愛知県瀬戸市の「大橋運輸株式会社」は、法人向け貨物輸送サービスや個人向けの生前整理・遺品整理・引っ越しサービスなどを提供する企業です。
同社は「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」に6年連続で認定されており、そのなかでも上位500社である「ブライト500」に2021年から2年連続で選出されています。
社員の健康増進のため、そして地域の発展のためにどのような取り組みをしているのか、大橋運輸の管理栄養士である太美善さんにお話を伺いました。
「安全衛生」が重要。管理栄養士を採用した大橋運輸株式会社
ーー本日はよろしくお願いします。まずは御社の事業内容について教えてください。
当社は愛知県の瀬戸市に本社を構え、法人向けとしては自動車部品などの輸送、個人向けとしては生前整理・遺品整理・引っ越しなどのサービスを提供しています。現在は4拠点で、社員数は96名です。
ーーありがとうございます。健康経営に注力され始めたきっかけは何だったのでしょうか。
運送業界は平成2年の規制緩和から業者数が増えて、競争が激しくなりました。人手不足や長時間労働を解消するためにより優秀な人材を集め、社員満足度の向上に力を入れる必要があったというのが、健康経営の背景です。
また、その頃から世間一般的に健康に起因する事故が増えていたため、課題が「安全」から「安全衛生」に変化しました。当社の代表が「今後は健康がより重要視される」と予想をして健康経営に力を入れるようになったと聞いています。
ーー太さんご自身についても教えていただけますか?
私は中国出身で、高校生のときに母を病気で亡くしています。それがきっかけで医者になろうと決め、中国の大学で臨床医学部を卒業しました。
しかし研修医として働いていたとき、脳や心臓などの突然の病気で病院に着く前に亡くなられる患者さんも多く目の当たりにしました。「病気になる前に何かできることはないか」と考えていたときに管理栄養士という仕事を知り、日本に留学したんです。
日本の大学を卒業して管理栄養士の資格を取得できたのですが、外国人が管理栄養士として病院などで働く場合はビザが得られないことを知りました。そこでまずはほかの業種を選んで永住権を得てから管理栄養士としての経験を積もうと考えました。
管理栄養士の勉強は自分で続けながら別の仕事をして、5年後にやっと永住権を得られました。仕事の制限がなくなったので転職を考えたところ、大橋運輸が管理栄養士を募集しているのを見つけました。
入社の決め手は大橋運輸が掲げていた「治療よりも予防」というキーワードです。それは私が医者から管理栄養士へと方向転換をした理由そのものでしたので、目指すものが一致していると感じました。
生活習慣改善に向けた栄養指導や情報発信
ーーお仕事の一つに「栄養指導」があるそうですが、これはどのような内容なのでしょうか。
社員が受ける定期健康診断の結果をふまえ、産業医の先生の所見をもとに栄養指導をしています。当社では「予防」に重点を置いていますので、社員一人ひとりの話をよく聞きながら、その人の生活習慣を見直せるような食事や運動、睡眠のアドバイスをしています。
また、毎週月曜日にLINEで社員に健康情報を配信しています。健康リテラシー向上を目的として、社員それぞれが必要な知識・情報を得られるようにしています。
ーー例えばどのような内容を配信されているのでしょうか?
最近だと、歯の健康に関する配信をしました。厚生労働省と日本歯科医師会が推進している「8020(ハチマルニイマル)運動」というものがあり、これは「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。
当社でもこの運動の一環として6月の歯の衛生週間に、日曜歯科検診治療を行ない、「良い歯の日」や「いい歯の日」(4月18日と11月8日)に合わせて、歯周病予防のための歯ブラシセットを全社員に配布しています。11月8日が近づいてきたタイミングでは、アンケートに答えると10名にワンランク上の高級歯ブラシセットが当たるという企画を配信しました。
アンケートの結果は今後の取り組みを考える際の参考になりますし、社員が通常の配信ばかりで飽きないように、ときどきこうしたイベント要素も取り入れています。歯に関しては1年に2回診察を受けてもらうのが理想ですが、1回でも歯医者に行こうと思ってもらえたらうれしいですね。
ちなみに、一般的に健康意識が高いだけでなく実際に行動して健康習慣を身につけている人は約3割といわれています。私はこの割合を目安にしていて、アンケートの提出率なども3割を超えられるようにと考えています。
「地産地消・旬産旬消」を目指し、こだわりの農産物を配布
ーー「地産地消・旬産旬消」の意識を高める取り組みをされているそうですね。詳しくお聞かせください。
松本市にある農園と直接契約をしていて、旬の農作物を定期的に届けていただいています。天候の影響で少しでも品質が落ちると出さないくらい、とてもこだわりの強い生産者さんなので、安心して食べられます。
ブルーベリーやトウモロコシ、りんご、みかんなどを前日や当日の朝に収穫してまとめて届けてくださるので、社員一人ひとりに袋入りで渡しています。給料やボーナスの使い方は人それぞれなので、もし収入が増えたとしても体に良いものを食べてくれるとは限りません。それならこうして旬のおいしい野菜や果物を配ったほうが、栄養が均等に届くのではないかと考えています。
ーー社員の皆さんからの反応はいかがですか?
