FCNT株式会社は、2021年に富士通グループから独立した企業です。スマートフォンブランドの展開や購入後のアフターサービスも含めたサービス事業、ソリューションビジネスの3つの柱で事業を展開しています。
独立をきっかけに新たに健康経営に取り組みはじめ、2021年に健康経営優良法人にも認定されています。健康経営の取り組みについて、グループ総務人事統括部の笹野さん、滝澤さん、グループ経営戦略室 広報の渡邊さんにお話を伺いました。
健康経営で社員が心身ともに健康で働ける環境をつくる
ーー本日は、よろしくお願いします。まずは御社の事業内容や沿革について教えてください。
渡邊さん(以下、渡邊):弊社は、富士通株式会社のモバイルフォン事業の部署が独立した会社です。1991年に富士通株式会社のなかにモバイルフォン日事業の前身となる部門ができ、その後東芝の携帯部門と統合しました。2016年に富士通コネクテッドテクノロジーズという富士通の子会社になり、2018年にポラリス・キャピタル・グループの出資を受けて、2021年に富士通の資本を外れてFCNT株式会社となった経緯があります。
弊社の事業として、大きく3つの柱があります。1つ目がソリューションビジネスです。エッジAIとカメラを川に設置して水位が上がってないか防災の見守りをしたり、工場につけて安全に運営されているか監視をしたりと、弊社の技術を使って社会課題を解決するBtoB事業を行なっています。
2つ目は、プロダクトビジネスです。「arrowsシリーズ」とシニア向けの「らくらくシリーズ」の、2大スマートフォンブランドを展開しています。
3つ目は、スマートフォン購入後のアフターサービスも含めた、コミュニティ運営などのサービス事業です。らくらくスマートフォンを使っていただいているシニアのお客様には「らくらくコミュニティ」というSNSサービスも併せて利用いただくことが多く、現在の会員数は250万人以上となっています。その他、「らくらく湯旅」というメディアの運営や、シニアの方向けにスマートフォンの使い方をサポートする「らくらくコンシェルジュ」というサービスも展開しています。
ーー健康経営をはじめたきっかけについてお聞かせください。
笹野さん(以下、笹野):富士通グループでも健康経営に取り組んでいたので、もともと健康経営のカルチャーはありましたが、富士通グループから独立するにあたり、より働きがいや誇りを持てる会社にしたいという思いがあり、社員がいきいきと心身ともに健康で働ける環境をつくるために健康経営をはじめました。
また、自社事業としてヘルスケア領域にも取り組んでいたので、健康経営と非常に親和性が高かったことも大きなきっかけとなりました。
ーー社員の皆さまの健康状態について、改善が必要だと感じていた点はありますか?
笹野:健康経営をはじめるにあたって実態調査をしたところ、慢性的に時間外労働が多く疲労度も高い傾向にあり、運動習慣や睡眠時間食生活への影響をおよぼしていることが分かりました。健康診断の有所見率も、全国平均と比較して高い状況でした。
また、健康経営をはじめるタイミングで新型コロナウイルスが流行し、テレワーク中心の働き方に変わってきたことでコミュニケーションのあり方や働き方が変わり、メンタルヘルス不調の危惧もありました。社員一人ひとりが自身の健康に気をつけて仕事やプライベートを充実させてほしい、仕事の生産性も高めていきたいとの思いから改善が必要だと考えていました。
臨床心理士を迎え、気軽に相談できる環境づくりを
ーー具体的な施策について教えてください。
笹野:独立して0からのスタートになったので、社員の意識を変える必要があると考えて大きく3つの施策を行ないました。1つ目は土台づくりとして、健康管理体制の強化です。産業医や保健師はもとより、臨床心理士の方にも月に何度か来ていただいて社員がメンタル面でも相談しやすい環境をつくりました。
ーー臨床心理士がいるのは珍しいですね。どのような期待をこめて、臨床心理士を迎えようと思われたのですか?
笹野:コロナ禍でなかなかコミュニケーションがとりづらくなってしまい、社員が一人で悩みを抱えて心の不調に陥る危惧がありましたので、メンタルヘルスのプロである臨床心理士の方にはいってもらっています。
ーー社員の皆さんは、よく相談されているのでしょうか?
笹野:気軽に相談されていますね。リピーターも多いと聞いています。相談者の守秘義務を守るため、社員から直接臨床心理士の方に連絡して予約をとってもらっています。
残業を減らしてプライベートの時間を確保
ーー2つ目の施策としては、どのようなことをされているのですか?
