
140年以上の歴史をもつ大手地方銀行「株式会社伊予銀行」では、人間ドック受診の義務化やウェアラブル端末貸与などを通じて、従業員の健康増進に取り組んでいます。
経済産業省と日本健康会議が認定する「健康経営優良法人2022」にも選ばれており、同認定を受けた地元企業らとともに積極的な情報交換も行なっているとのこと。
今回は「健康経営」で重視してきたことや今後の課題について、同社人事部の渡部部長、片山さん、増井さんにお話を伺いました。
地方銀行トップの広域店舗網をもつ株式会社伊予銀行

ーー本日はよろしくお願いします。まず御行について教えてください。
渡部部長(以下、渡部):当行は明治11年に創業した、愛媛県松山市に本店をもつ銀行です。正社員は約2,700人おり、パート従業員なども含めると約4,000人規模となっています。全国の銀行で唯一、25年間連続で預金と貸金が増加し続けているのが特徴です。
国内の13都府県に151 店舗、シンガポールにも1支店あります。愛媛県は造船業が盛んなため、当行は造船に関する融資が非常に強いという特徴もありますね。シンガポールでもおもに船舶関連のお客様と取引をしており、順調に融資の残高が積み上がっています。
ーーありがとうございます。健康経営に取り組み始めたきっかけは何だったのでしょうか?
渡部:データヘルス計画の作成が義務されるなど、健康経営に対する社会的要請が高まり、当行としても従業員の健康管理・健康意識向上に努める必要がありました。
また、従業員が病気のため急逝し、ますます健康経営に取り組む重要性を感じたのも理由です。2015年9月に「健康経営宣言」を作成し、取り組みを始めました。
人間ドックやウェアラブル端末で「予防・早期発見」に注力

ーー取り組まれた施策について教えてください。
片山:まずは重篤な病気の予防と早期発見を重視し、人間ドックの受診率アップを目指しました。もともとは40歳以上の人間ドック受診率が40%程度でしたが、40歳以上は全員義務化したため、現在は受診率100%となっています。
40歳以下の従業員も会社補助で人間ドッグを受けることができるのですが、受診率は年々上がっています。若手の従業員にも予防・早期発見の意識は浸透してきていますね。
並行して、働き方改革の一環で長時間労働の是正も進めています。昔はいわゆる過労死ラインとよばれる働き方をしている従業員もいたのですが、現在はかなり改善されています。
「東洋経済ONLINE」で紹介された「残業が少なく年収が高い会社ランキング」でも209社中39社にランクインしました。残業を減らせていることは、健康増進の観点から見ても良い変化だと感じています。
ーーウェアラブル端末を使った施策もあるそうですが、どのようなものでしょうか?
片山:2020年4月から、「Fitbit Inspire(フィットビット インスパイア)HR」というウェアラブル端末を希望者に対して無償で貸与しています。従業員の健康意識を高め、生活習慣の改善など自律的な行動変容を促すための施策です。
Fitbitは歩数や心拍数、消費カロリー、睡眠スコアなどの計測ができる端末で、腕時計のように手首に装着して使います。歩数と睡眠のデータは従業員から同意を得たうえで毎月取得しており、社内イントラネットにデータ推移を掲示しています。
導入当初は約2,000名から希望がありました。今後もFitbitの稼働率を上げていきたいと考えています。
ウォーキング推進イベントには団体戦も
ーーほかに、健康増進のための施策はありますでしょうか?
増井:毎年秋に2カ月間の「ウォーキングキャンペーン」を開催しています。個人の歩数で対戦する個人戦と、自由にチームを組んでチームごとの歩数を競い合う団体戦の2種類あり、団体戦上位のチームには景品として健康系のグッズをプレゼントするというものです。
片山:最初は個人戦だけでしたが、あとから団体戦も追加して、職場単位で積極的に参加してもらえるようにしました。
ーー皆さん、余暇を使って積極的にウォーキングされているのでしょうか。
増井:余暇もそうですし、毎日の通勤手段を徒歩に変えている方も多いようです。
片山:ちょうどその季節、愛媛県内各地で大規模なウォーキングイベントがあります。こうしたイベントに参加して歩数を増やしている従業員もいますね。2月には「愛媛マラソン」という大会もあるので、参加する従業員はやはり秋頃から練習しています。
運動習慣のある従業員が20%増加

