
東京都町田市にある株式会社アスペアは、長時間労働になりがちなIT企業のなかでもいち早く、従業員の健康を考えた施策に取り組んできました。1991年の創業直後からフレックスタイム制を採用し、スポーツ奨励補助金制度や予防接種の費用負担、勤務間インターバル制度などを導入。「健康経営優良法人2019」より認定を継続し、「健康経営優良法人2022(中小企業法人部門)」では特に優れた上位企業に与えられる「ブライト500」にも選ばれました。
今回は同社 代表取締役社長 加藤雄一さんに、健康経営の取り組みや従業員からの反響についてお伺いしました。
Webサービスを開発する企業でいち早く健康経営に着手

ーーまずは御社の沿革、事業内容について教えてください。
加藤さん(以下、加藤):弊社は1991年3月に、情報システム開発を目的とする会社として設立しました。その後、インターネットの普及にともない、インターネットを活用した企業向けシステムや消費者向けシステムを手がけております。
具体的にはインターネット通販に必要なeコマースや婚活向けマッチングサービス、飲食店やホテル・旅館などの予約サービスといった、Webサービスの開発に特化しています。
ーー健康経営を始められたのは、どういったきっかけがありましたか?
加藤:従業員の健康については、創業時点から意識していました。
私自身、会社を立ち上げる以前からエンジニアとして働いていましたが、その当時は深夜や土日も働くのがあたり前という状況。それを受け入れていたものの、体は悲鳴を上げており「ずっとこんな働き方を続けるのか?」「こんな働き方を続ければ病気になるのではないか?」という思いがありました。
そして会社を設立し、従業員を採用して規模を拡大していくとき、こうした働き方をあたり前にしていて良いのかと考え、従業員には自分と同じ思いをさせない職場環境を作りたいと考えました。
当時は一般的でなかったフレックスタイム制を導入し、体調に合わせて勤務時間を自由に動かせるようにしました。また、制度を作るだけでなく、具合の悪い社員がいたら早く帰って休むよう促し、トップ主導で健康を考えた働き方を推奨しています。
ーー健康経営優良法人認定の申請に至った経緯を教えてください。
加藤:健康経営優良法人の認定は、経営者同士の勉強会で存在を知ったのがきっかけです。2018年から取り組み始め、2019年度の認定取得を目指しました。
創業当時から従業員の健康を意識した制度作りや取り組みをしていたため、申請にあたって大きな苦労はなかったです。取得要件を確認し、弊社ができていること・いないこと、単発的にやっていたことを見直していきました。また、取り組み内容を体系的に整理し、明文化して従業員への周知などを行ない、2019年度の認定に至りました。
スポーツ奨励補助金制度で運動の機会作りを応援

ーー従業員の健康状態について、改善が必要だと感じた点はありますか?
加藤:やはりエンジニアという職業柄、運動習慣のない従業員がいるのは改善が必要と感じました。仕事はデスクワークですし、オフの日もゲームなどインドアな趣味を楽しむ人もいます。運動不足になりやすい職業ということもあり、運動習慣のない従業員も体を動かす機会を持つよう、改善が必要と感じました。
ーー従業員の運動不足に対しては、何か対策をされましたか?
加藤:従業員に運動を推奨する施策としては、スポーツ推奨補助金制度を設定しました。外部のスポーツ大会に参加する際の費用を、会社が一部負担する制度です。
これは、外部イベント「スパルタンレース」に社員たちが任意で参加したことがきっかけとなりました。「スパルタンレース」は大人の障害物競走ともいわれる、アメリカ由来のスポーツです。コース内に高い塀や水たまりを設置し、それを乗り越え、バケツに石を詰めて走るといったさまざまな要素が入っています。
私自身も体を動かすことが好きで、フルマラソンやヨガを10年以上前から続けています。運動する時間はリフレッシュにもなることを実感しているので、社員たちにもこの制度を使って、運動を続けてくれたらうれしいです。
ーーその他の健康経営の施策には、どのようなものがありますか?
加藤:インフルエンザの予防接種は会社が全額負担し、新型コロナウイルスのワクチン接種では、通常の有給休暇とは別に、接種後の副反応に備えて休める休暇制度を作りました。ワクチン接種は任意ですが、2日間の特別休暇を付与して従業員の接種を促しています。
その他、外部の専門家や健康機器を扱うメーカーを招き、健康セミナーも実施しています。食事を取るときの順序や効率の良い筋トレ方法などをテーマに、少しでも社員が健康を意識し、学ぶ機会になればと思っています。
メンタルヘルスのセミナーも実施し、ストレスを溜めない方法やストレスとの向き合い方を、従業員が知る機会にしています。仕事でもプライベートでも、何らかのストレスはあるものです。ストレスとの付き合い方や気の持ち方を理解し、心の健康を保つ術を身につけてもらえればと思っています。
勤務時間内の雑談タイムでコミュニケーション活性化
ーー雑談タイムという従業員同士のコミュニケーションの時間を設けているそうですが、これはどういったものでしょうか?
加藤:雑談タイムはオンラインで実施している全体会議の際、最後の30分間に実施しています。これは従業員が話したいテーマごとのグループにわかれて、勤務時間内に雑談をするものです。
テーマは従業員から自由に挙げてもらい、それに賛同する人同士で集まって話し合ってもらいます。仕事の内容から離れたものがほとんどで、休日の過ごし方や趣味、飲食店情報の交換、運動やスポーツについてなど、さまざまなテーマでグループが作られます。
雑談タイムを始めた背景には、リモートワークの影響により、人と話す機会が減ってしまったことがあります。出社しない働き方になったため、仕事の合間にちょっとした雑談をする機会もなくなっていきました。
仕事の合間に雑談を挟む、精神的なゆとりがなくなったと感じる従業員もいたようで、それなら勤務時間内に雑談する機会を作ってはどうかと思って始めました。
健康経営に賛同し、積極的に関わろうとする従業員も

