
天龍製鋸株式会社は、静岡県袋井市に本社を置く工具メーカーです。1913年の創業以来110年もの長きにわたり業界のパイオニアとして、おもに産業用鋸・刃物の開発、製造、販売事業を拡大してきました。また、経営理念の一つに「従業員の幸せ」を掲げ、従業員が健康で自分の仕事に誇りを持てる環境を目指し、健康経営にも積極的に取り組んでいます。
今回は同社の取締役経営管理部長 堀内さんと人事課 藤田さんにお話を伺いました。
110年の歴史をもつ、産業用刃物製造のリーディングカンパニー

ーーよろしくお願いします。早速ですが、御社のおもな事業内容を教えてください。
堀内さん(以下、堀内):当社は2023年に110周年を迎える「産業用鋸・刃物類」のメーカーです。
1900年代初頭、静岡県浜松市を流れる天竜川流域では、上流で良質な杉の木が採れたことから製材業が盛んでした。そのために輸入された機械鋸の修理や研磨を目的に、1913年、当社は設立され、その後、1922年には国産初となる「丸鋸(まるのこ)」の開発に成功しました。以来、100年を超える歴史のなかで常に業界のリーディングカンパニーとして歩んできました。
「のこぎり」や「のこ」という言葉から、木を切る鋸のイメージをもたれる方が多いと思いますが、現代では木材はもちろんのこと、金属や石材の切断にも使用されています。当社の製品は、さまざまな製造業や電動工具メーカーを取引先として幅広くモノづくりの現場で利用していただいています。
ーー健康経営を始めたきっかけや目的について教えてください。
堀内:取引のある保険会社から「健康経営優良法人」について教えてもらい、その存在を知りました。これを機に「従業員の健康意識の向上を図りたい」、「当社の健康経営のレベルを知りたい」と思うと同時に、認定を受ければリクルートを含めステークホルダーへのアピール材料になるという期待もありました。2019年に最初の認定を受けてからは、従業員のウェルビーイングにつながり、ひいては当社の健全な発展に資するものと信じ、常に改善に努めています。
部署や拠点の垣根を越えた連携で推進する健康経営

ーーありがとうございます。どのような体制で活動されているのでしょうか。
藤田さん(以下、藤田):担当部署としては、人事課が福利厚生の一環として、従業員のための活動という考えのもと、音頭を取っています。とはいえ、小さな会社のため、健康診断や安全衛生は総務課が担当していますし、国内に本社以外の拠点が5つあることもあり、実際は人事課を中心に、総務課、各拠点の担当者が連携しながら推進しています。
ーー実際の取り組みについて詳しく教えてください。
藤田:当社では「体重、血圧、体脂肪、月に一度は測ります」という健康宣言を掲げ、従業員の実施率100%を目指して活動しています。年配者だけでなく若手社員の健康に対する関心を高めるためにも、手軽に始められる健康習慣として実践を促しています。
誰でも気軽に始められるよう、社内の共有スペースに測定器(身長、体重、体脂肪、血圧)を設置し、ウェットティッシュや血圧計使用時の使い捨てのアームカバーを置くなど、感染症対策にも取り組んでいます。
健康に関する情報発信も積極的に取り組むように
ーー健康経営を実践するうえで、苦労されたことや工夫されたことはありますか?
藤田:健康は誰にとってもかけがえのないものですが、自分自身のためのみならず、家族にとっても会社にとっても同様にかけがえのないものです。健康経営を推進するには従業員一人ひとりに主役になってもらう必要があると感じています。
そのため、従業員一人ひとりが「自分ごと」として健康経営に参画する意識の醸成、社内の雰囲気づくりという点には、いつも頭をひねり工夫を凝らしているところです。
当社では毎年春に、マナーやSDGsなどをテーマに社内キャンペーンを展開していますが、初めて健康経営優良法人の認定を受けた2019年および今年(2022年)は健康をテーマにしたキャンペーンを実施しました。

特に今年(2022年)は社内のDX化が進み、社内ホームページが整備されたことを受け、さまざまな健康情報を手軽に入手できる形(ポスター、パソコン、スマートフォン)で発信し、健康意識の向上に努めました。
ーー取り組みによる効果、健康経営優良法人認定に対する社内外からの反響はいかがでしょうか?
堀内:初めて認定を受けて以来、名刺に認定ロゴを入れ対外的にPRさせていただいています。これは、よく取引先との会話のきっかけになるのですが、質問された当社の従業員がその意味や意義を理解していなければ恥ずかしい思いをします。こんなことをきっかけに、従業員がこの制度に関心を持ち、さらに自ら健康に気をつけようという相乗効果が生まれているのではないかと考えています。
今後はより具体的な施策の打ち出しと、健康意識の醸成を

ーー健康経営について今後の計画や注力されていくことがありましたらお聞かせください。
堀内:当社は健康経営に取り組む以前から、健康診断の実質受診率100%など、着実に福利厚生の環境整備に努めてきました。従業員にとってはそうした環境が当たり前になっていましたので、2019年の健康経営優良法人認定以降は、健康意識の醸成に注力してきました。
これからは、これまでの活動をステップに、より具体的で有効な施策を打ち出していきたいと考えています。なかでも、喫煙率の低減は大きな課題として残っています。分煙のルールを守る愛煙者に「禁煙」を強要することは難しく、これまでに醸成してきた健康に対する機運を盛り上げる施策を検討していきたいと考えています。
藤田:数年前に喫煙専用ルームを用意したので、分煙はできていますが「近くを通ると匂いがする、扉を開けたとき煙が流出する」などの苦情も多少あります。
副流煙として問題になるレベルではありませんが、引き続き非喫煙者との円滑な共生に努めるとともに、健康のためには喫煙率そのものを下げていくことが重要です。一朝一夕に解決する課題ではありませんので、地道な啓蒙活動などにより少しずつ理解者を増やしていきたいと思います。
ーー健康に関心のある読者へのメッセージをお願いします。
藤田:健康に何より大切なことは「自分ごと」として「行動する」ことだと思います。関心をもって勉強する、情報収集する、一歩踏み出して実際に体を動かしてみる、不健康な習慣などを断とうと思ったらすぐ断ってみるとか、そういう行動がともなって初めて健康が手に入れられるのだと思います。
恥ずかしながら、実は私も目下、禁煙に取り組んでいます。まさに禁煙という行動によって、食事や睡眠といったさまざまな生活の場面で心身のポジティブな変化に驚いています。
堀内:行動に心と体が応え始めると、なぜか自然に、もっともっと目標に近づきたくなるものなんですね。それが健康の素晴らしいところであり、人間が持続可能な心身でいるための本能のようなものなのではないかと思います。そのためには、まずは「自分ごと」として「行動する」、これを大切にしていただければと思います。
ーー本日は、お話いただきありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:天龍製鋸株式会社
インタビュアー:朝本麻衣子