
株式会社アトランスは静岡県に本社を構える運送会社です。「健幸アンバサダー」を取得した健康推進リーダーが制作する、健康だよりでの情報発信や、健康診断後のフォローに注力して取り組まれています。
今回は、健康経営優良法人の認定を6年連続で取得している同社の金子さんに、健康推進活動についてお話を伺いました。
運送業を営む地域密着型企業

ーーよろしくお願いします。まず、御社の沿革やおもな事業内容について教えてください。
金子さん(以下、金子):弊社は1979年に設立され、静岡県浜松市と静岡県藤枝市に営業所を構える運送会社です。経営理念として「私たちは物流の効率化を通じ、お客様と地域社会に貢献します」を掲げ、家電品、住宅設備、自動車部品など、地元の密着型企業として展開しています。
ーーありがとうございます。健康経営に取り組み始めるきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
金子:健康経営に取り組み始めたきっかけは3つあります。1つ目は、「従業員の高齢化対策」です。弊社では、従業員の平均年齢が48歳とやや高めのため、シニア世代になっても元気に働けるよう健康が大切だと思ったことがきっかけとなりました。
2つ目は、健康起因事故防止のためです。運送業界では健康起因事故が多く発生していますが、そのうち31%が病気の発症によるものです。このような原因で事故を起こすことがないよう、健康に気を配る必要があります。
3つ目は、健康保険組合からの提案です。健康経営を意識する前から血圧計の設置や健診後の保健指導など、健康に関する取り組みを実施していましたが、「健康経営に取り組んでみませんか?」と勧められたことをきっかけに、健康経営により注力して取り組むようになりました。その結果、健康経営優良法人の認定もいただいています。
ーー健康経営について、最初はどのようなことから取り組み始めましたか?
金子:全従業員が年に1度(夜間勤務の人は年に2度)受ける、健康診断の受診率を100%にすることです。以前は、健診のために個人で病院に行ってもらっていたようですが、現在は健診バスが会社に来てくれて、受診しやすい環境のため100%を達成できています。
健康診断後のフォローが重要

ーー健康経営を進めていくなかで、改善が必要だと感じたことはありましたか?
金子:健康診断後の対応について改善が必要だと感じていました。再検査と診断された方へのフォローが数年前までできておらず、再検査を受診しない従業員が多くいました。改善策として、まずは「受診したかどうかのアンケート」を実施しましたが、提出率が低く、さらに改善を試みることになりました。
現在は「イエローカード」という黄色の紙を再検査が必要な従業員にお渡ししています。この紙には、再検査で指摘された内容や医療機関名、検査内容・検査結果、今後自分はどう行動していくかを自分自身で記入してもらいます。このカードは発行から3カ月以内に再検査を受診し、記入して提出してもらうものです。
締切を過ぎてしまった場合は、「再検査督促カード」というピンク色のカードを発行しています。警告という意味でピンク色の紙を使用し、再検査の重要性についてや再検査を受診しない理由を問うものになっています。理由の解答方法は、「仕事で多忙」「受診する病院がわからない」「その他」の三つの項目から選択してもらい、その解答次第で、再検査を受診していただけるようにサポートします。
その結果、再検査の対象者が2020年は26名、2021年は23名、2022年は22名と少しずつではありますが、減少傾向にあります。
健康だよりで意識向上を目指す

ーー実際に取り組まれている施策について教えてください。
金子:毎月健康推進リーダーが健康だよりを制作しています。従業員の健康に対する意識向上を目指した取り組みとして2019年から取り組みを始め、流行する病気や旬の食材の効果や役割、生活習慣病についてなどを紹介します。具体的には、日々の食生活改善や睡眠について、ストレッチや健康レシピ、ナンバープレースなど自宅でできそうなものを掲載しています。給料日に給料袋に同封してお渡しすることで、従業員の方だけでなく、ご家族の方にも見ていただけるようにしました。
夏場でも快適に過ごしてもらう熱中症対策
ーー夏場の熱中症対策にも力を入れていると伺いました。どのような取り組みをされているのでしょうか?
金子:従業員が自主的に水分補給するきっかけづくりとして、夏場にかけて社内の自動販売機にある水・麦茶・スポーツドリンク・トマトジュースの4種類を、会社が負担することで値下げ販売をしています。
また、少しでも涼しく快適に過ごしてもらえるように速乾性や機能性に優れたTシャツを従業員に配布しました。これらの取り組みを始めてから、「熱中症になった」という話を聞かなくなりました。
イエローカードの回収率を上げるために

ーー健康経営に取り組むなかで大変だったことはありますか?
金子:イエローカードの回収率を上げることが大変でした。回収率を上げるために、封筒にイエローカードが入っていることを明記したり、提出期限を書いたりして、わかりやすく伝わるよう工夫しています。
また、健康だよりで取り上げる内容を集めることも大変ですね。最初の頃は、自分自身が興味のある健康情報を取り上げることも多かったですが、最近は、健康経営に取り組む企業さんと交流する機会が増え、そのなかで健康情報を共有していただくこともあるので、その情報を健康だよりにも取り入れています。
ーー健康経営の取り組みについて、従業員の皆さんからの反響はいかがですか?
金子:イエローカード、再検査督促カード(ピンクカード)に取り組むようになり、「イエローカードをもらわないようにしよう」という意識をもつ従業員も増えていったことはうれしい成果です。「今回は再検査にならないように頑張ったよ」と声をかけてくれる方もいらっしゃいました。
また、「健康だよりにこんなことを載せてほしい」と伝えてくれる従業員がいたり、レシピを載せたときには、「これ作ってみたよ!」と報告している方がいたりすることも反響の一つとしてとらえています。ドライバーさんは頭を使う仕事のためナンバープレースを掲載していますが、「今回のは簡単だったよ」などの感想とともに見せてくれる方もいらっしゃいました。
心の健康だけでなく体の健康を目指して
ーー健康経営の今後の計画や目標を教えてください。
金子:今後の計画として、ストレスチェックの定期的な実施を検討しています。一事業所に従業員50名以下ではありますが、ストレス社会といわれている今だからこそ、体の健康だけでなく心の健康に意識を向けていきたいです。
また、目標は2つあります。1つ目は、喫煙率を50%から30%へ減らすことです。ドライバーさんの喫煙率を下げることは難しいことだと思いますが、情報収集などをして、弊社でできるような対策をとっていけたらと思います。
2つ目は、再検査督促カード(ピンクカード)を発行しないことです。再検査と診断された方にはイエローカードを発行しなければいけませんが、3カ月の期限内に受診してもらい、再検査督促カード(ピンクカード)を発行しないような対策を考えていきます。
ーー健康に関心のある読者の方や企業で健康経営を担当されている方に向けてメッセージをお願いします。
金子:定期健康診断をしっかり受診して、受けたことに満足するのではなく結果をしっかり確認し、自分の体について理解することが大切だと思います。また、再検査と診断された方には、医療機関に受診することが重要です。若くても病気にかかることは珍しくないので、体調管理をしていきましょう。
ーー本日は、お話いただきありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:株式会社アトランス
インタビュアー:塩野実莉