
三重県四日市市にある「株式会社四日市事務機センター」はオフィス用ハード、ソフトの販売・修理・保守から、ネットワークの構築、セキュリティ事業などを行なう企業です。「未来を笑顔に」という経営理念を掲げ、従業員やその家族、取引先など会社に関わる人々を笑顔にできるよう事業を展開しています。
社内にさまざまな福利厚生制度を導入して健康増進や働きやすい環境づくりに取り組み、「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」の認定を5年連続で取得している同社。2021年・2022年は、同認定の中小規模法人上位500社にあたる「ブライト500」にも選出されています。
今回は同社代表取締役である佐野 智成さんに、ユニークな取り組みや始められた経緯、今後の展望をお伺いしました。
OA機器の販売からIT活用した職場環境の提案まで

ーーまずは御社の事業内容を教えてください。
当社は三重県の北西部にあり、四日市・津・伊賀を拠点として、「ネットワークトップアシスト株式会社」および「株式会社クラウドエム」を含めた3社で活動している企業です。
「未来を笑顔に」を企業理念に、私たちの仕事に関わるすべての人たちを笑顔にしていくのを最大のテーマにしています。そのなかには従業員やその家族の健康も含まれており、健康経営も重視しています。
事業内容は大きく分けて3つあり、OA機器の販売・修理・保守、クラウドシステムとそのセキュリティ体制の構築、IT技術を活用した職場環境の提案です。
OA機器の販売・修理・保守では、パソコンや事務機器などのハードはもちろん、業務に必要なシステムやアプリ、オンラインツールなどのソフトも提供し、アフターサポートでは現場に1分でも早く駆けつけることを意識して活動しています。
アフターサポートの体制はメーカーからも高く評価されており、全国の販売会社のなかでも2年連続で3位の成績を得ました。
そして、企業活動においてデータは非常に重要です。クラウドシステムでのデータ管理には、しっかりとしたセキュリティが欠かせません。災害時やトラブル発生時に情報を守れるシステムとセキュリティ体制を提案・構築しています。
ITを活用した職場環境の提案としては、機能性を高めるとともに、カフェスペースやユニークなしかけを当社事務所内に作り、実際に見ていただけるようにしています。
従業員と家族を考える職場環境を目指して

ーー御社が健康経営を始められた背景には、何か課題に感じることがあったのでしょうか?
健康経営のきっかけとしては離職率の高さがあり、会社を変えていかなければという思いがありました。
約10年前に、ある営業職の従業員が家族の病気を理由に転職したことがあります。本人はとても優秀で真面目な性格で、1年以上前から退職を決意していたにもかかわらず、会社に迷惑をかけたくないからと直前まで社内の誰にも相談をしていなかったのです。
決算期の最後まで真剣に仕事をしてくれたあとにようやく私に事情を伝えてくれました。家族の病気のこと、そのサポートが必要であること、自宅から通いやすくて柔軟な働き方ができる次の仕事が決まっていることを伝えられ、本当に残念な思いでした。当時もっと会社が柔軟に対応できる状態であれば、今でも一緒に働けていたかもしれません。
ーーそれからどのような取り組みをされましたか?
会社を良くするには何が必要かを考え、「TFS活動」というものを始めました。これが現在の健康経営のもとになった取り組みです。
会社の仲間と家族の満足度(Team family satisfaction)の向上を目的とし、宣言文を出して、優良な他企業の施策をどんどん取り入れていきました。全国各地の企業を回って、どこよりも制度を充実させられるよう、妥協なく推進しています。
思いやりや助け合い、感謝の気持ちを社内で育めるよう制度を整えていけば仕事にも反映され、お客様の信頼や従業員のモチベーションもアップします。その結果、会社業績も上がり、さらに福利厚生を充実させられるのではないかと考えました。
社内制度の利用はすべてアプリから申請・管理できるようにしており、従業員の利用頻度も以前より上がっています。
ーー社内の制度を整えた結果、「健康経営優良法人」の認定に至ったのですね。
もともと認定取得を目指して取り組んでいたのではなく、会社を変えようとして始めたTFS活動のテーマの一つとして「健康」がありました。従業員が問題なく働けて家族のサポートができると、仕事も生活も充実します。
TFS活動を進めていたときに保険会社さんから「御社なら健康経営優良法人の認定がすぐに取れますよ」と教えていただき、認定制度を知りました。それから毎年申請しています。
有給休暇の取得手当や医師相談アプリが人気
ーー健康経営につながる数多くの福利厚生制度をいくつかご紹介いただけますか?
私が社長になって最初に導入したのは、非喫煙者に支給する手当です。これはタバコを吸っていない人に対して、毎月3,000円支給する制度です。
一番人気があるのは有給休暇を消化すると手当がもらえる「休んで健康プロジェクト」ですね。当社は年5日の計画年次休暇のほか、年間15日の有給休暇がありますが、月に1回取得すると翌月の給与に1万円の手当を加算しています。4年前に導入してから、従業員全員が活用しています。
この制度を始めた背景には、有休取得率30%という状況がありました。管理職の従業員たちが有休をあまり取らなかったため、他の従業員も取りにくかったようです。
ところがこの制度を導入すると、管理職が積極的に有休を取るようになり、従業員全体が休みやすくなったのでとてもよかったと感じています。
ダイエットのきっかけになればと思って始めた制度に、減量したグラム数に応じた手当を支給する「ダイ得っと制度」があります。ただ痩せすぎてしまうとむしろ健康に良くないため、現在は健康診断で引っかかった人だけを対象にしています。
ほかにも血管年齢や血圧を測定し、改善された従業員にインセンティブを出す「蘇れ!!血管くん」や「下げろ!!高血圧」などもあります。ただこれらは計測機械を使うためコロナ禍の現在は中止しており、状況が落ち着いたら再開したいと考えています。
ーー医師への相談ができるアプリも導入されているそうですね。
医師相談アプリは24時間・365日、気軽に医師への相談ができるサービスです。従業員だけでなく、その家族も使えるよう会社で費用を負担しています。
このアプリはスマートフォンで使えて、AIの問診のあと登録されている医師から10分から15分程度で回答が来ます。回答をくれる医師名や勤務先病院の情報も表示されるので信頼して参考にできます。健康上の不安があったとき、手軽に確かな情報へのアクセスが可能です。
従業員が医師に相談している内容は見えませんが、アクセス数は履歴として残ります。全然利用していないように思われる従業員には使い方を教えて、健康の相談窓口として使うよう伝えています。
私が一番有効活用しているのは、従業員から相談を受けたときです。例えば「妻が産後鬱になっていると言われたのですが、どうしたらいいでしょうか」と聞かれたとき、このアプリで相談してみました。
すると「旦那さんがそばにいるだけでも安心するため、会社としては時短勤務を推奨したり有休を多く取得してもらったりすることで改善する場合は多いですよ」とアドバイスをもらいました。その通りにしたら1カ月後に本当に改善されたので、アバウトなアドバイスをするのと比べてはっきりと勇気をもって伝えられるようになりましたね。
健康経営に取り組んだ結果、会社業績にも好影響

