株式会社横森製作所は、虎ノ門ヒルズやあべのハルカスをはじめ、日本の超高層ビルの8割で採用される鉄骨階段を製作しています。自社商品が競技の舞台となる「階段垂直マラソン」では協賛スポンサーとなり、また、障がい者雇用創出を目的とした農園事業も実施。事業所内での禁煙を段階的に進めるなど、従業員の健康や生活習慣への意識改革につながる施策に取り組まれています。
今回は総務部の神田正俊さんと八本あさみさんに、健康経営の取り組みや社員の意識変化についてのお話をお伺いしました。
健康企業宣言から健康経営優良法人の認定
ーー本日はよろしくお願いします。まずは御社の事業内容や沿革について教えてください。
神田さん(以下、神田):弊社は1951年創業で、今年71期となります。事業内容は世の中になくてはならないけれど、普段はあまり意識されることのない階段、特に避難階段を数多く作っております。建築業界ではリピーターも多く、弊社製品をご愛顧いただいております。
作業の機械化を進めてはいるのですが、組立作業においてはやはり人の手で組立したほうが早くてキレイなので、基本的には職人が受け持っています。また、業界やお客様が求める以上に厳しい品質基準を設け、安心安全な製品をお届けできるよう目指しています。
ーー健康経営を始められたきっかけや、健康経営優良法人の認定に至った経緯を教えてください。
神田:総務としても健康経営に取り組まねばと感じ、今後の取り組みを検討していました。そんな矢先2019年に69期の会社方針のなかで、前社長の有明 利昭から「健康経営優良法人を目指す」という話が出たのがきっかけです。その際「健康経営優良法人ホワイト500」(健康経営優良法人の大規模法人部門での認定を受けたなかでも上位の法人に付加される)の認定を目標に掲げました。
しかし、何から手を付けて良いか分からなかったため、健康保険組合に、どうやって進めていこうかと相談を持ちかけたところ、健康保険組合連合会がやっている「健康企業宣言」や、一定以上の評価を得ると認定が交付される「銀の認定」「金の認定」を教えていただきました。
そこでまずは、2020年3月に「健康企業宣言」をして、2021年5月に「銀の認定」を取得し、これは2022年も継続している状態です。また、同時に申請を進めていた「健康経営優良法人2022」にも2022年3月に認定をいただけました。
従業員の食への意識変化にもつながった障がい者雇用創出事業
ーー御社は障がい者雇用創出事業もされているとのことですが、それも健康経営の取り組みにつながっていますか?
神田:障がい者雇用創出事業「だんだんファーム」は、販売目的で生産する農園ではなく、収穫した野菜は従業員に対して福利厚生として配布しています。
こういった形で配ると野菜を食べるきっかけになりますし、今まで野菜を敬遠していても、もらったからには調理して食べてみようかなと考えてくれる人も多いです。実際、野菜を配ると持ち帰る人が非常に多くて、すぐになくなってしまう状態なので、食生活について関心を持ってもらう機会になっているように思います。
従業員に「だんだんファーム」の取り組みを知ってもらい、障がい者雇用という社会貢献もしている会社であると認識してもらうきっかけとして収穫した野菜を配っていましたが、野菜を持ち帰って食べることで、食の改善にも期待できることが分かったので、健康経営の取り組みとしてもっと強化していきたいです。
ーー「だんだんファーム」のお野菜を配られるようになったのはいつ頃からですか?
神田:「だんだんファーム」を始めたのは2年前になりますが、はじめの半年くらいは作物を作る場所の準備がありました。水耕栽培なので、土を作る必要はないのですが、栽培用の設備を整え、それが終わってから少しずつ栽培に取りかかって、できたものを配りはじめたのは1年前あたりからになります。
ーー農園ではどのような野菜を育てているのでしょうか?
八本さん(以下、八本):トマトやピーマンといった一般的な野菜のほか、モロヘイヤやスティックブロッコリーなど、あまり見かけない・普段手に取らないような野菜も育てています。
従業員のみなさんがそれを使った料理の写真を共有してくれるので、社内のコミュニケーションが活発になる、一つのツールにもなっていると思います。先日、いろいろな種類のハーブを送ったところ、効能を調べて共有してくれる人もいました。
ここで作っている野菜は農薬を使わない水耕栽培なので、そういった面でも健康に関する学びのきっかけになっていると思います。
自社製品が大会の舞台となる「階段垂直マラソン」
ーー御社が協賛されている「階段垂直マラソン」についてもお伺いできますか?
神田:「階段垂直マラソン」は、実は世界的な大会も行なわれている競技で、山を走るトレイルランニングから派生したスポーツです。
今年初めて日本シリーズ戦が行なわれ、5月の名古屋大会を皮切りに、9月11日には日本のエリートランナーが集う東京大会が開催されます。11月6日の大阪大会は一般参加も募集しており、弊社社員もランナーとして参加します。
体を動かすのはもちろん、社員同士の交流の機会になりますし、実際に会って親睦を深めるというのは会社としても力を入れたい部分です。大会の舞台が弊社で作った製品だということ、皆さんに体を動かす場所を提供できているということは、本当に光栄に思います。
減煙・禁煙など生活習慣改善に向けた取り組みも
ーー禁煙に関する取り組みもされているそうですね。
神田:今後、会社の事業所内での喫煙をなくしていこうということで、2022年2月から毎月22日を事業所内で煙草を吸わない「スワンデー」として減煙、禁煙に協力してくださいという呼びかけを始めました。会社方針として、10年後に事業所内で全面禁煙を目指しています。
八本:ほかにも、毎年従業員に食生活や運動習慣、禁煙などの目標を示した「チャレンジカード」を配布して、生活習慣などを見直してもらう取り組みをしています。これは年度初めに配って、新たな気持ちで向き合えるよう、毎年デザインも変えています。カードとして財布などに入れて携帯できるようにしていますが、デスクに飾って目につくようにしている人もいますね。
弊社は従業員の喫煙率が高い状態にあり、禁煙を社内の取り組みとして掲げるのは、反発が強いのではないかと予想していました。その一方で、去年喫煙に関するアンケートを取ったところ、受動喫煙や勤務時間中の喫煙についてネガティブな意見も多数寄せられました。それまで非喫煙者の意見はマイノリティだと思っていたのですが、現状は違うのだと会社としても気付かされました。
そういった喫煙に対する従業員のネガティブな意見や喫煙可能時間の徹底、受動喫煙への配慮といった呼びかけも社内SNSや文書を貼り出して周知しています。
神田:また、日頃から健康管理を意識できる様に健康保険組合の協力により、各事業所に血圧計を導入しました。事業所にもよりますが、積極的に使ってくれている人もいるようです。どの程度の数値であれば健康上問題ないかというのを、日常的に確認できるようになっています。
健康経営の取り組みが浸透し、禁煙への意識も高まる
ーー健康経営の取り組みを進めるなかで、大変だったことはありますか?
