
フジキュー整備株式会社は、藤久運輸倉庫株式会社の整備部門として設立された、自動車整備業だけでなく送迎バスや観光バス運行などを展開する会社です。お客様を送迎するという業務上、従業員の健康は安全確保のために重要であり、健康経営に取り組んでいます。
健康宣言を実施し、全員参加の健康づくりを実践すると「健康経営優良法人2022」では、優れた施策を行なう上位企業として「ブライト500」にも選ばれています。
今回は同社バス事業部係長の金﨑亜希さんと同事業部主任の原田千縁さんに、健康経営の施策についてお伺いしました。
車両の整備部門から始まり、バス事業を展開

ーー本日はよろしくお願いいたします。まず、御社の事業内容や沿革について教えてください。
金﨑亜希さん(以下、金崎):当社は1975年10月にグループ本社である藤久運輸倉庫株式会社の整備部門として設立されました。所在地は愛知県刈谷市で従業員は60名ほどで、おもに自動車整備業、バス事業、観光事業を営む企業です。
この地域は自動車関連の大企業が多い背景から、従業員送迎バス運行をはじめ、現在は地域のコミュニティバス、観光バスを加えたバス事業も展開しております。観光事業としては旅行業第1種を取得し、国内外の観光を推進しているんですよ。
交通事故リスクや高齢化から従業員の健康づくりを考える
ーー健康経営を始められたのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
金崎:健康経営を始めたきっかけは、社長自身の思いからです。従業員やその家族が病気になるという事案があり、「会社として何かやるべきことはなかったのか?」という自問自答から始まりました。
また、弊社の事業は交通事故のリスクも抱えており、従業員の健康と安全運行は切り離せず、高齢化による健康悪化といった問題もあって、健康経営に取り組むこととなりました。
ーー従業員の健康状態について、改善が必要だと感じていた点はありますか?
金崎:健康経営を始めるにあたり、ある企業に依頼して毎年の健康診断結果を分析していただきました。もともと、健康診断の受診率は100%でしたが、その結果から見える現状の問題を確認するためです。
分析の結果、BMIや血圧、肝機能、血糖の値など、生活習慣病に関連する項目で良くない判定結果が多いことが判明し、改善すべき健康問題の一つであると認識しています。
二次検診の受診率を上げ、禁煙や運動習慣のきっかけづくりも
ーーそれでは、具体的に実施されている取り組み内容について教えてください。
原田千縁さん(以下、原田):当社ではさまざまな取り組みを行なっていますが、そのなかでも特に効果を感じたものや最近実施していることを中心にご紹介します。
健康診断後の二次検診の受診率が低かったのですが、一人でも多くの方に行なっていただけるよう、今年から対象者への声がけをするようにしました。
今までは書面での通知だけでしたが、それではあまり効果がない状況でした。それで、書面通知にプラスして「引っかかっている項目があるけれど自覚はありませんか?」「早めに再受診してくださいね」と直接伝えるようにしたところ、受診率も向上しています。
また一昨年からは非喫煙者を対象に、通常の有給とは別で3日間の特別休暇を付与するようにしました。喫煙者が結構多く、禁煙のきっかけになればと考えての取り組みです。この有給付与により、現在3名が禁煙を実践しています。まだ少ない人数ですが今後も継続させ、禁煙への意識向上を図りたいと思います。
健康診断結果から、運動習慣につながる取り組みも必要ではないかと考え、「歩こうキャンペーン」を6月に実施。これはグループ本社の藤久運輸倉庫が行なっていた取り組みを弊社も導入したもので、参加希望者に1カ月間の歩数を記録・報告してもらい、上位3名には記念品と賞金を授与しました。
このキャンペーンでは意外と高齢の従業員も頑張って参加してくれ、これをきっかけに歩く習慣ができた方もいます。今はキャンペーン期間ではありませんが、空き時間を利用して歩くようにしているという声も聞きますね。
また、キャンペーンへの参加により、お互いの歩数を話し合ったり、記録を見せて競い合ったりと、社内のコミュニケーション促進にもなりました。みんなで意識を高め合いながら健康に寄与できたのは良かったと思います。
健康は体だけでなく心も重要

