
東京と大阪に本社を構えるコガソフトウェア株式会社は、ソフトウエア開発やインフラ構築を行なうIT企業です。健康診断の情報や体調などを入力すると、医学的根拠に基づいた運動メニューを提案してくれる「メディカルフィットネス」や、小型カメラとパソコンだけで体のゆがみを計測できる「ゆがみチェッカー」などの医療関連サービスも提供しています。
2020年より「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」の認定を受け、2021年・2022年は取り組みの優れた上位法人として「ブライト500」にも認定されています。
今回は同社代表取締役の古賀さんと、善養寺さん、蓑輪さんに健康経営の取り組みや実践して感じたことなどを伺いました。
ブラックな業界を変えて社会貢献を

ーー本日はよろしくお願いします。まず、御社の沿革やおもな事業内容を教えてください。
古賀さん(以下、古賀):私が弊社、コガソフトウェア株式会社を設立したのは2000年です。前職もシステム開発のSE(システムエンジニア)をやっておりましたが、ブラック企業など働き方に問題を感じる部分があり、世の中を良くしたいという思いで会社を興しました。
通信系や金融系、医療系のシステム開発がメインで、売上の8割を占めており、従業員数は120名ほどの会社です。2012年頃からは高齢化社会に対応したモビリティ事業やヘルスケア、運動、介護などの管理システムも自社で製品開発しています。
ーー健康経営優良法人の認定を取得された背景や、健康経営を始められたきっかけについて教えてください。
古賀:創業した2000年頃は、日本に健康経営という言葉がない時代。私がいたソフトウエア業界は「きつい・帰れない・給料が安い」という3K職場が蔓延し、多くの独立系企業が「ブラック企業」と言われるような状況でした。
こういった業界の状況を変えなければ、日本の産業自体がダメになると思って創業し、経済産業省や取引相手の大手企業の経営者にも啓蒙活動を行なってきました。そんななか、健康経営のセミナーに参加した弊社の従業員から「健康経営に取り組みたい」と提案を受けて、2017年9月に健康企業宣言をして本格的に取り組み始めました。
善養寺さん(以下、善養寺):健康経営会議という大きな会議に参加していた、ヘルスケア部署の従業員がいたのですが、退職のため私が引き継ぎました。そのときは「健康経営とは?」という状態で、まずはセミナーに参加してみました。そこで、第一歩として健康企業宣言を行なうと良いとアドバイスを受け、会社に提案した次第です。
もともと創業のきっかけが「業界を良くしていきたい、働き方を改革したい」というものでした。健康経営として取り組むべきことはある程度、実施できている状態で、本格的に導入しても無理なくできそうだということもあり、取り組みをスタートさせました。
健康になって休暇を楽しく使えるように
ーー健康経営を始めるにあたり、従業員の健康状態について課題を感じていた点はありますか?
善養寺:私は別業界からIT業界へ転職して今の部署に入りましたが、弊社の社員は体調不良で休む人が多いと感じました。弊社は有給休暇が取りやすいこともあり、軽い風邪や頭痛、腹痛などでも大事を取って休んでいるようでしたが、体調不良でばかり有給休暇を使うのはもったいないなと。この比率を減らして遊びや学習など、もっと有意義なことに使えたら良いのではと感じました。
またIT業界の業務は頭を使うことも多く、メンタル不調になりやすい印象も受けます。健康経営によってそういった課題を改善できればとも考えました。
蓑輪さん(以下、蓑輪):健康経営に取り組み始めた頃、私は事務職として入社した直後でした。弊社はエンジニアが大部分を占めており、職業柄、黙々と作業するというのもあると思いますが、皆さん静かな印象を受けました。もっと気さくにコミュニケーションを取れるような職場環境になればといいなと感じていましたね。
情報提供による啓蒙からイベント開催、制度の整備まで幅広く取り組む
ーー健康経営を始められてから取り組まれた、具体的な施策を教えてください。