ーーさまざまな施策はどなたが考えられているのでしょうか?
他社の施策を参考にしたものもあれば、私が考えたものもありますし、従業員の意見を反映させたものもあります。
例えば配偶者の誕生日に食事代を支給する「奥様バースデイ制度」は私の考案です。独身の従業員も利用できるよう、父の日または母の日に食事代を支給する「生んでくれてありがとう制度」は、従業員からの改善案を採用して設けました。
ーー特に設けてよかったと感じていらっしゃる制度はどれでしょうか?
やはり有給休暇の取得で手当がもらえる制度が一番利用率が高いため、休みを取りやすい職場に変えられて良かったと思います。日曜日に会社のメンバーが集まってハーフマラソンに出場するなんて、昔だったら考えられませんでした。今は休暇を取って出場準備ができるうえに、会社から補助金も出ます。
あと胃の病気リスクを目的とした「脱ピロリ菌計画」というものも実施していて、従業員と家族のピロリ菌検査を全額負担しています。今まで実際に検査が役に立った例もあるので、発病リスクを軽減できてよかったですね。
ーー健康経営に取り組まれてきて、どのような効果を感じていますか?
従業員の離職率が下がり、会社業績にも良い影響が出ていると思います。費用はかかりますが、健康経営は企業が成長するための投資でもあると思いますし、経営者として自分のモチベーションにもなっています。
実は前期の売上額が過去最高を記録しました。コロナ禍ということもあり営業が難しい状況であったにも関わらず、過去一番の業績を収められたのは、従業員ががんばってくれたからで、働きやすい環境もそのがんばりを支えているのだと思います。
IT技術を現代の「忍術」として広め、企業の環境づくりを支えたい

ーー今後の目標や注力されていくことがありましたらお聞かせください。
今までの取り組みを継続させるのはもちろん、会社のIT化をさらに進めて、事務所内の居心地の良さを追求したいですね。
そして会社の環境をどのように整えるか悩まれているほかの中小企業の方々にも、当社の事例を知っていただき、従業員を大切にできる環境づくりをお手伝いしていきたいです。
当社の環境だけが良くなっても仕方がないので、IT化や健康経営に取り組まれる企業が三重県内に増えるよう、協力できればと考えています。
当社グループのネットワークトップアシスト株式会社が本社をリノベーションするのですが、忍者の街として知られる伊賀市にあるので、「忍者屋敷オフィス」にできないかと考え、補助金も利用して設計を進めています。
「瞬間移動」や「分身」といった忍術は、現代のIT技術に置き換わるものです。当社のオフィスを見た企業が興味を持ち、従業員の健康や職場内のチームワーク、環境づくりを考えてもらうきっかけになればと思っています。
ーー本日はお話いただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:株式会社四日市事務機センター
インタビュアー:青柳和香子
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