
ケーブルテレビ株式会社は、栃木県栃木市をはじめとして複数の拠点をもつテレビ局です。「ユーキューサンキューキャンペーン」「親孝行月間」などユニークな施策を打ち出し、社員のワークライフバランスやヘルスケア増進、事業成功に欠かせない「感動する心」を養う取り組みを精力的に行なっています。
今回は同社の管理部総務人事課で各種制度の運用を務める阿久津紀子さん、同課主任の関口夏実さんに、健康経営を始めたきっかけや詳しい内容についてお話を伺いました。
4県6拠点をもつケーブルテレビ株式会社

ーー本日はよろしくお願いします。まずは御社について教えてください。
関口さん(以下、関口):当社は栃木県栃木市に開局し、昨年10月で開局30周年を迎えました。テレビ、インターネットのプロバイダーサービスや、固定電話、電気、スマートフォンなどインフラといわれるサービスを提供しています。
ケーブル業界だと珍しいのですが、栃木だけではなく群馬、茨城、そして埼玉で合計6拠点を構え、広域エリアでサービスを展開しています。
2022年7月現在の社員は195名いまして、男女比率は同程度です。若手もいればシニアの継続雇用のスタッフもいるので、幅広い年齢層に健康経営に興味を持ってもらえるように社内発信をしています。
阿久津さん(以下、阿久津):関口が主に採用担当、私が会社の制度運用担当です。 健康経営に関しては関口の尽力が大きく、膨大な申請業務を担当してくれました。私は働き甲斐向上施策の運用と、メンタルヘルスケアの産業カウンセラーとして相談窓口を担当しています。
ーー御社は「健康経営優良法人2022」に認定されています。健康経営の取り組みを始めたきっかけについて教えてください。
関口:当社はこれまで「えるぼし」認定(女性活躍推進法に基づく厚生労働省からの認定)や「プラチナくるみん」(次世代育成支援対策推進法に基づく「子育てサポート企業」として認定された企業のうち、より高い水準の取り組みを行っている企業が受けられるもの)マーク、「ユースエール」認定(若者の採用・育成に積極的で若者の雇用管理状況などが優良な中小企業に対する厚生労働大臣の認定)を取得しています。
会社として次に目指す方向性を考えていたとき、当社には健康経営優良法人の基準に当てはまる独自の取り組みがあることに気づきました。また近年は福利厚生や会社の制度に関してアンテナを張っている求職者も多いので、この認定取得に挑戦することにしたんです。
阿久津:関口は日頃からインターンシップ生や内定者に「いい会社の指標になるから、その会社がもっているマークを見るように」と話しています。
「何もなくても休む」を当たり前にしたかった

ーー具体的な施策には、どのようなものがありますか?
阿久津:人間ドッグ費用や禁煙に対するチャレンジの補助、インフルエンザワクチンの無料提供などもありますが、今回は社員のリフレッシュやヘルスケアに関する取り組みの一部をご紹介します。
まず1つ目は「ユーキューサンキューキャンペーン」という施策です。これは有給休暇の取得促進を目的として、3年間ほど取り組んでいます。
ーーネーミングがユニークですね。どんな内容なのでしょうか。
阿久津:「有給を取らせてくれてありがとう」「取ってくれてありがとう」という意味を込めてこの名前にしていまして、有給休暇の所得目標である90%を超えたら、会社からプレゼントを贈るというものです。
プレゼント内容はその時に応じて変えていますが、今年は亀田製菓の「ハッピーターン」がたくさん入ったボックスを購入して、それを対象者にプレゼントしました。
加えて、有給取得90%を達成してくれた人に対して、どんな風に有給を過ごしていたかが伝わる写真と有給取得推進の助けになる川柳も募集しました。写真と川柳を出してくれたスタッフには、商品券もダブルプレゼントしています。イベントが少ないこのコロナ禍、みんな作品として楽しんでくれていますね。
ーー有給をたくさん取るとプレゼントをもらえるというのは、かなり珍しいお取り組みですね。なぜこのキャンペーンを始めたのでしょうか。
阿久津:とくにシニアのスタッフに多いのが、「有給休暇は何かあった時のために残しておきたい」という考え方です。「何か」とは主に冠婚葬祭ですが、今はコロナ禍を理由に機会が減っていたり、家族だけで執り行われたりする場合が増えていますよね。
それでも「何も用事がないときに休みをとる」という習慣がないスタッフが多かったので、これまではなかなか有給所得を推進するのが難しい状況でした。
でも本来、有給を取るのに理由は必要ありません。お子さんの学校行事、通院、そういった理由も要らなくて、とにかくリフレッシュしてほしい。「何もなくてもリフレッシュのために有給を取って、また元気に働いてください」と以前から社内発信はしていたんです。
でも若手スタッフも『有給を取っていいとわかっていても言い出しにくい』という感覚があったようでした。それを払拭できないかなと考え、「口で言うだけではなく、イベント化しよう」と思いつきました。
今は有給を取りやすい会社だという意識が浸透してきて、有給取得率の全体平均が目標まであと1%の、89%まで上がっています。
ーー社員の皆さん自身も写真や川柳で有給取得を促進するという点がユニークですね。反響はいかがでしたか?
阿久津:当初は「有給を取りやすい人ばかりじゃない」という声もありました。ただ「どうして有給を取りにくいのか」を紐解いてちゃんと解決していかないと、何の解決にもなりません。
そこで関口が衛生委員会で上長に働きかけていくうちに、徐々に浸透してきました。最近では「今年もキャンペーンやるんですか?」という声が聞けるようになり、嬉しく感じています。
関口:申請方法をペーパーレス化したことも、後押しになったのではないかと思います。今までは上長に紙の申請書を出していたのですが、2019年頃から徐々にペーパーレス化し、今は時間を選ばずにウェブから申請が出せるようになっています。実際に若手社員からも「気にせず、簡単に有給を申請できますね」と言われました。
1人ひとりが生活と仕事のバランスをつくれるように