蓑輪:取り組みを始めたばかりの頃は何をすれば良いのかわからなかったこともあり、まず健康を啓発するポスターの掲示やメール配信をしていました。例えば「普段何気なく飲んでいる缶コーヒーやジュースには角砂糖○○個分の糖質が含まれています。普段はなるべく水やお茶を飲みましょう。」といった内容のものです。
今は在宅勤務による運動不足解消のため週1回、15分程度、オンラインでのストレッチ教室を業務時間中に実施しています。みんなでGoogle Meetをつなぎ、弊社所属の運動指導士が講師を務め、動きを真似てストレッチをするという教室です。
善養寺:年に1回、全従業員参加の体力測定も実施しています。椅子に立ったり座ったり、目をつぶって何秒間片足立ちできるかといった内容で、自分の体力年齢が世間一般とどれだけ差があるかを確認・自覚してもらうものです。
その他、年に2回、歯石除去の費用補助をする制度を設けて就業規則にも組み込んでいます。歯の汚れが細菌の温床になり、唾液とともに飲み込むと将来的に健康へも影響すると古賀からのアドバイスで新設した制度です。
また、多種多様な働き方に対応できるよう、フレックスや在宅勤務の制度も整えています。弊社の取り組みで一番特徴的なのは、お花見や夏祭り、クリスマス会に餅つきといった季節ごとの社内イベントですね。これはコミュニケーションの促進を目的に行なっております。
最近はコロナ禍で同じ場所に集まるのは難しくなり、オンラインでの川柳大会や写真コンテストを実施しました。写真コンテストは外に出て歩いてもらう目的になるよう、出先で出会った風景やおもしろいものを撮影して投稿してもらいました。集まった作品には大賞や古賀賞といった賞を決めて表彰しています。
古賀が「何でもやってみろ」とOKを出してくれ、思いついた企画はどんどん実行しています。古賀自身も写真を投稿して、従業員が参加しやすい流れを作ってくれているため、イベントはとても盛り上がっている印象です。
保険会社さんに協力してもらって、健康習慣のアンケートも実施しました。従業員が健康について何を意識しているのか、何を意識していないのかといった実態を把握し、今後の健康経営で取り組むべき内容を調査し、役立てています。
社内の反応は薄くとも少しずつ効果が見られるように

ーー健康経営に取り組むなかで、大変だったことや苦労されたことはありますか?
善養寺:大変だったというと、健康経営に取り組み始めてから、最初の2、3年は何の手応えも感じなかったことでしょうか。イベントを企画したり、「エレベーターではなく階段を使おう」「飲み物に含まれている糖分の多さ」といった健康情報を発信したりしていましたが、従業員に響いているのかがまったくわかりませんでした。
古賀:そこについては健康企業宣言して、健康企業宣言東京推進協議会の「銀の認定」、次に「金の認定」と、苦労なくスッと取れたから印象が薄かったのもあるんじゃないかな?
善養寺:そうですね。有給取得率を上げるだとか、残業時間を減らすだとか、改善が難しい部分をすでにクリアしていて、健康経営のベースが整っている状況だったと思います。だから改善させる苦労というより、社内の認知度を上げて根付かせる部分が大変でした。
あと、当初は蓑輪と2人で担当していたため、人手が足りないと感じていました。少しずつ、ほかの従業員も手伝ってくれるようになり、現在は健康経営推進室のメンバーは10名以上に増え、かなり楽になっています。
蓑輪:本来の業務と兼業でやっていますし、最初の頃、時間を見つけながら進めていくのは大変だと感じました。
ーー業務と兼務であり、従業員からの反応も薄いとなれば、心が折れることはありませんでしたか?
善養寺:自分がやって楽しいように取り組んでいたので、心が折れるということはなかったです。3年目、4年目以降になってくると「最近、階段を使うようになりました」とか「飲み物に気をつけています」といった声も聞くようになり、変化が見えてきました。
健康診断を受けていない従業員がいたときは、古賀が受診を促すメールを送ってくれるなど、大変な部分を手伝ってくれたこともあって、ものすごく苦労したというのはなかったです。
健康問題の改善や意識変化、離職者が減る効果も
ーー健康経営の取り組みによる効果や、社内外からの反響はいかがですか?
