
大阪に本社を構える株式会社サンヨー・シーワィピーは、印刷用のグラフィックデータ作成や色校正、撮影スタジオ事業などを展開している企業です。
これまで困難だった、ニスなどの透明インキや塗布剤の厚みを測れる膜厚管理装置(透明インキ専用反射濃度計)も開発し、生産現場で活用しています。従業員が元気に働けるよう各種福利厚生を整え、健康経営優良法人の認定も5年連続で取得しています。
今回は同社の新谷さんに、健康経営優良法人の申請に至ったきっかけや施策内容をお伺いしました。
印刷データの作成や撮影、専用機器の開発も行なう

ーーまず、御社の沿革やおもな事業内容を教えてください。
新谷さん(以下、新谷):当社は創業53年となる印刷関係のデータ作成や試作品製作をしている会社で、大阪に本社があります。東京、名古屋にも製造拠点を設け、最近は子ども向けの写真スタジオや商品撮影といった、撮影の事業も展開しています。また、膜厚管理装置という、透明インキ専用の反射濃度計を開発するメーカーでもあります。
健康経営を知る以前から従業員の健康に配慮
ーー健康経営を始められたきっかけや、健康経営優良法人の申請に至った経緯について教えてください。
新谷:当社は2012年に、印刷機のインクを拭きとるために使用していた1,2-ジクロロプロパンなど、洗浄時が原因となる労働災害を起こしてしまいました。被害を受けた従業員やご家族だけでなく、多くの方からいただいたお叱りの声を真摯に受け止め、二度と労働災害を起こさないと誓い、安全衛生活動に取り組み始めました。
そして、パーパスである、「定年退職時、この会社で働いて良かった、自分の子ども・孫もこの会社で働かせたい、と思える会社にする」という考えになり、経営理念・行動規範を刷新し取り組みを進めています。
その後、ある保険会社の方から健康経営優良法人という制度が厚生労働省・経済産業省から発足されるという情報をもらい、「取り組んでみてはどうか」と勧められました。認定要件は、パーパスを達成するための活動内容と合致しており、それならチャレンジしてみようということになりました。
まずは、夜勤時の食事がコンビニ弁当になってしまう従業員のために、仕出し弁当を取り、少しでも品目良く、バランスの良い食事が摂れるようにしました。
ーー従業員の健康状態について、改善が必要だと感じていた点はありますか?
新谷:健康診断の結果、要再検査や要精密検査の割合が一定数いるので、この方たちをフォローして減らしていくのは課題の一つと感じています。とはいえ、会社が指示をするだけでは一過性のもので終わる可能性がありますから、ここ1年くらいは社員のヘルスリテラシーを高めるところに力を入れています。
また、運動習慣を身につける機会になるよう、スマートフォンアプリを使った企業対抗ウォーキングイベントにも参加しています。
ヘルスリテラシーを高める講座や運動イベントを実施
ーー従業員のヘルスリテラシー向上には、どのような取り組みをされていますか?
新谷:ヘルスリテラシーの向上には動画試聴による講座を実施しています。テーマは手軽に食べられるコンビニ弁当やインスタント食品を食べ過ぎるとどのような危険があるのか、肥満体型はどのようなリスクが高まるのかなどを取り上げてきました。
ケガをして血が出ていたら痛みがあるのですぐに対処が必要とわかりますが、生活習慣病や循環器系の病気は、出血や痛みといったわかりやすい変化が出てこないものもあります。そういったところに気付いてもらい、自発的な行動につながるように情報発信をしています。動画の視聴後にはアンケートも実施し、感想のほかに従業員が知りたい・興味があるテーマを聞いて、今後の取り組みに活かしています。
ーー企業対抗ウォーキングイベントはどのような内容でしょうか?
新谷:企業対抗ウォーキングイベントは春や秋に開催されます。企業として参加登録をして、企業内の平均歩数で順位が決まるイベントです。以前は、半分より上の順位という結果でした。3割以上の従業員が参加し、1駅分は歩くようにするなど従業員も運動を意識して取り組んでくれているようです。
いろいろな企業さんが参加されるのですが、企業同士で対抗しているというよりは「社内のAさんがこれだけ歩いているから、自分ももっと歩こう」といった、社内のコミュニケーション促進につながったり、刺激を受けて歩数を競い合ったりしています。
以前は、従業員のご家族が参加して運動するイベントの開催や、みんなでウォーキングしたあとにバーベキューをすることもあったのですが、ここ最近はそういった企画が難しくなり、各自で取り組めるウォーキングイベントになりました。
みんなで集まって運動する企画だと、その日だけの取り組みになってしまい、運動習慣につなげていくのが難しいです。ウォーキングイベントなら期間が1カ月間ありますし、その期間歩くようになれば習慣につなげていけるのではないかと考えています。
従業員が休んでもフォローし合える社内文化の定着

