神奈川県川崎市に本社をおくアップコン株式会社は、硬質発泡ウレタン樹脂を使ったコンクリート版の沈下修正や研究開発に取り組む企業です。民間工事から公共工事まで幅広く施工を行なっていて、2021年には東京プロマーケットに上場も果たしました。
従業員の健康管理に関与していこうと始めた健康経営は業務の一環であるととらえて、就業時間内でさまざまな取り組みを行なっています。
「健康経営優良法人2022(ブライト500)」の認定も受けた同社の健康増進活動について、代表取締役社長 松藤展和さんにお話を伺いました。
厳しい健康管理ではなく健康への関与を目指し、健康活動倶楽部を発足
ーーよろしくお願いします。まずは御社の事業内容や沿革についてお聞かせ下さい。
松藤さん(以下、松藤):弊社は2003年6月に創業した会社で、神奈川県川崎市に本社を構えています。業務としては特殊な工事をしていて、硬質発泡ウレタン樹脂を使ったアップコン工法(コンクリート床スラブ沈下修正工法)で全国のコンクリート版の沈下を修正しています。
具体的には、工場や倉庫、店舗などの床が軟弱地盤もしくは地震などの影響でたわみや傾き、段差が生じてしまったコンクリート床に、特殊なウレタン樹脂の発泡圧力でコンクリート床下の地盤にウレタン樹脂を注入して発泡圧力で下から押し上げてフラットにする工法です。民間工事では工場や倉庫、店舗、一般住宅を対象にしていて、東日本大震災のときには千葉県でも多くの住宅が液状化して傾いたため工事にあたっていました。
公共工事では道路や港湾、空港、農業用水路トンネルという車が入れないような断面の小さなトンネル、学校の教室や体育館などにも対応しています。現在従業員は50名弱で、昨年東京証券取引所の東京プロマーケットに上場しました。
ーー健康経営には、どのようなきっかけや経緯で取り組まれるようになったのでしょうか?
松藤:2003年の創業当時から会社の基本理念として「健康第一」「安全第一」「家庭第一」を掲げてきました。ただ、みんなもう大人なんだから健康は自分で管理するものだと、従業員に特別何か働きかけることはしていませんでした。ところが、2015年に病欠や遅刻者が急激に増えてしまいました。私たちは4~5名のチーム単位で仕事をするため、一人でも欠けると業務に大きな影響がでて経営に悪影響をおよぼしますし、顧客からの信用も失ってしまいます。
健康第一を基本理念としているのであれば、会社側がもう少し従業員の健康に関心を持ったほうがいいのではないかと考え始めたのが2015年です。厳しく健康管理するというよりは、従業員の健康につながるアドバイスや健康の取り組みができるチャンスを提供するような関与をしていこうと考えました。
いろいろ社内で枠組みを作ったうえで、2016年2月から健康活動倶楽部(以下、健活倶楽部)をプロジェクトチームとして作りました。健活倶楽部は各部署の複数名が所属する、社長直轄のプロジェクトチームとなっています。
プロジェクトの活動は業務の一環ととらえているため、原則として勤務時間中に健康活動の取り組みを行なっています。就業時間外に実施すると、どうしてもやりたい人とやりたくない人の間で差が生まれてしまいます。就業時間中に業務を止めて健康に関するセミナーや体を動かす機会をつくることで、コミュニケーションの活性化もできています。
ーー2015年に病欠の方や遅刻者が急激に増えてしまった原因は、どこにあったのでしょうか?
松藤:2015年は会社が設立されて、12年が経ったときでした。当時は従業員が30数名の小さな会社にも関わらず、大企業病のような雰囲気になっていたと思います。病気というのも重病者が突然でたわけではなくて、本当に軽い風邪などで休む人が多かったんです。風邪は普段から健康に気をつけていれば、それほどひかないと思います。弊社は遅刻に対するペナルティも課していなくて、遅刻をしてもごめんなさいで済んでしまうところもあります。
もう一度、働くことを見つめ直す必要があると感じました。従業員の健康は会社の成長にもつながりますし、このようなことから健活倶楽部を発足させ取り組みを始めました。
ーー従業員のみなさまの健康状態について、改善が必要と感じていた部分はありますか?
