
石川県白山市に本社を置く「株式会社金沢シール」は、商品の顔であるラベル・シールづくりのプロとして、社員一人ひとりがこだわりを持って仕事をしている企業です。
同社は「健康経営優良法人」に2019年から認定されており、2021年からは中小規模法人部門の上位500社として「ブライト500」にも選出されています。
今回は代表取締役社長の小杉善文さんに、金沢シールの健康経営についてお話を伺いました。
健康経営で企業を活性化することは日本の未来につながる

ーー本日はよろしくお願いします。まず御社の沿革や事業内容について教えてください。
当社はシール・ラベルづくりを生業としています。昭和10年に創業し、今年で88年目を迎えました。
電子関係の商品や食品、医薬品など、さまざまなものに貼られているラベル・シールをつくっています。「生きた商品づくり」を企業理念として掲げ、お客さまの商品を「生きた」ものにするために、デザインの再現性や発色、品質などラベルづくりのプロとして社員一人ひとりがこだわりを持って仕事をしています。
また、オリンピックやワールドカップなど国際的なイベントが日本で開催される際には、ラベル製造のライセンスを取得し、ステッカーの販売をすることもあります。
ーー健康経営を始められたきっかけを教えていただけますか?
当社が健康経営を始めたきっかけは、少し特殊かもしれません。というのも、私は全国の中小企業が集まり、税金に関する勉強会や経営者の自己啓発を目的とした講演会などを行なう「法人会」という組織の青年部役員としても活動しています。
法人会は税金の観点から、健康経営を行なうことで企業が元気になり、組織が活性化すると、それぞれの会社の社員の所得税が増えて法人税も増えるという点に目をつけました。そして4年半ほど前に、法人会での健康経営促進を始めたんです。
当社でも申請することになったのですが、実はその時点で申請に必要な項目をほとんど満たしていました。それまで「健康経営」という言葉こそ知らなかったものの、社員の福利厚生に力を入れて取り組んでいたことから、初申請ですぐに認定をいただけました。
それ以来毎年認定を受けていて、2021年と2022年は2年連続で「ブライト500」にも選ばれています。
早くから残業削減に取り組み、働き方改革を推進

ーーもともと実施されていた取り組みにはどのようなものがあったのでしょうか?
当時すでに健康診断の受診率が95%以上でしたし、分煙や残業の管理もできていました。また、野球部などのレクリエーションクラブがあり、運動習慣を推奨できていたことも評価されたのだと思います。
また、当時産業医がすでにいたのですが、昨年からは産業医を専門にされている先生に変えて、少しずつ健康経営の質の向上を目指しているところです。
ーー取り組みを進めるうえで難しく感じたことなどはありましたでしょうか?
先ほどの法人会のなかで一番ハードルが高いのが勤務時間の超過でした。人手不足やコロナ禍での業績の伸び悩みなどから、超過勤務の改善をクリアできない企業が多々見られました。
その点、当社は残業の削減に前々から取り組んでいたので、一人当たりの残業は減ってきています。
以前は残業をして収入を増やしたい人もいたと思いますが、この数年は新入社員と話をしていると、「お金よりも早く帰って自分の時間が欲しい」という社員が増えているように感じます。
また、女性の働き方改革を進めていくうち、特に結婚されている方や小さなお子さんがいる方からは残業削減の要望が多くありました。このような社員の意識変化も関係していると思います。
運動部も文化部も活発に活動中