笹野:2つ目は、社員のプライベートの時間を確保することです。時間外労働の削減を行なうため、トップメッセージの発信や幹部社員に対して毎日時間外労働の状況を伝えてマネジメントの強化を図っていきました。さらに業務の効率化を図るため、社員の方々が意見出しをできる場を設けました。もともとは月に30時間ほどあった残業も、今は平均で月10時間未満にまで抑えられています。
若手の方からは、プライベートと仕事が両立できるようになって良かったとの声が聞けました。
スポーツ経験者の知識も活かして独自コンテンツを発信
ーー3つ目の施策について教えてください。
笹野:3つ目は意識づけを目的として、健康に関するさまざまな独自コンテンツを発信しました。社外の有識者による講話や医療スタッフによる健康メッセージ、社内にスポーツ経験者が多く在籍しているので知識を活かしたストレッチや歩き方講座、最近はウォーキングイベントも開催しました。
直近では2つのウォーキングイベントを行なっていて、1つは加入している健康保険組合が主催の歩Fesという、歩数をみんなで競うイベントに会社として参加しました。もう1つは高尾山への登山イベントを行ないました。
ーースポーツ経験者が多数在籍していらっしゃると聞きました。
渡邊:弊社はもともと富士通グループだったこともあり、富士通の実業団に所属していた社員もいます。実は笹野も陸上の選手で、日本選手権で優勝の実績もあります。体を動かすことのエネルギーを伝えてくれる社員がいることは、一つ弊社の特徴なのかなと思います。
ーー健康経営に取り組むうえで、スポーツ経験者がいることが活きていると感じることはありますか?
滝澤さん(以下、滝澤):動画での情報発信は、スポーツ経験者に協力してもらいながらストレッチ動画や歩き方の動画を作って発信しています。本来であれば何かコンテンツを購入しなければいけないところを、社内でオリジナルのコンテンツを作成できるというのは担当としてありがたいなと思います。
地道に継続することが、社員の健康意識を高めていく
ーー健康経営に取り組むなかで、大変だったことはありますか?
笹野:健康はあたり前だと思っている人や、そもそも健康に関心がない人が非常に多くて、当初は取り組みに興味を持ってくれない人も多くて大変でした。
ーー取り組みによる、社員の皆さまからの反響はいかがでしょうか?
笹野:小さな積み重ねが大切だと思い継続してきたことで、今では多くの方に健康への意識づけができてきたのではないかなと思っています。
例えば、社外の有識者による講話を毎月1回、4カ月連続で行なったのですが、毎回100名ほど参加いただけました。また、高尾山への登山のイベントでは休日に開催したのですが、30人ほどに参加いただきました。参加者から「楽しかった」「他部署の人とコミュニケーションが取れた」といった声をいただいています。
滝澤:高尾山のイベントに参加された方にアンケートを取りましたが、運動だけでなく、部門を超えたコミュニケーションを目的として参加された方が多い印象でした。部門を超えた交流ができたことですごく満足していただいた面もあるので、取り組みを通して社内のコミュニケーション活性化にもつなげていけると感じました。
ーー健康経営について、今後の計画や注力されていくことがありましたらお聞かせください。
笹野:注力するポイントとして「運動習慣」をキーワードにしたいと思っています。登山もいい例だと思いますが、スポーツを中心にして、それを通したコミュニケーションの活性化にもつなげていきたいです。みんなで集まってストレッチしようといったような、スポーツがコミュニケーションの一つのツールとしてあってもいいのではないかなと思います。
あとは、イベントなども取り入れながら、社員全員が健康について意識できる風土をつくっていきたいです。我々だけではなく家族や友人、そして健康に関する取り組みを行なっていることを社会に対しても発信していき、弊社が運営するコミュニティや製品を使った人が少しでも健康になれるような世界もつくっていきたいです。
滝澤:地道な活動を続けることにより、だんだんとみなさんが健康について関心を持ってきてくださっていると思います。定期的に社員と面談をされている保健師とも連携を取り、社員の皆さんが何を欲しているか汲み取りながら取り組みの幅を広げていきたいです。
ーー健康に関心のある読者や、健康経営に取り組む企業の担当者へメッセージをお願いします。
笹野:怪我や病気になってあらためて健康の大切さを感じることがあると思いますが、健康を維持するためには常に意識して行動することが重要です。そのため、健康に対する意識をしっかり持つことが重要かと思います。
例えば、運動施設をつくるなどお金をかけて健康経営に取り組んでいる会社もたくさんあると思いますが、弊社は自分たちの知恵や工夫を凝らしながら運営しています。健康維持にはお金がかかるという人もいるかと思いますが、創意工夫でいくらでもできることはあるので、できることを考えて行動し、健康増進に努めていただき、仕事もプライベートも充実していただければと思います。
滝澤:健康経営は、なかなか少しの取り組みでは社内にも広がっていかないし、すぐに結果が出ないことも痛感しました。一方で、継続していくことによって少しずつ社員に伝わるものがあり、徐々に好意的な声も聞こえてきています。健康経営を通して最終的に社内に良い文化をつくっていけそうだなと感じています。
健康経営に求められるのは社員の健康増進を経営課題ととらえて戦略的に会社をより良くしていくことだと思うので、大きなミッションに感じる担当者もいらっしゃると思います。しかし、取り組みをコツコツと続けていくことで最終的に良い結果が得られるんじゃないかというのは、取り組んでみて感じたところですね。
ーー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:FCNT株式会社
インタビュアー:朝本麻衣子