
埼玉県入間郡にある石坂産業株式会社は、産業廃棄物中間処理業や環境教育事業を営む企業です。廃棄物処理を本業としながら広大な里山の保全活動にも力を入れ、豊かな自然から得られた食材を使って社員や地域の方々の健康にも貢献しています。
「健康経営優良法人2022(ブライト500)」に認定された同社の健康増進活動や効果、今後の展望について、専務取締役の石坂知子さんとHR統括推進部の越尾光江さんにお話を伺いました。
廃棄物の再資源化率100%を目指す石坂産業株式会社

ーー本日はよろしくお願いします。最初に御社の事業内容について教えてください。
石坂専務(以下、石坂):当社は家屋解体後の廃棄物を再資源化する事業を行なっています。強みとしているのは、再資源化率の高さです。
環境省の調べによる全国平均は約58%なのですが、当社の再資源化率は98%を誇っており、廃棄物を「分ける」技術の高さが特徴です。現在は100%再資源化することを目指しています。
また、工場周辺にある里山の保全活動・体験型環境教育フィールドも展開しています。
四季折々さまざまな生物が暮らす森の再生プロジェクトに取り組むうち、地域の方からも里山を利用したいという声が上がりましたので、この地区のもともとの名称にちなんで「三富今昔村」というサステナブルフィールドを作りました。
三富今昔村には、地域の小中学生とそのご家族なども含め、年間5.5万人以上の方が訪れます。社会科見学で村を楽しんだお子さんがお家でお土産話をすることで、後日ご家族を連れてきてくれることもあります。祖父母、親、子の三世代で楽しめるような場所です。
日本ならではの季節を感じられるおもてなし「室礼」にも力を入れ、社員が空間コンシェルジュとして空間演出もしています。
廃棄物と相反するように思える里山保全ですが、「循環」というキーワードを軸に事業展開をしており、今回のテーマである健康経営に関しても、社員だけでなく地域の方と一緒に心身ともに健康になっていきたいと考えて取り組んでいます。
自社農園の食材で栄養サポート

ーー健康経営を始められたきっかけは何だったのでしょうか?
石坂:先代の社長が体調を崩したときの経験談を耳にし、健康の大切さを実感しました。経営者だけではなく一緒に働いている社員も心身ともに健康でなければ、仕事も私生活も充実しなくなってしまいます。
心身ともに健康的に働き、いつかぽっくりと穏やかに最期を迎えられたら…という考えのもと、20年以上前からコツコツと取り組みを重ねてきています。
ーー具体的なお取り組みについても教えてください。まず食事面はいかがでしょうか。
石坂:食事は10年後の体をつくる基盤ですから、栄養のあるものを社員が摂れるようにしたいと考えていました。
その頃、後継者のいない地元の農家さんから「石坂さん、うちの畑を管理してくれないか」とお声がけがあったんです。
気づいたら6,000坪まで広がっていたその農地で、有機栽培をしています。里山はほとんど落葉樹なので、落ち葉で堆肥作りをして、土作りからこだわっています。
ここで収穫できる野菜は売るには量が少ないので、社員や里山を訪れた方々に五感で体感してもらおうということで、三富今昔村内の「くぬぎの森交流プラザ」や社員向け「しあわせキッチン」の料理に使って提供しています。
また、社員には添加物の多い食事ではなく体にいい食事をしてもらいたいので、福利厚生として野菜や金芽米などを使用した健康弁当を安価で提供しています。
医療面、食事面のメリットを設けて禁煙促進
ーーオーガニックファームのお取り組みはとても魅力的ですね。食生活以外に、気になっていた健康課題はありましたか?
石坂:喫煙率がほかの業界よりもやや高かったです。そのため、禁煙外来の費用を全額会社負担にして、禁煙に成功すると報奨金が受け取れるようにしました。
また、非喫煙者には1か月に3食分、ランチ代を補助しています。3年ほど前からこうした禁煙推進活動をしていて、6人が禁煙に成功しました。
習慣的な喫煙をやめるのは大変なことですし、ついつい先送りにしてしまう気持ちもわかるので、今後も会社でできる限りサポートしたいと思っています。
森の中の一等地にある「休憩棟」