ーー心理的なハードルと物理的なハードル、両方を下げたことで有給取得率がアップしたのですね。
関口:そうですね。ちなみに当社はコアタイムなしのフレックスタイム制を導入していて、有給は1時間単位で取得可能です。自身の怪我や体調不良で通院してから出勤する、少し早めに帰って家族の介護をするなど、さまざまな形で活用されています。
社員それぞれに生活と仕事の最適なバランスがありますが、会社が制限を設けてしまうと、仕事をがんばりつつプライベートも充実させるのが難しくなってしまいます。年齢にかかわらず、こうした制度を活用してもらっていますね。
阿久津:私自身も、眼科の検査を入れるために時間給を取るなどして活用しています。後からの変更も柔軟にできるので、一社員としても便利だと感じる制度です。
ーーお休みが取りやすい一方で、御社の事業柄、緊急対応が発生する職種もあるのではないでしょうか?
関口:当社はメディアですので、やはり緊急対応や深夜の障害対応も時折発生します。でもフレックスタイム制や勤務間インターバルの制度を設けているので、緊急で深夜業務をした場合でも、次の出社まで10時間以上空けて出社するというルールがあるんです。
ただなかなか部下のほうからは言いにくいことですから、衛生委員会を通して上長に徹底してもらっています。管理職の社員が健康的に働く意識を高め、ほかの社員に発信するのが会社としてあるべき姿だと考えています。
「応援」の姿勢を発信しつづけ、育休取得率100%に

ーーほかにはどのようなお取り組みをされていますか?
阿久津:有給の考え方と同じく「取りにくいもの」から「取るのが当たり前」に変わった例が、育児休暇です。当社は男性の育児休暇の取得が100%なんですよ。
会社が育児を応援しているという姿勢を伝えるために、こつこつと働きかけをしています。たとえば生まれた赤ちゃんの写真をデジタルサイネージで共有して、どの拠点の社員でも見られるようにするのがその1つですね。
育休中の社員も赤ちゃんを連れて会社に遊びに来てくれるので、私はすかさず社長が赤ちゃんを抱っこして目尻がゆるんでいる写真を撮っています。こういうものを目にすると、日頃社長とはなかなか接しない若手社員は新鮮に感じるようです。
関口:育休取得の推進を視覚的に発信するのは、非常に効果的だったと思います。あと、上司にあたる男性の社員が育休を取る姿を見せるのも重要です。
最近育休を取った男性社員に聞いてみたら、やはり「上司が取っていたから、自分も子どもができたら休みを取れるんだと思ったし、ごく自然なこととして申請できた」と話してくれました。
最近は男性社員の方から「今度子どもが生まれるのですが、育休ってどうやって取ればいいんですか?」と質問が上がってくるようになっています。
阿久津:育休中の女性社員に対しても「健康診断があるから、よかったら赤ちゃんと一緒に受けに来てね」などと連絡をしています。職場が育児を応援していることを実感してもらうため、長期休みによる社会からの疎外感を払拭してもらうためのアプローチの1つです。
ちなみに私は当社のスターティングメンバーで、育児経験者でもあります。結婚や出産をする後輩たちを何人も見てきていますので、そうしたスタッフたちのケアにも携わるようになりました。
ただ子育てを取り巻く状況も時が経てば変わりますから、栃木県の「子育て支援員」の講習を受けて、今の子育てに適したアドバイスができるようにしました。いつでも相談できる存在だと感じてもらえるよう、精神面のケアも心がけています。
ヘルスケア研修で仲間を知り、学びあう
ーーヘルスケアのお取り組みに関してもご紹介いただけますでしょうか。
阿久津:働きやすい職場であるには、スタッフの心理的安全性を守ることがポイントだと思っています。他愛もない雑談ができる場づくりや、メンタルヘルスに関する研修で基礎を学ぶことが大切ですね。現在は「セルフケア」「ラインケア」の2つのオンライン研修を全社員で行なっています。
セルフケア研修は役職の有無や性別に関係なく設定したグループで行なうもの、ラインケア研修は係長以上の役職者に対して役職ごとで行なうものです。後者は自部署の社員をケアするために必要なことを学んでもらっています。
具体的には、外部のコンサルタントに協力を依頼して、社内で起きた事例を検討したり、日頃関わりの少ない社員同士がお互いの仕事やプライベートについて話したりしています。
他拠点をもつ当社では、社員同士の名前と顔が一致しない場合もあるので、研修はお互いのことを知る機会でもあるんです。ほかの社員と交流をしながらメンタルヘルスケアの基本を学ぶ機会となっています。
復職も勇気がいること。1人ひとりに寄り添ったサポートを
ーー事例というお話もありましたが、メンタルヘルスのサポート面はどのような工夫をされていますか?
阿久津:まずは休職する場合、仕事のことを気にせず十分に休んでもらうことが大切だと考えています。
また休職の理由やお休み中の環境は人それぞれ違いますので、そのスタッフと最も関わりがある人とよく話をしながら復職に向けた支援をしています。
関口:お休みを取ることだけでなく、復職することも勇気がいるものではないでしょうか。会社に孤独感を抱えながら復帰をするスタッフもいますので、阿久津や上司、先輩たちがいかにフォローしていくかがすごく重要だと考えています。
私は休職中の手当や復帰するにあたっての手続きなどを担当しています。ただの事務連絡をするのではなく、最近の様子を少し伺ってみたり、会社の様子を伝えてみたりする、そういった気遣いや一言を添えて関係づくりを密にするようにしていますね。
休職中であることを意識しすぎず、あえて普通に、かつ丁寧に接していくことがキーなのではないかと思います。
阿久津:去年は休職者が何名かいたのですが、現在は9割が復帰しています。休職継続中のスタッフにも「夏の健康診断を受けに来ない?」と連絡したところ、「行ってみようと思う」とお返事をもらいました。こうした会社のイベントも1つの橋渡しになり得えますから、貴重な機会だと感じています。
感動する心を養う「親孝行月間」