ーーストレスチェックの実施など、従業員のメンタルヘルスに関する取り組みもされているそうですね。
原田:ストレスチェックは毎年5月に実施しています。強制はできないので希望者のみのチェックとなりますが、ストレスチェックの用紙は全従業員に渡しています。みなさん結構参加してくださり、その結果をもとに面談が必要な方へは個別フォローをしています。
当社はもともと、日頃の会話からも従業員の状態を注意して見ており、基本的にコミュニケーションがよく取れているのではないかと思います。バス事業では、お客様を目的地まで安全に送り届けなければなりません。それには心身の健康状態が影響しますし、なるべく早い段階で各自の問題に気付き、少しでも寄り添えるようにしていくのが大切です。そのため、日頃から従業員とのコミュニケーションを取るよう心がけています。
金崎:通常のストレスチェックだけでは心の健康を保つのに不十分ではないかと感じ、今年度は「ウェルネス・コンパス」というシステムも導入しました。心理学に基づき、従業員がどのような状態で働いているのか、何か問題を抱えていないかを分析するものです。心理的安全性が保てないときや、職場に対する要望などを匿名で回答してもらい、そのデータから見えてくる問題についての対処方法を考えています。
これまでは体の健康に関する取り組みがメインでしたが、心の健康も大事です。今後は心の健康についても着目した取り組みをしていければと思っています。
病気の早期発見・治療ができ、従業員からも感謝の声
ーー健康経営に取り組むなかで、課題だと感じることはありますか?
原田:取り組み内容に対するおもだった反発意見は届いていませんが、潜在的には存在するのかも知れません。でも、そういった意見が出るかもとためらうよりも、まずやってみて、その結果がどうであったかを見るようにしています。
そのうえで「それってどうなの?」という声があれば真摯に向き合い、みんなが納得できるやり方を模索していくのが重要ではないでしょうか。
現状、前向きに取り組んでくれる方が多く、私たちも取り組んで良かったと感じています。
ーー取り組みによる効果や、従業員からの反響はいかがでしょうか?
原田:二次検診受診の声かけにより受診率は向上していますし、みなさん素直に受け入れてくださっています。従業員のほうも「仕事を休んでまで再受診に行くべきか?」といった思いがあったようですが、こちらから声をかけることで行きやすくなったようです。
健康診断では運行業務に携わる乗務員全員を対象に、脳MRI検診も行なっていますが、そこで2名ほど手術が必要な方を早期発見できました。素早く対処できたため、治療により現在はもとの業務に復帰できており、ご本人からも「ありがとう」と感謝の言葉をいただきました。
こうした取り組みの効果もあってか、健康への意識は年々高まっているように感じられます。
サイクルをつくり継続させる健康経営

ーー健康経営について、今後の目標や注力されることがあれば教えてください。
金崎:弊社の健康経営は従業員だけでなく、その家族もみんな健康でいよう、健康あっての生活だという思いがあります。健康への意識を広げられるよう施策を実施してきた結果、少しずつ社内文化として定着しているようにも感じますし、さらに広められるよう継続していきたいと思います。
来年度以降、具体的にどのような取り組みをやるかは、まだ検討段階ですが、現場からの声も吸い上げながら実行していきたいです。
ーー健康に関心のある読者や、健康経営に取り組む企業の方へのメッセージをお願いします。
原田:健康経営はみんなが参加できて、幸せになれる施策をしていけるのが良いと思います。力を入れすぎず、気楽に始められるようなものからスタートさせれば、負担を感じずに取り組めるのではないでしょうか。
金崎:長年、さまざまな取り組みを行なってきましたが、最初の頃は手探りの状態でした。「これをやったらいいのかな?」というものを積み重ね、今の状態があります。
弊社では社長自身が率先して健康経営に取り組んでおり、経営陣も理解を示しています。従業員の意見も吸い上げて反映させる環境であるからこそ、新たな取り組みを始める際も反発する声があまりない状態です。
最初から完璧なものを求めず、まずは何か簡単なことからやってみて、どういう効果があるかを確認し、上がってきた声を拾い上げて、また次のやり方を考えるといったサイクルをつくり、継続していくことが一番大事だと思います。
ーー本日はお話いただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:フジキュー整備株式会社
インタビュアー:島田佳代子