ーーウェアラブル端末の導入やウォーキングキャンペーン開催を経て、健康増進に効果はみられましたか?
片山:ウォーキングキャンペーンは健康経営宣言をした2015年10月から開催していたのですが、Fitbitの導入によって、より運動の効果を感じられるようになりました。
ウォーキングキャンペーン実施前後にアンケートを取ったところ、キャンペーン後には「運動習慣がある」と回答した従業員が約20%増えています。また「キャンペーンが今後の運動のあと押しになるか」という質問に対して「なる」と回答した従業員も約70%いました。
ポピュレーションアプローチ(高いリスクをもった人に限定せず、ある団体などのリスクを全体的に下げるための支援)として実施したウェアラブル端末の貸与が、従業員の健康意識向上につながっていると感じています。
さまざまなセミナー配信も開始
ーー最近ではどのような施策を検討されているのでしょうか。
片山:最近は健康に関するセミナー開催を始めました。従業員がいつでも観られるよう、オンデマンドで配信しています。女性特有の健康課題、喫煙、睡眠、腰痛といったテーマで疾病予防のセミナー配信を順次進めていく予定です。
また、保険会社さんと協力して、特定の病気を罹患された方向けのポータルサイトやセカンドオピニオンを無料で得られるサービス提供も試験的に始めました。
喫煙率に関しては毎年下がっているのですが、「健康経営優良法人」の認定フィードバックで具体的な取り組みの評価があまり高くありませんでした。
これまでは敷地内に喫煙所を設けて分煙に取り組んでおり、月末営業日を「禁煙デー」として呼びかけるといった働きかけを行なっています。
数字に振り回されないようにしつつも、評価は真摯に受けとめて、セミナーなどできることから効果的な施策を進めていきたいですね。
地域での学び合いも生かし、効果検証の深化へ

ーー今後の展望があればお聞かせください。
渡部:今後はウォーキングキャンペーン以外にも、それぞれの施策単位で従業員にアンケートを取り、改善策につなげていこうと考えています。これは、昨年の6月から参加している「Well-being愛媛」というコミュニティを通じていただいたアドバイスがきっかけで考えたことです。
ーー「Well-being愛媛」はどのようなコミュニティなのでしょうか?
片山:「一般社団法人 社会的健康戦略研究所」という団体の初めての地域部会で、愛媛の「健康経営優良法人」認定企業が中心となって設立されました。もともと当行を含めて地元企業数社が定期的に集まって健康経営に関する情報交換をしていたので、それが「Well-being愛媛」に発展したという形ですね。
産・官・学が連携して健康経営・SDGsを推進することで、地域や社会の「ウェルビーイング(Well-being)」につながる愛媛モデルを創ることを目的としています。
そのワークショップにゲストとして来られていた企業の方と後日面談をして、「施策ごとに従業員の考えを聞いたほうがいい」というアドバイスをいただきました。
「健康経営優良法人」認定の際にも「効果検証に課題がある」というフィードバックがありましたので、今後は戦略マップの作成やアンケート活用を通して、施策の効果検証を深めていきたいと考えています。
プレゼンティーイズム(出勤はしているものの、健康上の問題によって完全な業務パフォーマンスが出せない状況)、アブセンティーイズム(傷病による欠勤)などの数値も昨年から調査しています。人的資本経営を考えるなかで、数字で示していくことも重要になっていますね。
ーー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
渡部:「Well-being愛媛」も含めて、健康経営に取り組むほかの企業担当者の方とお話する機会がよくあります。皆さん「何から始めたらいいのだろう」と悩まれているのですが、とりあえず何かを始めてみて、結果から次の施策を検討することをおすすめしたいですね。
当行では人間ドッグの義務化、ウェアラブル端末の貸与といった大きな施策から始めましたが、今後は従業員の1人ひとりにアプローチできるような施策を展開していけたらと考えています。
ーー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:株式会社伊予銀行
インタビュアー:青柳和香子