松藤:2015年に病欠や遅刻が増えた以外にも、喫煙率は37%と喫煙者が多いという課題がありました。当時の日本の平均喫煙率が約4割で全国平均とほぼ同じではあったものの、喫煙は健康に良くありません。また、弊社の従業員は平均年齢が30代前半と若く、結婚して小さなお子さんがいると喫煙が家族にも悪影響をおよぼしてしまうため改善が必要だと感じていました。
従業員だけでなく周囲も巻き込んで健康経営に取り組む
ーー具体的な施策を教えてください。
松藤:喫煙に関しては今日から全員禁煙といっても実現は難しいので、2年かけて完全禁煙にすると従業員に宣言して取り組んできました。現状を説明したうえで半年後、一年後と段階的に目指すレベルを従業員に知らせて、徐々に喫煙を減らしていこうとみんなで頑張ってきました。取り組みの効果もあり、37%だった喫煙率は現在2%になっています。
また、受動喫煙による2次被害3次被害をなくすために従業員だけでなく来社されるお客様に対しても、タバコを吸って1時間以内は社内に入らないくださいとお願いして禁煙を徹底しています。例えば、お客さまと社内で長いミーティングをしていると、途中で休憩してタバコ吸いに行かれる人もいらっしゃいます。喫煙するのであれば1時間は社内に入らないでくださいということで、お客さんも喫煙を我慢して休憩はせずにミーティングを早く終わらせましょうとなります。結果として生産性も上がって、健康の取り組みが経営にもつながっていると感じています。
ーー徹底した禁煙への取り組みですね。禁煙以外にも健活倶楽部として、何か取り組まれていることはありますか?
松藤:健活倶楽部のベースとなっているのが、健活ポイントというポイント制度です。いろいろなアクティビティに参加することによってポイントが貯まり、ポイントは年に1回カタログギフトへの交換や弊社が入っている川崎市の社会福祉協議会などへの寄付に使えます。頑張ると年間で、2万円相当のポイントがたまります。
ポイントは、さまざまな取り組みを通してもらえるようになっています。例えば、駅から会社まで無料のシャトルバスがでているのですが、バスに乗らずに歩いて往復したり健活チームの行事に参加したり、始業時間の30分前に来ることでもポイントがもらえます。今年からラジオ体操を始めて、ラジオ体操を行なうことでもポイントはもらえます。ポイントを商品に換えて家族に渡すことで「ポイントを稼ぐために駅まで歩いたほうがいいんじゃない」というように家族からも健康を促す言葉がでてきて、家族も巻き込んで健康になっていくことができます。
毎年同じことをやっていてもマンネリ化してしまうため、例えば今年人気がなかったものはやめて次の年は新しい取り組みをするというように取捨選択しながら目先を少しずつ変化させることが重要だと考えています。健康といっても運動だけではなく食の専門家をはじめ、さまざまなセミナー講師もお招きするなどして従業員に健康に対してのきっかけを与えています。そこからやるかやらないかは、本人次第だと思います。
医療費は大幅に減少。全体として健康リテラシーの高まりを感じる
ーー取り組みによる効果はいかがですか?
松藤:協会けんぽから医療費の推移データをいただいているのですが、健康経営を始める前の2015年は一人あたりの医療費が106,848円でした。健康経営を始めてからは医療費が毎年どんどん減っていて、2016年は約2割下がって85,519円、2020年には41,024円になりました。建設業における一人あたりの医療費の全国平均は163,000円となっていて、弊社は全国平均の約4分の1です。もちろん従業員の平均年齢が若いこともありますが、意識的に健康経営をはじめてから一人あたりの医療費が10万円から4万円まで下がってきているのは事実です。
また、生産性も上がってきていると感じます。従業員が突然病気や遅刻をすると急遽、人員配置の入れ替えなどをする必要があり、すごく手間がかかるわけです。今は突発的な病欠や遅刻がほぼなくなってきているため、無駄な作業もなくなってきました。
残業時間もどんどん削減されていて、2020年は月の平均残業時間が6.3時間になっています。健康を意識することで、今まであった無駄も減ってきて会社の生産性向上につながっていると思います。
ーー取り組みによる従業員の皆さまからの反響はいかがでしたか?