八本:はじめは会社全体が「健康経営って、なにそれ?」という雰囲気で、健康経営に関する発信をしても反応が薄く、響いていない感じがありました。
しかし、すでに取り組んでいた「だんだんファーム」や「階段垂直マラソン」も健康経営の一部ですよと、わかりやすいテーマで発信を続けたところ、理解が進んだように感じます。
ーー従業員の理解が進んできた結果、社内の変化はありましたか?
八本:2022年2月22日に初めて「スワンデー」を実施したときのことですが、各事業所に健康経営推進委員会を設置して、担当者を置きました。禁煙に関する初めての取り組みでしたし、喫煙率の高い会社なので、どのような反応があるか不安もありましたが、委員会メンバーが「今日の○○工場の喫煙所はこんな感じです」といった発信を自発的にしてくれました。
今では「銀の認定」や「健康経営優良法人2022」の取得についても、リアクションが増えているようなので、従業員のなかでも健康経営が関心あるテーマになってきていると感じています。
神田:「スワンデー」が始まったのをきっかけに、自発的に禁煙を始めた従業員の話も聞いています。とはいえ、これからも吸い続けるという人もいるので、全員がというわけではないですが、少しでも気持ちを入れ替えてくれた人が現れているのはいい変化だと思います。
いきなり禁煙というと反発も大きいだろうから、最終的な目標を10年後として、「減煙」という表現で「まずは減らしてみましょう、その先に禁煙があります」といった進め方にしたので理解してもらいやすかったのかもしれません。
ーー健康経営優良法人の評価のフィードバックはいかがでしたか?
八本:「健康経営優良法人2022」の認定を受けたときが初めての申請だったので、一先ず認定されて御の字でした。しかし、フィードバック内容は厳しいものでした。
それはそれで受け止めて、自社の足りない部分は伸びしろとして認識できましたし、非常に参考になったと思います。上位を目指すのも大切ですが、まだ健康経営に取り組み始めたばかりなので、目の前にある減煙・禁煙や生活習慣病など従業員の課題に向き合うことが重要だと感じています。その結果順位が上がれば良いのではないでしょうか。
神田:健康診断の結果から、再検査や治療が必要という通知が来ていた人へも、もっと積極的にアプローチして改善できるようにも取り組んでいます。
今後は健康経営にSDGsを絡めた取り組みも検討
ーー健康経営について、今後の計画や注力されていくことがありましたらお聞かせください。
八本:「健康経営優良法人ホワイト500」を目指し、加点される取り組みとして健康診断後の再検査や治療の周知はやっていきたいと思います。
階段はエネルギーを使わずに上下階へ移動できるインフラですし、体を動かして健康促進にもなる身近な健康アイテムなので今話題のSDGsに欠かせない存在だとも思っています。
神田:実は、鉄骨階段自体がすごくSDGsにも貢献しています。SDGsのなかに「産業と技術革新の基盤をつくろう」という目標がありますが、階段は工事中の現場で安全に上下階の移動ができる設備であり、安全通路として取り付けられるだけではなく、完成した建物でもそのまま使えるのです。
普通に生活していたら、こういったことって知る機会がないですよね。だからその辺りを広く伝えて、階段はこんなふうに世の中を支えていますというのを知ってもらえたら、社会貢献にもなると考えています。階段を使おうという呼びかけも、もっと階段メーカーがやったほうがいいと思っています。
健康経営の取り組みは階段を上るように一歩ずつ
ーー健康経営への取り組みを考える企業の方に伝えたいメッセージはありますか?
神田:はじめる前は途方もなく難しい取り組みのように感じられて、何も見えない状態でした。しかし、一気に進めるのではなく階段を上るように一歩ずつやっていけば、健康経営を進められるのだなと実感しました。
健康経営の取り組みはハードルが高いと思うのではなく、まず始めてみることが大切です。弊社も健康保険組合に相談して、協力してもらいながら一つずつ進めてきました。同じように取り組めば、どの企業でもスタートできるのではないかと思います。
少子高齢化の進む日本で、従業員がどれだけ長く健康的に働いていけるかは重要なテーマですし、健康寿命を延ばして定年退職後の生活もより良いものにしてほしいと思っています。
あと、健康経営は一過性のものではなく継続的に取り組むことなので、常に新たな目標を立てながらやっていただけたらいいかなと。
取り組みに悩んでいる企業の方も、ぜひ健康保険組合や、すでに取り組みを始めている企業と相談しながら、できるところから健康経営に取り組んでみて頂ければと思います。
ーー本日はお話いただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:株式会社横森製作所
インタビュアー:朝本麻衣子