
三重県伊勢市に本社を構える株式会社ゴーリキは、長くて重量のある資材や製品向けの棚を専門に製造販売する日本で唯一の工場です。大正時代に造船業としてスタートし、平成9年から現在の業態に転向しました。「関わる人、全てを幸せに」を経営理念に掲げ、健康経営にも取り組み、地元新聞にも活動内容が取り上げられている企業です。
今回は同社 代表取締役社長 強力 雄さんに、社内の取り組み方針や健康経営の施策についてお伺いしました。
工場や資材倉庫向けの鋼鉄棚を製造・販売

ーーよろしくお願いします。まずは、御社の沿革や事業内容について教えてください。
弊社は1918年に、私の曾祖父が木造船の造船場としてスタートした会社です。その後、2代目が鉄鋼船の工場にし、3代目となる父の代で業態を変更。現在は鋼鉄製の棚を製造・販売しており、この業態になってから38期となります。
弊社商品の「バーラック」は長くて重いものを乗せるのに特化した、工場や倉庫、ホームセンターの資材置き場などで使われる特殊な棚です。
選ばれる企業の証として健康経営優良法人の認定へ
ーー2021年に健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定を受けられていますが、健康経営を始められたきっかけは何があったのでしょうか?
健康経営を始めた背景として、少子高齢化によって現在進行形で労働力が不足している点があります。
これまでは企業が人を選ぶ時代でしたが、今は人が企業を選ぶ時代。では、選ばれる企業になるにはどうすれば良いか、それは健康に働ける職場であることが第一と考えます。
また、企業が人手不足で悩むのは、必要な人材を雇用できないからですが、そもそも人が辞めていってしまう企業だから人手不足に陥っているわけです。人が辞める理由に「給与、報酬が低い」に次いで「労働時間や労働環境などの条件が悪い」があるため、人が辞めない企業を目指して健康経営に取り組み始めました。
弊社はもともと有給消化率も悪くなく、仕事の大変さから辞めていく社員もなく、目に見える課題を抱えた状況ではありませんでした。労働基準法も遵守しており、問題を解決するためというよりは、職場をさらに良くするための取り組みという位置づけです。
そして、健康に働ける職場の客観的な証明となるよう、健康経営優良法人の認定を目指しました。
従業員主導による健康経営を実践
ーー御社の健康経営はどのような体制で取り組まれているのですか?
弊社は健康経営に限らず、社内の施策は従業員主導で考え、実行してもらっています。私がトップダウンで決定・指示をするのではなく、従業員自身が考え、働きやすい会社にしていくスタイルです。具体的には、レクリエーション委員会、5SDGs委員会、ライフワークバランス委員会の3つの委員会で活動しています。
レクリエーション委員会は社員旅行や忘年会、社内交流を図るイベントの企画運営。5SDGs委員会は環境に関わる5つのS、整理・整頓・生活・清潔・しつけと、SDGsやCSR活動を行ないます。ライフワークバランス委員会は、年間休日数や連休の設定、就業規則の見直しなどを行ない、以前は健康経営も担当していました。
しかし、事務処理や準備などの負担が大きいので、委員会とは別に今年7月からは健康経営推進室を立ち上げ、専門のプロジェクトチームで動いてもらっています。
このように従業員自身が考え、実行する体制を取っており、「やらされている感」なく取り組めているのではないでしょうか。各委員会や推進室で使う予算も私が金額を指定するのではなく、各自で年間事業計画と年間予算を策定してもらい、それを盛り込んだ全社の当期経営計画を立てています。
私がメディアに取り沙汰されるようなカリスマタイプの経営者なら、トップ主導ですべてを決めてもいいのでしょうが、残念ながらそうではないですし、私がすべてを決定してしまうと、私が思う以上の会社にならないと思います。だから従業員みんなで考えてもらい、会社のお金の使い道も決めてもらう。それが弊社の理念「関わる人、全てを幸せに」につながると考えます。
楽しく参加できる運動会や専門医との面談機会を設ける