松藤:食事面に気を使うようになったと思います。弊社は若い人が多く独身で一人暮らしだと、自炊せずにコンビニなどでいつも同じようなパターンの食事をすることも珍しくありませんでした。栄養学の先生がコンビニでもバランスのいい食事にするにはどうしたらいいのかといったことも教えてくれるため、サラダなどを併せて買ってくる人もでてきましたし、従業員同士で「今日はバランス取れているね」などと話す姿も見られます。
昨年から毎日8,000歩、歩きましょうという取り組みもはじめたのですが、従業員同士で「今何歩歩いている」といった健康に関してのコミュニケーションも生まれてきました。健康リテラシーは、全体的に高まってきていると思います。
私自身も4年前に健康マスター普及認定講師の資格を取得し、従業員に対して健康セミナーを年に何回か行なっています。定期的に歯科検診に行くようにずっと言い続けてきたのですが、今は多くの従業員が定期的に歯の検査に行くようになったと感じています。
工夫を凝らし多くの人が楽しめる取り組みを目指す
ーー今後、健康経営について注力されていくことがありましたらお聞かせください。
松藤:どの会社も健康経営を目指すうえで、2点重要なことがあると考えています。一つは、社長もしくはマネジメント層が健康経営に対しての理解をすることです。例えば、健康経営をやるといっても、社長自身がタバコを吸い続けているようでは従業員がついてきません。会社として健康経営をするのであれば、トップから健康経営を目指すべきだと思います。
もう一つは、健康経営の担当者があまり肩肘を張らないことです。自分たちは自分たちでやりますというスタンスでやっていかないと「なんでみんなついて来てくれないんだ」とフラストレーションがたまってメンタルがやられてしまい、担当者が不健康になってしまうんです。会社も理解をしてサポートしながら、チームとして健康経営に取り組んでいく必要があると思います。
弊社も絶えず順調にきているわけではなく、健康経営の取り組みも次のステージに上がるためには工夫を凝らしてやっていくことが大事だと考えています。「262の法則」があるように、健康経営をやるとなったときにポジティブにとらえる人もいればネガティブにとらえる人もいて、満足する人と不満を抱える人に分かれてしまうと思います。今までは50人の従業員を一つの塊と見ていたため、262になっていました。ですので、来年以降は工夫を凝らしながら、取り組んでいきたいです。
例えば、先月5kmマラソンをしたのですが、10kmぐらい走りたいという人もいれば、5kmでも歩くのが精一杯という人もいました。健活チームの手間は増えてしまいますが、積極派の人たちが楽しめる企画と、それ以外の人も楽しめる企画というように分けて企画を行ない、トータルで楽しめる人を増やすことが来年の目標です。
あと、毎年体育館を借りて行なっている体力測定は、今後も継続していきたいです。社会人になると自分の体力を把握する機会はなかなかないため、定点観測することで体力の維持につなげていきたいです。データをみることでモチベーションも上がり健康を目指していこうとなると思います。
ーー健康に関心のある読者や、健康経営に取り組む企業の担当者へメッセージをお願いします。
松藤:会社にも従業員にも共通して言えるのは、健康経営を始めようとなったときに身構えて形から入らないといけないと思ってしまうと、健康経営に取り組む前に挫折してしまうパターンが多いです。まずは身近なことから始めてみてください。
例えば、オフィスで働いているときに、1時間に1回立ち上がるだけでもいいと思います。会社として健康経営を始めるとなると予算も考えなければいけませんが、立ち上がるだけなら費用をかけずに行なえます。それに、業務にもそれほど影響はありません。
身近なところから健康経営を始めて積み重ねていくことにより、一つの形ができてくると思います。健康経営を始めるにあたってスポーツジムと契約するといったようなことができる会社はそういった取り組みもいいと思いますが、まずは本当に身近なところから動くことが大切だと思います。
ーー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:アップコン株式会社
インタビュアー:朝本麻衣子
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