善養寺:社内で実施したアンケートでは、心の健康部分の数値が最初の頃と比べて改善しています。健康への意識も「意識していない」という人が半分くらいの状態でしたが、今では4分の1ほどになっています。運動習慣や食べ物・飲み物に気を遣う人が少しずつ増えてきているようです。
蓑輪:食べ物・飲み物については掲示したポスターや送っていた栄養情報のメールを見て、各自学んで実践しているように感じています。
古賀:一番大きな効果というと、離職者が少なくなったことです。仕事の段取りもうまくいっていますし、健康経営は仕事の生産性も上げているようで、残業もほとんどなくなりました。弊社の平均残業時間は過去5年間で月10時間になっており、そういった観点から見ても健康経営は従業員のストレスを軽減させているといえます。
善養寺:お客様のところへ打ち合わせに行くときも、弊社が健康経営をやっていると話をすると、詳しく聞きたいといわれることが多くなっています。それで後日、弊社の事例をお伝えするのですが、まだご存じない会社さんもいるようで、説明すると好感触を持たれることも多いです。
また、健康診断受診率は100%、有給取得率は80%以上、平均残業時間は10時間以下と、数字として出せる状態にできています。これは働きやすさを数字として客観的に見られますし、就職先を探す学生さんからもわかりやすいのではないでしょうか。
健康経営が全国に広がれば、働く環境の改善や健康寿命を延ばすといった効果も期待でき、多くの企業で実施してほしいと思います。
健康経営は求職者の判断材料としても活用してほしい
ーー今後の計画や目標がありましたらお聞かせください。
善養寺:まず、コガソフトウェア創業のきっかけに、業界や日本全体が良くなるようにという思いがあります。そして、健康経営のお手本となる企業になっていきたいという思いを持っています。
健康経営に携わる担当者と話しているときによく聞くのが「何をやれば良いかわからない」とか「人数が少なくて大変だ」といった悩みです。それなら、ほかの中小企業が真似できるような取り組みを弊社でたくさん実践して、ノウハウとして他社にも提供できればとも思っています。
また、来年から禁煙に向けた取り組みをできればと考えています。会社から強制するようなものではなく、自発的に健康を考えて禁煙する取り組みを検討しているところです。
古賀:私としては健康経営の認知度を上げるとともに、求職者が見る求人票に健康経営の有無が記載されるようにできないかと考えています。
弊社でも第二新卒の採用をしていますが、第二新卒の人は学生時代に就活して入った企業がブラックだったという人が何人もいます。それはある意味、企業にだまされたということですよね。労働基準法を守らないのはブラック企業の特徴です。健康経営が認知され、広まることでそういった企業が一つでもなくなってほしいと思っています。
そして求人票に健康経営の有無が記載されていれば、ブラック企業でないかの判断材料になります。求人会社や大学の就職課でもそういった情報を開示して、安心して働ける職場選びの目安にしてほしいと思います。
地元を離れて就職する人の親御さんも、きちんとした生活を送れているのか、仕事で苦しい思いをしていないのか心配しているはずです。そういった心配をさせない企業、社会であってほしいです。
ひいては、現代の少子化問題も、本質はそういったところにあるのではないでしょうか。親が苦労してきたことと将来に対する心配があると、子どもを産み育てたくない社会だと思ってしまいます。健康経営の推進によって、そうした部分を少しずつ排除し、良い環境をつくるのが重要ではないかと思います。
小さなことから楽しく取り組み、個人の健康から国家の健康へ

ーー健康に関心のある読者へのメッセージをお願いします。
善養寺:健康の定義は難しいものですが、従業員が楽しければ自動的に健康になっていくのではないかと思っています。人生が楽しければ長生きしたいと思うでしょうし、長生きしたいなら健康にも気を遣うようになるでしょう。
弊社の健康経営推進室では、まず「自分たちが楽しむ」をテーマに実行しています。楽しんでいる人たちが企画したイベントなら、参加する人も楽しくなると思うので、楽しいをテーマに健康経営を進めれば、おのずと数字は付いてくるのではないでしょうか。
数字ばかりを追い求めて担当者が苦しんでしまうと、担当者が不健康になってしまいます。せっかく健康経営をやるなら、全力で楽しみながら推進できれば、弊社のように離職率の低下や採用効果につながると思います。
蓑輪:他社さんと健康経営の情報交換をしていると「何から始めたらいいの?」という質問をよく受けます。そのような場合は、まず健康企業宣言をしてみてください。宣言の証が届きます。それを自社のホームページに掲載し、小さなことからスタートしてみてください。
最初は健康を啓蒙するポスターの掲示といった、ささいなことでも構いません。それも健康経営の取り組みになりますし、難しく考えすぎず、まずは実行する。それが全国に広がればうれしく思います。
古賀:現在、日本では個人の不健康と国家の不健康が同時に進んでいます。国家の不健康とは、医療費・介護費の増大によって国の借金が1,200兆円を超えるという、とんでもない財政赤字のことです。これが続くならば国家破綻という結果も見えています。
それを回避するには経営者も従業員も、一人ひとりが健康を意識し、健康習慣を身につけて定年後も継続することが重要です。国家ぐるみで健康づくりに取り組み、医療費・介護費の抑制が個人の健康と国家の健康になりますので、みんなで真剣に考えてほしいと願っています。
ーー本日はお話いただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:コガソフトウェア株式会社
インタビュアー:朝本麻衣子
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