
株式会社セーフティネットは厚生労働省の産業保健活動総合支援事業の受託機関として登録されている、メンタルヘルス関連のサービスを提供する企業。メンタルヘルスに不調を抱えた従業員の支援プログラム・EAP事業に注力しています。
20年にわたる実績からさまざまな悩みに対応できる体制を整え、経験豊かな専門家による相談で質の高いカウンセリングサービスを展開。また、メンタルヘルスを提供する側として従業員の健康も無視できない事柄であるとし、健康経営に取り組んでいます。
今回は同社の山口様、猿渡様から、健康経営優良法人の認定に至った経緯や、実際の取り組み内容についてお伺いしました。
悩みの相談窓口をはじめとするメンタルサポート企業

ーーまずは御社の沿革や事業内容について教えてください。
山口さん(以下、山口):弊社はメンタルヘルス関係のサービスを提供しておりまして、24時間対応の相談窓口をはじめ、企業向けのストレスチェックやメンタルヘルスに関連した研修を展開しております。2001年1月に設立し、今年8月下旬には千代田区から港区新橋に本社ビルを移転いたしました。
個人向けの相談窓口には、職場や健康、家庭のことなど、メンタル面に限らず、さまざまな悩みに対応できるよう人材をそろえています。産業カウンセラー、公認心理師、臨床心理士はもちろん、健康面の悩みでは看護師や保健師、家計や財産の問題にはファイナンシャルプランナーや税理士、生活上のトラブル関連ならば警察OB、法律関係の問題なら弊社の顧問弁護士や社労士なども対応し、手厚くサポートできる体制です。
企業向けの事業としてはストレスチェックやメンタルヘルスの周知啓蒙を図る研修のほか、2020年6月より施行されたパワハラ防止対策法の社外相談窓口、産業医の紹介や休職者の復職支援といった、幅広いニーズに合わせたサービスを提供し、対応実績は2,000社150万人。大手企業や中央省庁、各自治体の相談窓口の実績もある会社です。
「はたらく」に寄りそう企業として健康経営優良法人の認定を取得

ーー健康経営を始められたきっかけや、健康経営優良法人の認定に至った経緯を教えてください。
猿渡さん(以下、猿渡):弊社は “「はたらく」に寄りそう”を理念とするEAP企業です。これを実現するには、従業員が心身ともに健康であることが不可欠であるとして、2019年に「あらゆる人々の心身の健康的な生活に貢献するためには、従業員自身の個性や能力を最大限に発揮できるよう健康維持増進に取り組む必要がある」と健康宣言をしました。
そして、取り組みを進めるにあたり、目に見える目標があったほうがわかりやすいということから、健康経営優良法人の認定を最初の目標に掲げました。2019年2月に社内でこの目標を発表し、協会けんぽの「銀の認定」を約半年で取得。その後、健康経営優良法人の申請を進めて健康宣言から1年後の2020年3月に、「健康経営優良法人2020」に認定されました。
ーー健康経営の取り組み開始から健康経営優良法人の認定まで、かなり短い期間で実現されたのですね。
猿渡:そうですね。他社さんのお話を伺って、これはなかなかの快挙だったと知りました。
「銀の認定」を取るために必要な項目には、すでに社内で実施できている事柄が多くあったので、半年以内で認定を受けられたのだと思います。また、メンタルヘルスやヘルスリテラシーを高める社内研修も以前から実施しており、会社に所属する保健師が健康診断結果のチェックをしていた点も、健康経営優良法人の認定にあたって評価されたポイントのようです。
このように、知らず知らずのうちに健康経営に必要な項目を実施できていたことが、早期の認定につながったと考えられます。
山口:メンタルヘルスのサービスを提供する企業である以上、健康経営ができていないとサービス品質にも関わります。そういった部分もあって、健康経営優良法人に必要な基盤が、ある程度できている状態だったのではないかと思います。
ーー従業員の皆さまの健康状態について、改善が必要だと感じていた点はありますか?
猿渡:弊社はカウンセラーや保健師が在籍していますが、的確なアドバイスを行なうにはベテランの人材が必要です。そのため、従業員の平均年齢が50歳と一般企業のなかでは比較的高く、血圧や脂質異常など健康診断結果で問題を抱える比率も高い状況でした。これにつきましては、健康診断結果は保健師が目を通し、有所見者への通知やアドバイスを行なってきましたが、急に改善することは難しいと感じていました。
特定保健指導の初回面談実施率を100%に
ーー健康経営を始められてからの、具体的な施策を教えてください。
猿渡:体の健康面の施策としては、特定保健指導の実施率アップ、胃カメラの会社負担、「歩数グランプリ」の開催があります。
特定保健指導は、各自に任せていましたが、実施率は25%と低い水準でしたので、実施率アップを目標に人事・総務主体で働きかけました。保健指導の予約や面談場所の指定など、特定保健指導に関わるすべてをフォローし、指導対象者が以前より手軽に受けられるようにしたところ、2020年・2021年は初回面談実施率100%を達成しました。これからは、面談実施率100%の継続や、自身の健康状態を意識する環境作りが課題になってくるかと思います。
胃の疾患の早期発見を狙って、健康診断でのバリウム検査を胃カメラ検査に切り替えられるようにもしています。これは年齢問わず希望者全員が利用でき、胃カメラの費用は会社負担です。
昨年は社員の運動習慣につながるよう「歩数グランプリ」というウォーキングイベントを初開催しました。スマートフォンアプリや万歩計など、各自が使いやすい機器を使用して歩数を計測し、参加できるようにしたところ全社員の50%ほどが参加してくれました。
歩数グランプリのイベント期間が1週間と比較的短く、健康に特化したお菓子の詰め合わせを参加賞として用意したことも、高い参加率につながったようです。また、各所属長が「歩数グランプリ」への参加を呼びかけてくれたことも、参加率アップにつながったと思われます。
社員が自由にイベントを主催できる「レクリエーションプログラム」