以前は「給料アップのほうがいい」という声もあったのですが、最近は「今年のトウモロコシはまだ?」と催促してもらえるようになりました(笑)。トウモロコシは一人5~6本配るので、一人暮らしで持て余してしまう人は他の社員に分けているようです。そうした場面は社員間のコミュニケーションにもなると思います。
活発なコミュニティを生んだ「地域健康プロジェクト」
ーー「地域健康プロジェクト」についても教えてください。
「地域健康プロジェクト」は、地域の方々の健康寿命を延ばす取り組みです。社内で行なってきた健康指導や栄養指導のノウハウを地域の皆さんのお役に立てたいと思ったのがきっかけでした。
また、瀬戸市は愛知県のなかでも高齢者率が約3割と高いため、やはり「治療より予防」を軸に地域の課題解決にもつなげたいという思いがありました。
ーー例えばどのような活動をされているのでしょうか。
管理栄養士である私が食事・運動・睡眠などに関するお悩みへのアドバイスをする「おはなし広場」と、健康太極拳やヨガ、バランスボールの教室があり、ほぼ毎週開催しています。ご参加はいずれも無料です。
おはなし広場は地域のコミュニティの場としても利用いただき、高齢の方や一人暮らしの方が気軽に交流できる場を目指しています。
健康太極拳やヨガ、バランスボールはもともと社内向けだったので、それとは別枠で地域の方向けに始めました。しかし会場が本社でしたので、新型コロナウイルス対策も考慮して6名という少人数で実施していたんです。
人気もありましたのでもう少し広い場所で開催したいと考えていたところ、地域活性化に課題を感じていた社会福祉協議会とのご相談によって、民間企業として公共施設を利用できる「地域福祉パートナーシップ事業者認定制度」という制度を作っていただきました。
それからは1クラス30~50名が参加できる「やすらぎ会館」という施設で実施しています。それでも毎回予約がほんの10分で満員になってしまうくらい、人気の教室となっています。このプロジェクトへの参加をきっかけに地域の皆さんに運動習慣が身に付いて、健康寿命を延ばすお役に立てたらうれしいですね。
ーー人気の理由は何だと思われますか?
理由の一つとして、公共の施設で開催されるため安心感があるのではないかと思います。瀬戸市の後援事業ですし、会場も市役所の管轄なので不安なく参加できるのではないでしょうか。
また、ただ運動教室に参加するだけでなくそこで小さなコミュニティができるのも喜ばれています。バランスボール教室に参加される産後ママさんと赤ちゃんに高齢の方が声をかける姿も見られますし、教室で久しぶりに同級生に再会された方や、バランスボール教室への参加がきっかけでインストラクターになった方もいるんですよ。
コロナ禍でなかなか人が集まる機会がないなか、心理的につながれる場所ができたという側面があるのではないでしょうか。
今後は健康経営だけでなく、住みやすいまちづくりにも貢献したい
ーー社内外の健康増進活動を通じて、どのような変化を感じていらっしゃいますか?
社内ではLINEを利用した健康相談も受け付けているのですが、当初はLINE登録率が低く、私が営業所に出向いて一人ずつ趣旨を説明していました。しかし今では96%の社員が登録してくれていて、相談も届くようになっています。イベントに関しても以前は興味をもたなかった方が参加してくれるようになっていて、変化を感じますね。
会社としては、健康経営がブランディングにつながり採用に至るケースも多くなっています。昨年までは人手不足で採用に苦労していましたが、今は順調に応募数が増えて、最近はほぼ毎日面接をしているような状況です。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
当社には「現役時代に良い習慣を身に付けて定年後も健康で暮らす」という健康経営理念があります。これからも社員一人ひとりに合ったアドバイスを徹底し、健康知識を高めて意識を変え、行動と習慣につながるように取り組みを継続していきたいです。
地域の皆さまに対する活動としては、官民連携をより一層強めていきたいですね。当社は特殊詐欺への注意を呼びかけるチラシ作成・配布やセミナー開催、学校での交通安全教室なども行なっています。住みやすいまちづくりという大きな視点で、健康や福祉、教育、安全、防犯・環境に関わる取り組みを進めていきたいですね。
厚生労働省が2025年 を目処に推進している「地域包括ケアシステム」を瀬戸市の事業モデルにできたらとも考えています。これは高齢者が可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを最期まで続けられるように、地域が包括的な支援・サービスを提供する体制です。
今後もさまざまな分野の方と連携をしながら 当社の健康経営と瀬戸市の活性化を進めていきたいと考えています。
ーー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:大橋運輸株式会社
インタビュアー:青柳和香子
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