
福井県にある株式会社日本エー・エム・シーは、高圧配管用の金属製継手メーカーです。1963年の設立以来、建設機械や農業用機械、工作機械などに必要な金属製品を提供し続け、高圧配管用継手の市場では、日本トップシェアを獲得しています。
2018年度からは5年連続で「健康経営優良法人」の認定を受け、中小企業部門のなかでも優れた施策を行なう企業に付与される「ブライト500」にも2年連続で選ばれている企業です。
今回は同社で働きやすい職場作りや従業員の健康を考え、さまざまな施策に取り組む取締役総務部長の高橋 永さん、総務課長の平瀬 布美代さんにお話を伺いました。
平瀬さんはもともと衛生管理者でもあり、健康経営においては健康づくり担当者として、とても重要な役割を担っているとのこと。2022年2月には自ら健康経営エキスパートアドバイザーと両立支援コーディネーターの資格も取得し、専門家として携わっています。
金属製継手のトップメーカー、株式会社日本エー・エム・シー

ーーまずは御社の事業内容や、お取り組みについて教えてください。
高橋さん(以下、高橋):弊社は機械用部品の金属製品を加工しており、油圧ショベルなどに使われる高圧配管継手(つぎて)の製造・販売をしております。直近の売上は80億円弱、国内拠点では190名ほどの中小企業ですが、配管継手の売上だけでこの売上を上げています。
中国・タイ・フィリピンにも拠点を展開し、グループ全体の売上では100億円ほどです。海外拠点を含めると1,000人くらいの従業員がいます。
国内従業員の男女比は3:1で、若い社員が比較的多く、技術・人文知識・国際業務の在留資格の外国人や特定技能外国人などの従業員もいます。
健康経営の取り組みとしては、健康診断結果から従業員の健康リスクを把握し、特定保健指導の積極的な参加と有所見者の再受診を促進しています。また、禁煙意識が高まるように分煙化や、運動機会になるウォーキングラリー、運動会などの社外イベントにも積極的に参加しています。
ダイバーシティ推進や従業員への支援施策が健康経営へ

ーー健康経営を始められたきっかけや、健康経営優良法人の申請をされた経緯を教えてください。
高橋:「健康経営優良法人」の認定を申請したのは、もともと弊社で取り組んでいた内容がある程度要件を満たしており、その延長線上にある認定だと考えたからでした。直接的なきっかけは、健康経営優良法人の認定制度を見つけた社長から「これも取得したらどうか」と声をかけられたことです。
当社には各種認定・表彰制度をどんどん申請して取得する社風があります。健康経営だけでなく、ダイバーシティ推進に取り組み、従業員の仕事と子育ての両立を支援する「くるみん認定」、若者の採用・育成状況が優良な企業を示す「ユースエール認定」なども取得し、従業員の満足度・充実度を上げられるよう取り組んできました。
ーー御社では女性活躍の一環として「ツギテラス」というプロジェクトチームを作って取り組まれているそうですが、こちらはどのようなものですか?
高橋:「ツギテラス」は女性活躍プロジェクトチームです。毎年5、6人のメンバーで活動しており、2016年からスタートしました。本日、インタビューに同席しております平瀬が初代リーダーでしたので、活動内容の詳細は平瀬からお話できればと思います。
平瀬さん(以下、平瀬):弊社は男性が多い職場なので、「ツギテラス」チームでは女性目線のアイデアで職場環境の改善や社員のモチベーションアップなどを目指す活動をしています。
例えば、従来、工場を訪問されたお客様の案内は男性従業員がしていました。でも女性でもできることですので、プロジェクト開始を機に「ツギテラス」メンバーが案内役をすることにしました。
ほかにも整理収納アドバイザーの資格を取って職場内の整理整頓・環境整備をしたり、年に2回社内報を発行して、お子さんが生まれた社員の方からいただいた写真を掲載して社内のコミュニケーションを促進したりしています。
健康に関連した内容としては、食育講座も実施しています。味噌作りや梅シロップ作りも開催しました。
再検査受診率100%を目指して

