アイケアを中心としたライフケア事業や、情報通信事業など、複数の事業を展開しているHOYA株式会社。
健康経営に取り組んだきっかけや、多数の事業部にわたって健康経営を浸透させるための施策について、今回は、HOYAグループ産業医の松岡さんと広報の嵐田さんにお話を伺いました。
健康経営をグローバルに進めていくために
ーー本日はよろしくお願いします。おもな事業内容についてお聞かせください。
嵐田さん(以下、嵐田):弊社では幅広い事業を行なっていますが、現在はライフケア事業と情報通信事業の2つを中心に展開しています。ライフケアではメガネレンズの製造、コンタクトレンズ小売店「アイシティ」の展開、内視鏡や白内障治療に用いる眼内レンズの製造や販売を行なっています。情報通信事業では、半導体製造に必要なマスクブランクスやハードディスク用のガラス基板などを製造・販売しています。
グローバルに展開している会社で、海外社員が多く、従業員数は38,000人ほどおります。
ーー健康経営を始めたきっかけについて教えてください。
松岡(以下、松岡):健康への取り組みについては、かなり昔から力を入れており、1995年には健康と安全の理念や基本方針ができました。
2003年には、社長と事業部長と統括産業医で健康と安全の委員会や話し合いの場を設けて、健康と安全衛生の取り組みをグローバルで進めていくという方針が出ていました。日本国内では、当初から受動喫煙対策として屋内禁煙化や、生活習慣病重症化予防としての健康診断の受診率向上、受診の措置の徹底に力を入れてきました。
また、この頃から、メタボリックシンドローム対策として、特定保健指導の開始に先立ち、HOYA健康保険組合と連携して、社員の生活習慣病予防に重点を置いた保健指導(生活習慣改善プログラム)を行なっていました。これらは、現在の事務所内全面禁煙化の実現や、高い精密検査受診率の維持など、長年健康経営の活動の軸となっています。
ーー従業員の健康状態について改善が必要だと感じたポイントがあれば教えてください。
松岡:以前は健康経営という言葉や認証といった制度もなく、独自で健康に関する活動をしていくしかありませんでしたが、最近では健康の指標のとり方も知られるようになってきました。
健康診断の問診については、ブレスローの7つの健康習慣(※)を一つの指標として分析しており、朝食の欠食率が高いことや、運動習慣者の比率や良好な睡眠習慣を維持できている人の割合がなかなか上がってこないというところが課題でした。
また、何かの病気や症状を抱えながら勤務することで、業務遂行能力や生産性が低下する「プレゼンティーズム」について毎年調査を行なっています。その結果、肩こりや腰痛が上位にきており、従業員の皆さんが本来の能力を発揮して、いきいき働いていくためにも改善が必要だと感じています。
(※)ブレスローの7つの健康習慣とは、喫煙をしない、定期的に運動するなど、実践の有無によって寿命にまで影響を与える生活習慣のこと。アメリカのブレスロー教授が提唱した。
他の人がどのくらい運動しているのか、確認できるようにした
ーー課題についての具体的な施策を教えてください。
松岡:朝食の欠食が多いことについては、朝食だけでなく食生活そのものを正していくことを目指しました。社員食堂でヘルシーなメニューを提供すること、カロリーや栄養成分表示をすることで、「まずは適切なものを三食しっかり食べましょう」という働きかけを行ないました。
ただ、オフィスや小売の場では社員食堂がないところもあり、朝食の欠食率が高い集団に対してはeラーニングでの啓発を通年で企画しました。eラーニングでは、朝食をとるメリットや、とらないことでのデメリットの提示、朝食だけでなく1日のトータルでの栄養バランスが大事であることも配信しており、試聴された多くの従業員の方々が、朝食を取るようになった、食事バランスを意識するようになったとコメントいただいています。
ーー運動習慣をつける施策は実施されていますか?
松岡:運動習慣については、昨年力を入れはじめたところで、スマートフォンの運動アプリを使って運動促進施策を展開しています。希望者にアプリをダウンロードしてもらい、歩数の計測と記録を行なって、歩数を競うイベントを個人戦や団体戦で企画しています。運動アプリを使った施策については、運動習慣がない人たちだけにアプローチするのではなく、すでに運動習慣ができている人たちも含めて会社全体で取り組みます。運動習慣ある人はさらに自分で取り組んでいただき、運動習慣がない人たちを引っぱっていく役割をしてくれるのではないかと期待しています。
他の人がどのくらい運動しているか、どういう工夫をしているか、など周りの人の動きが見えるようにすることで、運動習慣のない人も運動を始めるきっかけになるのではと思います。歩行イベントは年に2回企画していますが「あと何分歩いたら何位になる」とか「もう少し歩けば1人抜ける」など、互いに刺激をしつつ楽しみながら運動に取り組んでいる従業員の声も届いています。上位には表彰や商品券の進呈といった特典も、モチベーションにつながっているのではないかと思います。
ーー肩こりや腰痛などを抱えている人が多いというお話もありましたが、プレゼンティーズムについての施策はどうでしょうか?