ーー御社は、仕事と病気療養の両立もしやすい環境になっているそうですね。
新谷:当社は病気療養のために長期間休む従業員がいても、ほかのメンバーで支え合う文化が定着しています。休む人も治療に専念でき、復帰しやすい環境を作れているようです。
その背景には、3年に1度、1週間程度の有給休暇を取得して、健康を促進してもらう旅行費用補助制度があります。ここ数年は行動制限もあってストップしていますが、会社からもお金を支給して、リフレッシュに使ってもらいました。
従業員の皆さんが楽しみにしているので、「自分も1週間休むのだから、ほかの人が休むときは支え合わないと」と、自然と助け合える状態です。それが病気療養をするときにも活きていて、自分がなったときも誰かがなったときも、みんなで助け合うという文化になり、病気を理由に辞める従業員は出ないような体制が整っています。
また、業務上の役割以外に5S委員会や安全衛生委員会での役割も、従業員に与えています。病気療養のために休むことになっても、仕事以外に役割を持っていることでモチベーションになり、復帰の足がかりになるような仕組みにしています。
意見を取り入れて取り組み内容をブラッシュアップ
ーー健康経営を実践するうえで、大変だったことはありますか?
新谷:取り組み始めた頃は、従業員に健康経営の取り組みを浸透してくことが大変でした。2年が経った頃に実施したアンケートでは「取り組み内容がわかりにくいからもっと情報を開示して欲しい」「もっと健康に対する情報が欲しい」といった意見も寄せられ、それらを少しずつ改善していった結果、浸透が進みました。
ヘルスリテラシーを高める情報提供も、初めの頃はメールマガジンのような文章だけの発信でしたが、それよりは動画を使ったほうがわかりやすいだろうと切り替えました。「もっと情報が欲しい」という意見に対しては、どのようなテーマが良いのかを掘り下げ、健康に関連した悩みを解消するものを取り上げるようにしています。
例えば職業柄、腰痛になりやすい人や、ずっとパソコンに向かっているため肩が凝りやすい人もいます。そういった悩みに対して、講師を呼んで椅子に座ったままできるストレッチ講座を実施したこともあります。
社内の制度や取り組みが健康経営によって明文化される
ーー取り組みによる効果や、従業員からの反響はいかがでしょうか?
新谷:当社が以前から取り組んできたことを健康経営の枠組みに当てはめていくことで、従業員に会社の取り組み内容を理解してもらいやすくなったのではないでしょうか。これまで点在していた制度や福利厚生が一つにつながり、「なるほど、こういう効果があるのか」「こんな意味があるのか」など、従業員からの理解も広がってきていると感じます。各部署と役割分担しながら連携し、社内でうまく回っていけるようになりましたね。
健康経営は会社を元気にするツール

ーー健康経営について、今後の計画や注力されていくことがありましたらお聞かせください。
新谷:やはり健康診断結果の改善は、さらに取り組む必要があると感じています。結果を出すのが難しい部分ですが、だからこそ意味があるのではないでしょうか。
それには本人の気付きや健康への意識が重要です。もともと意識を持っている人は、こちらが何かを伝えて行動を促さなくても自発的に動いてくれます。しかし、健康に興味のない人・意識が向かない人は一定数いて、自分から動いてもらうのが難しいです。その人にどうやって気付き、動いてもらうか。食生活の改善や運動の習慣化をしてもらえるかは、今後のテーマになるでしょう。
健康を意識してくれない人の割合を減らせば、結果として健康診断結果の改善にもつながると思います。
ーー健康に関心のある方や、企業で健康経営に取り組まれる担当者の方に向けたメッセージをお願いします。
新谷:従業員が健康になることで、社内の空気が明るくなると思います。出勤しているけれど体調が悪いという人より、元気に働いている人がいたほうが職場の空気も明るくなり、好循環が生まれるでしょう。
従業員の健康につながる健康経営は、会社を元気にする一つのツールとしての有用性も感じていますので、取り組む企業が増えれば良いと思います。
ーー本日はお話いただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:株式会社サンヨー・シーワィピー
インタビュアー:塩野実莉