ーー健康経営に関連した、具体的な施策を教えてください。
健康経営の施策として、初年度はレクリエーション委員会とライフワークバランス委員会のコラボによる運動会を、今年は体力測定を行ないました。場所は県営の体育館を借り、普段運動をしていない人が急に体を動かすとケガをする恐れがあるので、数カ月前から準備運動になる取り組みもしっかりして臨んでもらっています。
運動会ではリレーや玉入れ、障害物競走などをやりました。準備運動も楽しんでもらえるよう、ダンサーを呼んで即興の振り付けをしてもらい、準備運動の代わりにみんなでダンスを踊りました。
従業員からの発案で行なっている企画ということもあり、みんな楽しく参加してくれています。
メンタルヘルスに関する取り組みとして、社会福祉士の個別面談を実施しています。こうした取り組みは大企業には実施義務がありますが、中小企業は努力義務です。しかし、企業の規模に関わらず従業員の心の健康状態は目に見えない部分であり、プロに面談してもらうことで大事になる前に発見することが期待できます。
面談を面倒くさがる人もいましたが、やってくれて良かった、もっと機会を増やして欲しいという声もあり、年1回実施だったのを現在は年2回にしています。相談内容は守秘義務があるため先生から会社への報告はなく、その点も安心して話せる機会になっていると思います。
また、定期的な面談とは別に、従業員が個別にアポイントを取って相談できるようにもしています。こちらも守秘義務のため相談内容が伝わることはありませんが、「会社には直接言えないけれど、先生から会社に伝えて欲しい」といった要望があれば、先生から報告が入ります。
ここでは仕事以外のことも相談できるようにしているので、家庭の悩みを話している従業員もいるようです。
こうした場が用意されていることで、会社が気付けていない人間関係の悩みや問題を解決する糸口になり、「会社を辞める」という結論になることを防ぐ一助になっていると考えます。
禁煙については、喫煙率が高い状態なので、いきなり禁止してしまうのは喫煙者にストレスを与えかねません。禁煙を強要してストレスを感じさせたくないですが、健康的に長く勤めてもらいたくもあるので、たばこを減らす・止める方向で会社として働きかけています。今年は喫煙の影響や禁煙の効果を意識付けできるよう情報発信や、現在の喫煙状況や禁煙への考えについてのアンケートなどを実施しました。また、たばこが吸いたくなくなる「禁煙飴」も配って、禁煙のきっかけ作りをしています。
フレキシブルに働ける制度づくり

ーー健康経営に関連して、働きやすい制度づくりもされているとお伺いしました。
弊社は自分で出勤日・休日、勤務時間を決められるパート従業員およびフレックス社員制度を導入しています。
子育てや介護など生活環境との両立が難しく、働きたいけれど時間が合わなくて働けないという方は多いと思います。優れたスキルを持っているのに、時間の都合だけが問題で働きに出られず、埋もれてしまっている。だから、そうした問題を解決し、フレキシブルに働ける制度を3年前に導入しました。
伊勢市初のブライト500企業として注目を集める
ーー健康経営や働く環境整備に取り組むなかで、苦労されたことはありますか?
苦労したのは取り組みを始めた頃、担当者だけが一生懸命で、従業員全体への浸透ができていなかったことです。それ以前からも職場の環境をみんなで良くしていく活動があり、目新しさに欠けていたため全員を巻き込んでいくのが難しかったように感じます。
どのようにしてみんなを巻き込んで推進していくか、健康経営推進室も苦労している点かと思います。
ーー取り組みによる効果や反響はどのようなところで感じられますか?
認定を取得してから事務職を募集しましたが、健康経営の取り組みを見て良いと思ったから応募したという方もいて、取り組みの効果を実感しています。
大学生や高校生の前で講演する機会があるのですが、給与の額よりも自分がいかにやりがいを持って楽しく働けるかを重視しているのが伺えます。入社後の自分がどのように働いているのかをイメージできることが大事だと思いますので、健康経営も含め、SNSを使って会社の雰囲気が伝わる情報発信を積極的に行なっています。
誰かの働きにくさを解決すれば、みんなが働きやすくなる
ーー今後の計画や目標、注力されている取り組みがありましたらお聞かせください。
子育てや介護などと両立して働きやすくなるよう、フレックス社員制度を導入しており、この制度を使って働く女性も多い職場なので、今後は女性特有の健康問題を考えた制度を充実させたいと考えています。
女性はホルモンバランスが乱れ、体の不調や気分が優れないなどのPMS(月経前症候群)で苦しむ人もいます。生理休暇制度もありますが、無給扱いで名称的にも取りづらさがあるようで、もっと使いやすい制度にしていきたいです。
事情があって働きにくいと感じている人が働きやすくなれば、結局みんなにとって働きやすい職場になると思います。女性はもちろん、障がい者雇用についても考え、積極的に制度を充実させてさらに働きやすい環境を構築していきたいです。
ーー健康に関心のある読者や健康経営に取り組む企業の担当者へ、メッセージをお願いします。
一日8時間労働とすると、一日のうち3分の1は働いている状態です。つまり、働き始めてからの人生は3分の1が働いている状態で、そこがつらい場所だと人生の3分の1がつらい、ということになってしまいます。職場環境をより良くし、健康に働けるのはとても大事なことです。
また、そうした企業であれば辞める人も出ず、選ばれる存在になるでしょう。経営者として人手不足に悩んでいる、あるいは将来そういった問題が予想されるなら、健康経営をやらない手はありません。人手不足という経営課題を抱えているなら、健康経営にもぜひ、取り組んでみてください。
ーー本日はお話いただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:株式会社ゴーリキ
インタビュアー:朝本麻衣子
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