
株式会社トップラインは愛知県に本社を構え、一般貨物自動車運送事業を行なっている企業です。健康経営優良法人のなかでも上位500社にしか与えられない、ブライト500の認定を受けています。
今回は代表取締役社長の中嶋さんと従業員の玉腰さんに、健康経営の取り組みについてお話を伺いました。
専業主婦から会社の社長へ

ーー本日はよろしくお願いします。まずは御社の事業内容や沿革について教えてください。
中嶋さん(以下、中嶋):弊社は2004年に設立した会社で、一般貨物自動車運送事業をしています。現在はトラック部門とラストワンマイル部門という、サーバー水などを消費者の皆さまへお届けする事業を展開しています。
ーー以前は専業主婦をされていたそうですが、どのような経緯で会社を設立されたのですか?
中嶋:ずっと専業主婦をしていたのですが、離婚をして子どもを養うために大手運送会社で事務として働き始めました。そのときに、上司と同僚から「運送会社を立ち上げたいけど経理のことがわからないから、経理をやりながら社長もやってほしい」と誘われたのが、会社設立のきっかけです。とはいっても、私は大学も出ていませんし商業科も出ていなくて、長年主婦をやっていて財布の管理ができるぐらいのレベルでした。今思えば無茶な依頼に感じますが、そのレベルだったからこそ、「会社を立ち上げてみないか」と誘いを受けたときにできるかもしれないって思ったんですよね。
あとは、子どもを食べさせていかなければという思いが強かったと思います。何のスキルもなくて、このままではできる仕事も限られてしまう。子どもを大学まで通わせるのは無理かもしれないとぼんやり思っていました。そのなかで、お誘いいただいて「勝負してみよう」「私にもできるかもしれない」の2つの思いが相まって、会社立ち上げに至りました。
精神的な健康を考慮して勤務時間帯は平等に割り振り
ーー健康経営をはじめたきっかけについてお聞かせください。
中嶋:ドライバーが病気になったのがきっかけですね。そのドライバーには、夜に出て翌日の朝に帰ってくる長距離運行を中心に担当してもらっていました。ある日「起き上がることができない」と連絡が来て病院に行くと重度の腎不全で、すぐに透析を開始しなければいけない深刻な状況でした。社員の命ももちろん大事ですし、私には、一歩間違えると凶器にもなりかねないトラックを運転しているドライバーの管理責任があります。その従業員の病気を機に、健康を意識するようになりましたね。私一人ではどうにもできないので事務方の力も借りながら、健康経営を進めています。
ーー従業員の皆さんの健康状態について、改善が必要だと感じていた点はありますか?
中嶋:勤務時間が大きく朝方、昼間、夜中の3つに分かれていて、どうしても不規則になってしまうんです。それから、食事の問題もありますね。手っ取り早く食べられるファストフードやジャンクフード、コンビニの偏った食事や、しっかり食べずに軽く済ませてしまう方もいます。見た目ではわからなくても健康診断の数値には表れていて、長く元気で働くには生活習慣の改善が必要だと感じていました。
ーードライバーの方は、どのようなスケジュールで勤務されているのですか?
中嶋:朝方、昼間、夜中の勤務を、1週間交替で行なっています。ドライバーの精神的健康を考えて、勤務時間帯をシャッフルして偏りを出さないようにしています。
多角的アプローチでバランスよく健康を目指す

ーー具体的な施策について教えてください。
中嶋:最初に取り組んだのは、喫煙の問題です。弊社は、喫煙率が高い傾向にありました。最終的に屋内完全分煙を目標にして、段階的に進めていきました。まず、煙の出る紙巻タバコでの喫煙は事務所内では禁止して、喫煙所で吸ってもらうようにしました。電子タバコは壁紙が黄色くなったり匂いが染み付いたりしないと聞いたので、始めは事務所内での喫煙を認めていました。電子タバコのキットを購入する費用は会社が2/3を負担するので「電子タバコに変えられる方は変えてください」と声かけもしています。現在は事務所内禁煙として、全員が喫煙所へ行っています。もう一つ、運転中にタバコを吸わないように取り組んでおり、今では車内の汚れや臭いがほとんど気にならなくなりました。
その次に取り組んだのが、食ですね。本当に野菜を食べないので。野菜不足を補うために青汁大作戦を導入しました。「小さい紙コップでいいので、粉から作った青汁を毎日飲んでくださいね」と声かけをしています。でも、一度言うだけでは実践につながりにくく、取り組み始めは事務方さんが2~3日おきに根気強く声かけをしてくれていました。今では9割の方が、毎日青汁を飲んでくれていますね。
あとは、新型コロナウイルス流行前の冬は世の中でインフルエンザが流行っていて、情報番組で「舞茸がインフルエンザの抑制になる」と聞き、事務方さんと相談して舞茸のスープも提供し始めました。今では、キムチスープなどいろいろな野菜をたくさん取り入れたスープがありますね。
その他、事務方さんから「社内菜園をやりたい」との声もあがって、プランターで野菜を育てて小さいカップにいれて提供しています。みなさん「おいしい!」と食べてくれますね。
運動もしなければいけないということで、ステッパーを導入しました。ゴール地点を設定して、歩いたら何ポイントというようにポイント化しながら楽しく取り組める工夫をしています。無理のない施策をみんなで考えて、一つずつ取り組んでいます。
ーー健康経営に取り組むなかで、大変だったことはありますか?
中嶋:あまり大変だと思ったことはありません。長年一緒にやってきて彼らの性格等々は十分に理解しているので、どう対応すればいいのかもわかります。一気に推し進めるのではなく、少しずつ従業員の反応をみながらやっています。周りが健康を意識し始めると、当初はやりたくないと思っていた方も少しずつ変わってくるんです。
大変だったのは、私よりも事務方さんじゃないですかね。例えば、声かけをしても「俺は青汁飲まない」などと言う方もいて、健康に関心を向けさせるのは大変だったと思います。
ーー健康に関心のない方へお声かけする際に、工夫されていたことはありますか?
中嶋:弊社の事務方は皆さんお子さんがいる方ばかりで、言ってもなかなか動いてくれないというのは家庭で十分に経験しているわけです。経験値もあり根気強く声かけをして、課題を一つずつクリアしていってくれていますね。
手厚いサポートで従業員を大切にしている気持ちが伝わってくる

