、がん治療(手術・抗がん剤・緩和治療/看取り)を中心に、幅広く内科疾患・救急疾患の診療を行なっている。
資格:医師免許・外科専門医・腹部救急認定医