ーー心の健康面での取り組みも実施されているそうですが、こちらはどのような内容ですか?
猿渡:心の健康面での取り組みとしては「レクリエーションプログラム」と、全社朝礼のオンライン実施があります。
レクリエーションの実施は「3名以上」「コミュニケーションの促進になるもの」を条件にしました。他社さんではコミュニケーションの促進として、全社員が集まるイベントを開催されるケースもありますが、弊社は365日24時間体制で相談業務を行ない3交代制で働いている社員もいるため、全員を同じ時間・同じ場所に集めるのは難しい状況です。そのため、少人数グループでも開催できるように、リーダーがレクリエーション内容を決め、それに対して会社が費用補助をする手挙げ制の「レクリエーションプログラム」としました。
ゴルフ大会や歌舞伎鑑賞とランチの会、劇団四季の観劇や日帰り熱海旅行などが開催され、所属や年代を超えたコミュニケーション機会になったようです。
また、コロナ禍前に対面で行なっていた全社朝礼をオンライン化しました。出勤とテレワークを併用した勤務態勢の継続で、コミュニケーション不足により孤立を感じている社員がいないか、フォローが必要ではないか、という課題が生まれました。モニターのなかで顔を合わせ、会社の方針や情報を共有することで、社内のつながりを感じられるようになりました。
健康経営が社内で認識されると率先して取り組んでくれる環境に
ーー健康経営を実践するうえで、大変だったことはありますか?
猿渡:2019年2月に始めた健康経営の取り組みは、弊社代表取締役の新村の健康宣言により始まりました。トップダウンでの取り組みで周知する機会も多かったのですが、それでも全社員へ「健康経営」という言葉を浸透させるのは大変でした。周知メールの件名やイベントのチラシなどに「健康経営」という言葉を入れて、みんなの目に入るようにした結果、少しずつ認知されるようになりました。
はじめの頃は「健康経営って何?」という反応でしたが、健康経営優良法人の認定を受けたことで、社員の意識が大きく変わったと感じます。今では「認定を受けた企業なのだから、会社の取り組みにも参加しないと」という声が聞こえるようになり、「やらされている雰囲気」からは脱却できたように感じます。
ーー取り組みによる効果や、従業員の皆さまからの反響はいかがでしょうか?
猿渡:トップダウンから始まった健康経営ですが、今では、レクリエーションのように社員が手上げ制で参加するボトムアップ型の企画が実施できるようになったことや、健康経営の取り組み後に行なうアンケート回収率が9割を超えているのも、高い意識のあらわれだと思います。
健康経営を社会に広げ、従業員が働きやすい職場を整えたい

ーー健康経営について、今後の計画されていることや目標、注力していきたい事柄を教えてください。
猿渡:弊社は健康経営優良法人(中小企業部門)において、「ブライト500」を2年連続取得している企業です。認定を受けた企業として、またEAPに携わる企業として、社内だけでなく社外に向けた健康経営の発信も必要な立場であると認識しています。弊社のお客様にも健康経営を知っていただき、すそ野を広げていく役割も担っていければと考えております。
社内に向けては取り組み結果がどのような効果を発揮し、経営面に反映できているかの検証もしていきたいです。全国一律の基準となる指標データがあるわけではありませんので、トライ&エラーを繰り返しながら自分たちの取り組みは効果があるのかを検証し、事業にも活かすとともに、社員にとって居心地の良い環境作り・いきいきと働ける職場作りに役立てたいと考えています。
また、平均年齢の高い企業でもあるので、高齢になった従業員が働きやすい環境を整える必要性も感じています。実際、介護を抱える社員はテレワークを活用していますし、その人に合った働き方ができるよう、会社としてもサポートをしておりますが、まだ手を入れなければならない部分もあるでしょう。こうしたところも社員の協力を得て、みんなが働きやすい環境にできるよう注力していきたいです。
健康経営は経営層も巻き込んで、会社全体に浸透させるのが重要
ーー最後に、健康に関心のある読者や健康経営の担当者に向けて、メッセージをお願いします。
山口:弊社はメンタルヘルスサービスを提供する会社である以上、従業員も健やかに働ける職場環境が欠かせないと考えています。2年連続で「ブライト500」を維持できていますが、これを維持するだけでなく、経営層や管理職を含めた会社全体に健康経営を行き渡らせ、今後も企業の健康経営に必要なサービスを提供し、社会に貢献してまいります。
猿渡:弊社の健康経営は社長発信でスタートしたため、スムーズに進められましたが、担当者発信で進める場合は、方針や予算の承認をえるなど実現までの準備も大変です。これから健康経営に取り組まれる企業の担当者の方は、いかにして経営層の理解を得て、巻き込んでいくかは重要です。担当者だけで進めるのではなく、管理職や経営層の方々の理解・協力を得られれば、承認される範囲も広がり、できることも増えると思います。
そして、全社員に向けては「健康経営」という言葉を浸透させ、賛同してもらえる土壌作りが必要です。担当者個人で抱え込まず、会社全体を巻き込みながら健康経営に挑戦してみてください。
ーー本日はお話いただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:株式会社セーフティネット
インタビュアー:塩野実莉
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