ーー取り組みによる、従業員の皆さまからの反響はいかがでしょうか?
玉腰さん(以下、玉腰):入社前は、運送会社といえば3Kといわれる「きつい、汚い、危険」さらには「帰れない、厳しい」という悪いイメージがありました。でも、入社してみると青汁やスープ、ゆで卵などが置いてあって、従業員のことを思ってくれているのがすごく伝わってきました。実際にドライバーたちと話をしていても、年配になって体を心配し始めていたり野菜不足や健康診断の結果も結構話題にあがっていたりと、健康経営を始めてから健康に対する意識が徐々に変わってきているように感じます。
ドライバーは外で働いていて、事務方は社内で一緒に仕事をする時間はほとんどありません。事務方もドライバーに気を遣って声をかけたり、健康への取り組みを促したりしていますが接する時間が少ない分、伝わりづらいこともあると思います。
青汁やスープの用意など福利厚生を整えて言葉だけではなく形として、ドライバーをサポートしていることを示しているので、会社に守られていることをドライバーのみならず従業員全員が感じていると思います。
ーー3Kとは異なるイメージだったとのことですが、入社して印象的だったことはありますか?
玉腰:福利厚生が整っているなと感じます。自分は新型コロナウイルスで陽性になって会社を10日間ほど休みましたが、福利厚生として全額会社負担で保険を用意してくれていました。仕事中の怪我などだけではなく、病気にも対応している保険を会社が用意してくれていてありがたいなと思いました。50代以上のドライバーが多いため、どうしても病気に罹患することがありますが、結構大きな病気で入院して1カ月休んだときも、保険金がおりて心強かったと聞きました。万が一のときも支えてくれていることを実感して、すごくありがたいなと思います。
それから、賞与の査定に健康経営という部門があって、タバコを吸っていないとか青汁を飲んでいるとか、健康に対して前向きに取り組んでいれば評価されて賞与に反映されるんです。自分も今年一年間で体重を10%減らすという目標を立てて、今7~8%ぐらい減らすことができました。もう少し本腰をいれて取り組んでいこうと、今思っているところですね。
最終目標は自発的行動につなげること

ーー健康経営について、今後の計画や注力されていくことがありましたらお聞かせください。
中嶋:健康経営の最終的な狙いは、自発的行動です。会社から言われなくても、数値をみて自ら行動できるようになることを目指しています。現在の定年は60歳ですが延長雇用などもあり、弊社では65歳まで働くことができる環境を整備し、その方々のポジションも設けています。しかし、ポジションは用意していても、精神的にも経済的にも肉体的にも元気じゃないと仕事はできません。
今は医療技術が発達していて、病気は早期発見をすれば治療も早く始められます。一方で、ドライバーたちは「休むとお給料が減る」「病院に行くと入院費がかかる。治療費がかかる」と経済的なことばかり考えて、健康診断の数値が悪くても再検査に行かないんです。そして、気が付いたときには病気が進行し、冒頭でお話ししたドライバーのように救えたものが救えないということを、すごく痛感した時期がありました。
そうした経験を踏まえ、治療費・入院費の心配をしなくて良い環境、気兼ねなく「病院に行きます」「休みます」と言える環境を作ることが大事だと思います。環境が整えば自発的に病院に行き、病気を早期に発見、治療して65歳までピンピン元気に働けるはずです。元気な定年を迎えるという最終目標に向けて、今取り組んでいるところです。
ーー健康に関心のある読者や、健康経営に取り組む企業の担当者へメッセージをお願いします。
中嶋:運送業界は人手不足が必ず来ると約10年前から言われており、現にドライバーの人口は減少しています。少子高齢化もあり、なかなか希望をもってドライバーに就職してくださる方が少ないのが現状です。この厳しい状況のなかで、会社は今いる従業員を大事にして、それを従業員が実感できる制度を作ることが重要だと思います。
弊社でも2023年の5月からステップアップを目指して働けば、ドライバーでも昇給・昇進できるような新たな制度を作り、目標ややりがいを持って働いていただけるように取り組んでいきます。
会社が従業員のためにできることを地道にやっていくことで、必ず最終的には良い会社になりますし、60歳を越えてもみんなが元気に働けるようになります。特に年齢を重ねた方は経験値も高く、若手が入ってきたときに良き指導者となり、会社の力になってくれます。会社と従業員が互いにwinwinであることが大切です。
ーー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:株式会社トップライン
インタビュアー:朝本麻衣子
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