ーー健康経営に取り組むなかで、大変だったことはありますか?
加藤:経営者である私自身が率先して取り組んできたため、表立った障害は感じませんでした。ただ、2019年度の認定を目標に2018年から取り組みを始めた当初、従業員は「健康ってプライベートなことじゃない?」と感じていたように思います。健康経営は経済産業省の認定制度であることや、それに向けて何を行なうかなどを伝えても、響いていない様子でした。
また、経済産業省としては、健康経営によって業績向上を目指すとしている部分もあるようですが、企業の業績向上と健康経営の因果関係を計るのは難しいですね。
ーーお取り組みによる効果や、従業員からの反響はいかがでしょうか?
加藤:健康経営への取り組みを続けてきたことで、従業員の意識が変化してきたように思います。
弊社は従業員自身が目標設定して自己管理する制度を取り入れていますが、最近、健康管理やメンタルヘルスに関する資格を取って、自分が健康管理の責任者になると目標を立てる従業員が現れました。自身の健康だけでなく、他の従業員にも健康管理を促進させるよう働きかけたいと言ってくれたのは、効果の現れでしょう。取り組んできて一番うれしかった出来事です。
また、日常会話のなかで、これまで運動不足だったけれど、入社してからジムに通うようになったという従業員の話も出てきています。
地域に・IT業界に、健康経営の意味を発信して社会貢献
ーー今後の展望や計画、目標がありましたら教えてください。
加藤:日本の国民医療費は、年間40兆円を超えており、このままではさらに増加する恐れがあります。その対策として、病気になりにくい体作り・健康作りが重要であると思います。
健康であれば本人はもちろん、家族と幸せに生活できるでしょう。それが広がれば社会貢献にもなります。弊社の拠点である町田や相模原、この地域から、健康経営の重要性や意味を訴えて全国に広げ、今後も社会貢献できる企業でありたいと思っています。
また、IT業界はブラックな勤務状態というイメージもあり、健康を意識した経営方針にしている企業も、まだ少ないのではないかと感じています。健康経営優良法人に認定された企業はどういった業種かを見ていると、IT業界はまだ多くない状態です。IT業界に向けても弊社の取り組みを発信し、業界全体の健康意識を底上げしたいと思います。
それには、弊社の考えや取り組みを世間に伝えていく必要があり、現在そういった内容の取材は積極的に受け、各媒体に載せてもらうようにしています。
ーー企業の健康経営の担当者や、健康に関心のある読者へのメッセージをお願いします。
加藤:健康経営の担当者になられた人のなかには、何をどのように始めて良いか、迷っている人もいらっしゃるでしょう。まずは健康経営優良法人の認定要件を確認し、自社ができていること・できていないことを確認してみてください。そして、要件を満たすように進めていくのが、具体的でわかりやすい方法です。
認定要件は年度ごとに多少の変化はあるものの、根本的なところはそう大きく変わっていない印象です。2023年度の申請は締め切られましたが、今発表されている要件を確認して、2024年度に向けて取り組み始めてみてはいかがでしょうか。
そして、健康に関心ある個人に向けてのメッセージとして、弊社は健康経営を世間にもっと広げたいと思っており、賛同する社員を募集しています。取り組みに興味を持っていただけましたら、一緒に健康経営を進めていきましょう。
ーー本日はお話いただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:株式会社アスペア
インタビュアー:塩野実莉