
KOA株式会社は、長野県に本社を置く電子部品メーカーです。「健康経営優良法人」の認定を受ける前から、健康保険組合を中心に従業員の健康を高める取り組みを実施してきました。
今回は同社総務センターのゼネラルマネージャーを務める藤原 斉さん、同じく総務センター総務グループに所属する坂野 慎治さん、浦野 美佐子さん、伊東 知輝さんにお話を伺いました。
どこよりも明るく楽しい職場を目指すKOA株式会社

ーー本日はよろしくお願いします。まずは沿革や事業内容についてお聞かせください。
藤原さん(以下、藤原):弊社は1940年に創立し、今年で82周年を迎えました。従業員数は1,553名、海外も入れると4,144名です。電子部品の開発・製造・販売がおもな事業内容で、電気を使う製品には不可欠な「抵抗器」が、売上全体の約90%を占めています。
創業者の向山一人は、養蚕業で生計を立てていた長野県南部の伊那谷で生まれ育ちました。しかし、養蚕業が廃れてゆく中で、家族がずっと一緒に生活できるよう、この土地に新たな産業を興そうという強い信念で、「伊那谷に太陽を」というスローガンを掲げて電子部品の事業を興しました。
そのため、海外への進出もしていますが「地元での雇用を守る」ということを非常に重要なミッションと考えているのが、弊社の特徴のひとつです。
経済的な効率性を考えると一箇所に集約するほうが良いのですが、地域の雇用を守るために、長野県内に20箇所ほど拠点があります。
ーー地域と「人」に重きを置いた経営をされているのですね。健康経営とも関わりがあるのでしょうか。
藤原:弊社は「どこよりも明るく楽しい職場をつくろう」を社是としています。“どこよりも”という意味は、各職場、工場、部門はもちろん、他のどこの会社よりも、ということであり、世界中でどこよりもという幅広い意味を含んでいます。
“明るく楽しい”とは、お互いに信頼されたチームワークのうえで一人ひとりが自分の力を精いっぱい出し切って働き、仕事の充実感を味わいつつ目標を達成してゆく姿であり、その成果が会社の発展となり個々の生活の安定につながってゆくことを意味します。
弊社の場合は、健康保険組合が会社のなかの一部門のように、会社と非常に密な関係にあります。そのため健康推進の活動は、健康保険組合が中心となって取り組んできました。
長野県南部の方言に「おせんしょ」という言葉があります。お節介とか世話焼きという意味ですが、相手のことを心から慮り気遣う温かさも伴っています。これまで健康保険組合が「おせんしょ活動」と称して、精密検査を勧めたり、メタボへの注意喚起や禁煙キャンペーンを実施したりしていました。
勉強しながら手探りで進めていく

ーー「健康経営優良法人」認定を取得するうえで大変だったことはありますか?
浦野さん(以下、浦野):健康経営優良法人を目指すことになったときは、私たち自身がそれほど知識のない状態でしたので、まずは制度の趣旨や健康経営度調査について勉強する必要がありました。今も完璧にわかっているというわけではなく、取り組みながら知識を吸収しています。
また、制度の概念そのものを社内へ発信して、目標を設定したり施策を進めたりしていくのは大変なプロセスでした。
伊東さん(以下、伊東):健康経営は社外への公開に意欲的であることも重要なポイントです。「健康宣言」というものが何なのかをまず勉強し、社外に対してどのような文章で発信すればいいのか手探りで考えました。
坂野さん(以下、坂野):「おせんしょ活動」をしていたことから、健康経営優良法人認定は簡単に取れると思っていたのですが、一筋縄ではいきませんでした。
「健康経営優良法人」に認定されるには、健康保険組合ではなく会社が取り組む必要があったからです。2年ほどかけてホームページを見直したり、健康経営宣言を公開したりと活動を進めてきました。
楽しみながら社員の健康意識を向上させたウォーキングチャレンジ

ーー運動習慣をつくる活動について教えてください。
伊東:健康保険組合と共同で「ウォーキングチャレンジ」というイベントを実施しています。4月と10月に実施しており、個人でもチームでも参加できるイベントで、目標を達成するとポイントがもらえます。
「ダムまで歩こう」「ジェラート屋さんを目的地にみんなで歩こう」というふうに決めて楽しく歩いています。なかには1日で3万歩も歩くチームがあって、社内で話題になりますね。
チームに入ると「他の人の足をひっぱらないように」という心理が働いてたくさん歩く人もいますし、楽しく歩ければいいという感じで、ストイックになりすぎず歩いている人もいて、それぞれ楽しんで参加しているようです。
ーー健康への意識は変わってきていると感じますか?
藤原:健康保険組合が導入している健康管理アプリのサービス登録率が80%を超えているので、従業員の意識は高まってきていると思います。
健康保険組合からも登録するよう呼びかけがありましたが、ウォーキングチャレンジで健康への取り組みが楽しい体験になったことも大きいのではないでしょうか。1回目のウォーキングチャレンジを面白いと感じた人が、2回目は誰かを誘って参加したという例もありました。
ーー社員数が多いなかで80%以上の方が登録しているというのはすごいですね。
藤原:せっかくこれだけ多くの従業員が登録しているので、今後は会社として、このアプリサービスを使ってストレスチェックやメンタルヘルスケアを実施することを計画しています。
ーーメンタルヘルスについて、すでに取り組んでいることはありますか?
坂野:もともと安全衛生委員会がメンタルヘルスに関するセミナーを開催していました。それとは別に相談員が3人ほどいて、メンタル不調を訴える人の相談に乗っています。健康保険組合のなかには1年を通して全員と面談をする面談員もいますね。
また、特に新入社員は仕事に慣れるまでメンタル不調に陥ることも想定されるので、各生産拠点のなかにマンツーマンでフォローをするメンターもいます。
「健康経営優良法人」認定の社内アピールも必要

ーー健康経営優良法人に認定されたとき、社内の反応はいかがでしたか?
藤原:社内では健康経営優良法人の認定を受けたことに対して、あまり驚かれてはいません。むしろ社外の方から「すごいですね!」と言われます。従業員としては「KOAなら認定がもらえて当たり前」と思っているのかもしれないです。
健康経営優良法人がどういうもので、どのような取り組みが認定につながったかということ、認定がもらえるのは光栄なのだということを、もっと社内にアピールしていきたいですね。
今後は女性の健康に関する啓発や組織づくりも
ーーこれから力を入れていきたいことなど、今後の展望を教えてください。
伊東:今の課題は禁煙やさらに多くの人に運動習慣を持ってもらうことですね。それぞれの項目に目標となる数値を設定して取り組んでいます。現状のデータは健康保険組合から提供してもらって、その数値が目標と離れているものから重点的に取り組んでいきたいと思っています。
浦野:健康経営優良法人を目指すなかで、女性の視点から見てもより働きやすい企業になるように活動していきたいと思うようになりました。
現在も、弊社は結婚や出産を機に退職する人がほとんどいません。女性が長く、定年を迎えるまで働ける企業であると自分自身も実感しています。
ただ、女性の体にはさまざまな変化が訪れます。この点に関しては周囲への教育という意味で課題があると思いますので、女性特有の病気など、セミナーなどから取り組んでいく必要があると感じています。
藤原:現在、健康推進活動を総務センターのメンバーが他の業務と兼務し、健康保険組合と協力しながら進めていますが、今後は健康推進の専門組織が必要だと考えています。これもひとつの野望ですね。
ーー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:KOA株式会社
インタビュアー:青柳和香子