ーークラブ活動についても教えてください。
クラブ活動は社員が自発的かつ積極的に参加しており、会社からある程度予算も出してバックアップしています。別に頻繁に参加しなくてもいいので、とりあえずどこかに入るようにと勧めていますね。
40年ほど前から活動し、国体にも出場している野球部や、「金沢城リレーマラソン2019~秋の陣~」のハーフ部門で優勝した陸上部といった運動部の活動が盛んですが、映画クラブなど文化部もあります。
最近は4人以上いれば自由に発足できるサークル活動も推奨していて、どんな活動があるのか私も把握しきれていないほどです。クラブやサークルを通じて、運動習慣の改善だけでなく、コミュニケーションの場を提供できればと思っています。
私の夢としては、いつか社内運動会を開催したいですね。みんなで体を動かして、楽しい場にしたいと思っています。
社長との個人面談も。社内コミュニケーションの活性化に注力
ーー御社ではメンタルヘルスを重視されているそうですね。
健康にはフィジカル・メンタル・ソーシャルという3つの概念があるそうで、そのなかで私が一番力を入れているのがメンタルの健康です。
フィジカルの健康維持は個人でもできることが多いですが、メンタルの健康は会社が深く関与する必要があると思いました。コロナ禍でコミュニケーションが不足したり、昼食を一人で食べたりすることが増えましたよね。
そのような様子を見て社員のメンタル面の健康が非常に心配になりましたので、社員の受け皿となってメンタル面もしっかりサポートしていただける産業医に来てもらうことにしたんです。
ーーほかにメンタルの健康を守るためのお取り組みはありますか?
もともと会社の基本理念の一つをコミュニケーションとしています。仕事をうまくやっていくためにも、メンタル面での健康を保つためにもコミュニケーションがとても大切です。
そこで、4年前からパート・契約社員を含めた全従業員と私の面談を始めました。一人当たり30分くらいを目安に、仕事だけでなくプライベートや家族の話などをしています。従業員がリラックスして自由に話せる雰囲気づくりのために、休憩室の一部を改装してソファを置くなどの工夫もしています。
私が従業員から直接さまざまな情報を得るため、私が知っていて直属の上司が知らなかったなんていう話もあるんですよ。この面談を始めてから、部長や課長を含めてチームとしてのコミュニケーションも活性化されたと感じています。
最初は会社への不満を話す社員もいましたが、今では新入社員も含めて自由に自分の意見を述べてくれるようになりました。実際に若手従業員の意見を取り入れて、事務職の制服をスカートスタイル、パンツスタイルどちらも選べるようにしたという例があります。ほかにも面談で聞いた社員の声を役員間で議論して、制度を新しく変えていく活動を積極的に進めています。
健康診断だけでなく病気リスクの対策も補助
ーーフィジカルの健康施策についても教えてください。
40歳以上の全従業員に対して、尿で悪性腫瘍があるかどうかわかるスクリーニング検査を会社負担で実施しています。
もしこの検査で引っかかると、さらに細かく調べられるPET検査を受けることになるのですが、これが10万円ほどかかるんです。従業員の自己負担だと金額が大きいので、一次検査で引っかかってPET検査を受けてきた人に対しては、会社が半額負担することにしています。
健康は「個人の問題」ではなく、企業がサポートする時代に

ーー今後の展望をお聞かせください。
健康経営の認定を受けるために何かをするというより、現在の取り組みを継続しつつ、ステップアップしていこうと思っています。
当社には「経営品質」の向上活動に取り組んでいるというバックグラウンドもあります。企業のビジョンをきちんと定めて現状の課題を分析し、改善していく活動なのですが、そこにも「社員を大切にする」という基本理念があるんです。
今後も社員を大切にして日本に一つしかないような会社を目指し、独自性のある取り組みを続けていきたいですね。
ーー最後に読者の方へのメッセージをお願いします。
従業員が自分で健康を管理する時代は終わり、企業が管理・サポートする時代に変わってきていると思います。昔は「病気をすると会社に迷惑をかける」という考え方がありましたが、従業員が心身に不調をきたす際の責任は会社や経営者にもあるのではないでしょうか。できることは限られていますが、健康面を積極的にサポートしていくことも経営者の大切な役割と考えています。
採用の観点からも、最近は「長く働ける会社」「健康的に働ける会社」であるかどうかを意識して会社を選ぶ学生が増えてきました。そのため、当社の取り組みに共感する学生も多くいて、コロナ禍になってからは新卒採用に毎年約100人もの応募があります。このことからも中小企業として健康経営はぜひ取り組むべき、目を向けるべきことなのだと感じています。
ーー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:株式会社金沢シール
インタビュアー:青柳和香子
サントリーウエルネスのおすすめ商品はこちら