ーー御社には変わった福利厚生もあるとお聞きしました。詳しく教えていただけますか?
阿久津:親孝行を促進し、社員1人ひとりが感動する心を養うための「親孝行月間」という取り組みがあります。
当社のコーポレートスローガンは「感謝の想いを感動へ」なのですが、「親を大事にしない人はお客様も大事にできない」という社長の考えからこの施策を始めました。
毎年12月から1月に親孝行をしてレポートを提出すると、上限1万円まで実費が支給されます。コロナ禍で遠方に住む親に会いに行けないスタッフもいますので、前回は贈り物をする人が多かったです。
実家の大掃除や年賀状づくりの手伝いなど、お金のかからない親孝行をする人もいます。その場合も一律3,000円が支給されます。
ーー大変珍しいお取り組みですね。
関口:会社説明会などで福利厚生の一覧をお見せするのですが、たいていの学生さんがこの親孝行月間に興味をもってくれますね。
阿久津:提出してもらったレポートの内容は事例として社内に共有しています。社員がバイブルとしている社長が作成した「事業発展計画書」があって、そこにも親孝行の大切さや、どこの部署の何歳代のスタッフがどういう親孝行をしたかを載せています。
どの親孝行もとてもよくて。泣きながら読んでいる私の姿がちょっとした風物詩になっているほどです(笑)。「施設に入った母親にプレゼントを渡してきた」「亡くなってしまった今は毎日手を合わせることを親孝行にしている」といったレポートもあります。
親を亡くしている社員もいますので、お墓参り、あるいは身近にいる叔父さん、叔母さんへの孝行も親孝行に含めています。前回はお墓や仏壇にいつもより豪華な花を供えたという人も多かったんですよ。
この世にいてもいなくても、親を思う気持ちに突き動かされてすることを親孝行と捉えて、感じたことをレポートに書いて出してもらう施策ですね。
今年度はオンライン朝礼の場で、過去の親孝行エピソードや計画を簡単に共有してもらったため、参加する人がさらに増えました。
楽しく、安心して働ける環境づくりのために

ーー社員の方の健康増進や心のケアなどについて、今後の展望はありますでしょうか。
関口:ワークライフバランスやメンタルヘルスケアの推進は今後も引き続き力を入れていきたいですね。
とくに若手スタッフは2、3年後に自分がどういう姿になっていくかが思い描けずに立ち止まってしまう場合もありますので、できるだけ具体的に伝えて、安心できる環境を作っていくのがこれからの課題だと思います。
トップも柔軟に対応してくれますので、私たちは今の状況を伝えて取り組みたいことを提案し、実行し続けていきたいですね。
阿久津:現状の様子や向かいたい方向性を整理したうえで、これからも楽しく働ける職場づくりをしていきたいです。日々、目配り・気配り・心配りをしながら、「どんなことをしているんだ」とほかの企業の方が興味を持って見学に来てくださるような施策を提案していこうと思っています。
ーー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:ケーブルテレビ株式会社
インタビュアー:青柳和香子
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