ーー御社には休憩棟が設けられているそうですね。
石坂:森の中の景観がいい場所に、生産メンバーの休憩棟があります。食事をするゾーンとお昼寝をするゾーンを分けていまして、これは「食後15分でもいいから大の字になって眠ると体がリセットされる」とイチロー選手のパーソナルトレーナーさんからお聞きしたからです。
食事とお昼寝、それぞれが叶う環境を作りたくて、森の中の一等地にこの休憩棟を建てました。
最上階を改装し、内勤社員の休憩フロアに

ーー森の中の休憩棟、素晴らしい環境ですね。生産メンバー以外の方はどこで休憩されるのでしょうか。
石坂:内勤の間接部門に関しては、会社の最上階である6階が休憩フロアです。もともと社長室があったのですが、これを全面改装し、ワンフロア全てを間接部門社員の休憩室にしました。
ちょっとしたカフェやトップラウンジのような空間になっていまして、「IShizacafe(いしざかふぇ)」と呼ばれています。「自分たちで作っている会社」という意識をもってもらえるよう、キッチンや森の名称も、いつも社員から公募して決めているんですよ。
健診受診や生活改善もサポート
ーーほかに健康増進のお取り組みはありますでしょうか。
越尾さん(以下、越尾):定期健康診断のタイミングで、任意の検査も対象者に推奨しています。性別特有の疾患の検査や眼底検査、肝炎ウイルスの検査などを会社で全額補助しており、皆さん積極的に受診されています。
これらの検査で病気が見つかった社員もいますので、予防措置として毎年実施しています。インフルエンザの予防接種費用も会社が負担しているので、利用する方が多いですね。
また、約半年間かけて当社の管理栄養士による保健指導も行なっています。とくにメタボリックシンドローム症候群の対象者は、改善しても少し気が緩むと元に戻ってしまうことがあるので、根気強く働きかけることが重要です。
社員にとって「自分ごと」に変わってきた健康増進

ーーさまざまなお取り組みを経て、健康経営による変化はありましたか?
越尾:健康診断の時に記入される問診票を見ると、自分の生活を改善しようという数値が数年前に比べて改善されてきました。食生活や運動習慣を自覚する社員が少しずつ増えてきたと思います。
石坂:トップダウンでスタートした当初は、マッサージチェアや運動マシンなどの健康器具を設置しても利用する社員がいませんでした。
でも越尾が社員の声を吸い上げて施策に取り組んできた甲斐あって、社員にとって必要な環境や制度ができたことで一人ひとりの意識が変わり、「やらされ感」から「自分ごと」に変わってきたと思います。
社員を支える家族の健康も大切にしていきたい
ーー今後注力されることや展望をお聞かせください。
石坂:社員だけでなく、社員を支えている家族の健康も大切にしていきたいですね。
コロナ禍でなかなか難しい状況ではあるのですが、これまでも年に一回「家族参観日」や社員の家族、ペットも参加できる屋外イベントを開催しています。社員も家族も心身ともに健康になれるようなサポートをしていきたいと考えています。
越尾:社内制度としては、子育て中の社員が出勤時間を選べるようにしたり、介護休暇、生理休暇、不妊治療のための休暇などを柔軟に取得できるようにしたりしています。
石坂:新たに設けた休暇の一つには「ペット休暇」もあるんですよ。ペットも家族の一員なので、病院に連れて行きたいときや亡くなってしまったときの特別休暇として設けました。
ーー社員の方それぞれの生活に寄り添った仕組みづくりをされているのですね。それでは、最後に読者の方へメッセージをお願いします。
越尾:健康経営の取り組みを通じて、社員の声を一人ずつ拾っていくことが非常に大切だと感じました。
アンケート形式では言いたいことが言えない場合もあるので、一人ひとりが感じていることに向き合い、会社の制度や働きやすい環境づくりに反映させていくことが私の使命だと思っています。
石坂:経営側としては、否定をせずにまずは話を聞いて、すぐに対応できることは迅速に動き、時期尚早だと判断した場合も社員が納得するようにフィードバックすることが重要だと考えています。
再資源化率と同様、現状に満足せず、さらに進化していくという姿勢で経営に取り組んでいきたいですね。
今日ご紹介した三富今昔村は、物を大事に扱うことや、捨てるときを考慮して物を選ぶことについても考えられる場となっています。一般消費者の方々にライフスタイルについて考えていただくこともねらいの一つなので、あらゆる年齢層の方々にぜひこのサステナブルフィールドを体感していただきたいです。
ーー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:石坂産業株式会社
インタビュアー:青柳和香子
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