ーー従業員の健康状態について、改善が必要だと感じていた点はありますか?
高橋:健康診断結果を分析したところ、メタボや喫煙率の高さ、運動習慣のなさといった問題点が出てきました。以前からその可能性は感じていましたが、生活習慣の改善や運動促進、禁煙促進などが必要であると明らかになり、具体的な取り組みの必要性を感じました。
ーー具体的な施策についても教えてください。
高橋:まず健康診断結果から明らかになった課題については、特定保健指導の利用や有所見者の再受診を促進しました。健康診断は全員に受けさせる必要がありますが、保健指導や再受診は本人に行動していただかなくてはいけません。100%受診となるよう、強く働きかけているところです。
平瀬:一人ひとりに通知を出すのですが、初めのうちはなかなか行動してもらえませんでしたね。
そのため「期限内に行ってくれなかったら、上席を交えて衛生管理者と面談します」と周知したところ、再受診に行ってくれる人が増え、3年前からは対象者全員が受診してくれています。今では「再受診の期限はいつまで?」と、率先して期日を聞いてくれるようにもなりました。
私も「再受診に行ってくれるまで言い続ける」と宣言しているので、意識してもらえるようになったのだと思います。
高橋:喫煙率は下がりにくい状況ですが、社内分煙・時間分煙をして、受動喫煙への対策を進めています。もともとは自由にいつでも吸える風潮でしたが、確実に変化していますし、禁煙を考えている従業員もいるようです。
平瀬:従業員への医療支援として、失効した有給休暇を病気治療の休暇として使える制度も今年から導入しました。もし病気を患って長期間休む場合、有給休暇の日数が足りないと安心して治療に専念できません。まだ利用者は出ていませんし、もちろん利用者がいないほうがよいと思いますが、もしものときに休みを気にせず治療してもらえるようにしています。
カウンセラー資格を取って、心の健康にもアプローチ
ーーメンタル面の健康に関する取り組みもされていますか?
高橋:ストレスチェックはもちろんやっていますし、メンタル不調者に対しては総務や所属部署がサポートしています。復職に向けた相談や面談、復帰後のフォローもしていますので、メンタル不調を原因とした退職者は出さずにすんでいます。
また、平瀬は現在産業カウンセラーの資格取得に向けて取り組んでいます。相談内容によっては社外のカウンセラーに依頼したほうが良いケースもありますが、内情を知っている人に聞いてもらったほうが良いこともありますので、相談のプロとして従業員のサポートができる体制を整える準備を進めています。
社長も従業員との面談を毎年行なっており、各自が悩みや要望を話せるようにしています。外国籍の従業員は片言で挨拶をして終わるケースもありますが、社長と全従業員が顔を合わせる時間を作っています。
メンタルヘルスと直接的な関係はないかもしれませんが、仕事面での不安を取り除き、安心して働いてもらえるよう、外部キャリアコンサルタントによるキャリアコンサルティング面談も実施しています。
一人の要望であっても応えれば変化につながる
ーーお取り組みによる効果や従業員の皆さまからの反響はいかがでしょうか?
高橋:従業員の満足度は測っていませんが、この取り組みにより、定期健康診断結果の有所見率が減少傾向にあります。2019年度の有所見率が51%であったことに対して、2023年度に半減の25%以下にすることを健康経営の一つの目標に取り組んでいることで、2021年度は28%まで減少し、確実に良い変化があらわれているように思います。
健康診断の再受診も率先して行ってくれるようになりましたし、健康に問題が見つかっても、悪化を防げているのではないでしょうか。
分煙による受動喫煙の防止や、禁煙意識の高まりも見られ、協会けんぽからのレポートも成績が向上しています。これは従業員の健康状態の改善が反映されているからだと思います。
ーー健康経営推進のご担当者として、活動の意義をどのように感じていますか?
高橋:総務としていろいろな立場の従業員から相談を受けるのですが、それぞれの要望を聞いて叶えていくのが大事だと感じました。
相談してきたその人にとっては重大なことでも、当事者でない人は必要性を感じられない事柄もあるでしょう。でも、たとえマイノリティな意見であっても、一つひとつ要望を実現できれば、多様性を受け入れられる環境ができていきます。なにより、要望を聞いてもらえた人は確実に、働きやすいと感じてくれますよね。
それが働くうえでの安心やモチベーションになればと思いますし、そうした取り組みが実行できるたびに、担当者としてはまた一つ、会社を良くできたと実感できます。
平瀬:弊社は製造業なので「安全第一」ですが、そもそも健康でなくては安全を意識できないと思います。
実は数年前に、病気が理由で会社を辞めてしまった人がいました。その人のことが今でも心残りになっています。フォローできることがもっとあったのではないかと思うんです。
私としては社員全員が健康に定年を迎えて、もう十分働いたから辞める、という最後であってほしいと願っています。だから、多少煙たく思われても再検査に行くよう言い続けます。
これからも従業員が安心して働ける職場作りを継続

ーー今後の目標や注力していきたいことがあればお聞かせください。
平瀬:健康診断とは別に、全従業員を対象とした体力測定をやってみたいと考えています。その結果から運動習慣や食生活など、一人ひとりに合わせたアドバイスをしていきたいですね。
高橋:会社で働く時間は一日のうちの大部分を占めます。その時間が安心して過ごせるものでないとストレスになりますし、不安を家庭に持ち帰ってしまえば、悪循環にもなるでしょう。
従業員が安心して働ける職場となるよう、今後も環境整備や仕組み作りを継続していきたいと考えています。
ーー最後に、健康に関心のある方や健康経営ご担当者へメッセージをお願いします。
高橋:生産性向上や利益の追求も企業には重要ですが、従業員が健康であれば企業価値の向上にもつながるのではないでしょうか。
健康経営に取り組むことは、会社が社員のために活動していると従業員に理解してもらうきっかけになりますし、社外へのPRにもなります。
認定を受けるのは難しいと感じるかもしれませんが、社内でこれまでに取り組んでいる内容を見直すと、すでに実行できていることもあるものです。
健康経営は競い合うものではありませんので、他社の取り組み内容から学び、真似てもよいと思います。ぜひ従業員が働きやすい、魅力ある会社となるよう、皆さまもできるところから始めてみてください。
ーー本日はお話いただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:株式会社日本エー・エム・シー
インタビュアー:青柳和香子