松岡:過去には、肩こりや腰痛についても、アプリを使った施策を講じていました。肩こりや腰痛がいつもあると問診で答えた方を対象にアプリの利用を促し、アプリ上でトレーナーさんがマンツーマンでストレッチを教えてくれたり、姿勢へのアドバイスをしてくれたりと、より本質的に課題を解決できるようなサポートを行なっていました。現在は、先ほどお話しした運動アプリのなかで、日常の身体活動を促しつつ、腰痛対策プログラムとして腰痛予防に関する知識啓発やストレッチの情報提供を行なっています。
ニーズがあるところに施策を打つことが大切
ーー健康経営を実施するにあたり大変だったことを教えてください。
松岡:事業部が複数にまたがり、それぞれ風土や文化が異なるなかで、同じ施策を展開していくというところが大変でした。
健康経営を我がごととしてとらえてもらうためにも、どのようにアプローチしたらここの事業所では浸透させやすいのかといったことを、各事業所担当の産業医が事業所の人事担当者や健康管理担当者とコミュニケーションとりながら模索していかなければならず、一律に「さぁやるぞ」といってできるものではないと感じました。
ーー多くの事業部、多くの人がいるからこその難しさですね。どのように打開されましたか?
松岡:ニーズを把握して、ニーズのあるところに適切な施策や支援を届けること、事業部の方々とコミュニケーションを丁寧に取ることを心がけています。受動喫煙対策や禁煙推進を進めるにあたっても、喫煙者の方も含めた従業員の状況把握から始めました。対策を進めるうえで、まずは喫煙者の方々が禁煙をしたいのかどうかというニーズを確認したところ、意外とやめたいと思っている人が多かったことがわかりました。そこで、産業医や保健師による禁煙のサポートや、HOYA健康保険組合とのコラボヘルスとしてオンライン禁煙プログラムを提供し始めるなどして、まずは禁煙したい人を応援するようにしました。
また、就業時間内禁煙化や事業所内全面禁煙化を進める際には、事業部のキーパーソンが考える懸念事項を聴取して、それに対する解決策を提示しつつ、経営層の方針を施策に反映させていったことで、スムーズに施策が展開できてきたのだと考えています。
それはアプローチを丁寧にしたいという想いもありましたし、一方的に施策を押しつけるようなかたちにしても、実をともなわない可能性もあるのではないかと思ったからです。どのように良い施策を投げかけたとしても、実行してもらわないとそもそも意味がありません。であれば、どういったニーズがあるのかを把握したうえで、そのニーズに応じた施策を展開したほうが効率的だという戦略的な意図もありました。
社員自ら運動を始めた
ーー健康経営を通した社内の変化があれば教えてください。
松岡:印象的だったのは、歩行イベントを通して、従業員がプライベートの時間も歩いたり、なるべく階段を使ったりと身体活動の向上に取り組めていたことです。どうやったら自分の身体活動量が増えるのかといったことをポジティブに考えてもらうきっかけになったと思います。他の人がどのような運動をしているのかが見えることで、自分も頑張ろうと思えるなど、周りも巻き込んでみんなで取り組めたというのが大きかったと思います。
ーー今後の展望について聞かせてください。
松岡:運動施策は始めたばかりなので、より浸透させて参加率を上げていきたいと思っています。会社として健康を意識する風土をつくれるよう取り組んでいきたいです。
また、今年CEOが交代したばかりなのですが、社員の健康に対する取り組みが経営上の投資であるという現CEOの健康宣言をふまえ、ウェルビーイング向上を目指していけるよう、これからも積極的に産業医として事業部の皆さんと関わっていきたいと思います。
ーーこれから健康経営を始めようとしている読者に向けてメッセージをお願いします。
松岡:健康経営や健康施策を闇雲にやるのではなく、組織や従業員の健康課題に応じた施策を展開していくことが大事だと思います。今の課題が何なのかを見極めたうえで、タイムリーに施策を展開していくと、参加率や従業員の健康にもいい影響が出るのではないでしょうか。
ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:HOYA株式会社
インタビュアー:塩野実莉
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