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企業が進める健康への取り組みを聞いてみました

地域の雇用を守り続けるために。協栄金属工業株式会社の健康経営をインタビュー

過疎地域の雇用を守るべく生まれた会社

ーー本日はよろしくお願いします。まずは御社の沿革や事業内容を教えてください。

小山さん(以下、小山):弊社は昭和47年2月に設立され、今年(2022)の2月で設立50周年を迎えました。所在地は島根県雲南市掛合(かけや)町で、来年1月から松江市にあるプレスの金型製造販売会社さんを吸収合併することにしております。

事業内容は精密薄物板金加工全般、パイプ三次元曲げ加工、組立、自社製品の製造販売などです。主要製品は厨房機器や農業機械、医療機器などに組み込まれる5,000種類以上の金属部品を作っています。遠くは山形県から、九州は鹿児島県まで全国約80社とお取引があります。

約4,000坪の敷地内には6つの工場と一つの複合事務棟があり、タレットパンチプレスやファイバーレーザー加工機など、精密薄物板金業界では山陰地方最大級の120台以上の設備をもつ会社です。

ーーありがとうございます。御社の歴史には地域との密接なつながりがあるそうですね。

小山さん(以下、小山):弊社は過疎地域の雇用を守るためにできた会社です。昭和46年当時、掛合町の人口は約5,400人(現在は約2,500人)と過疎化が進んでいました。その頃のおもな産業は農業でしたが、それだけでは生活ができないため、男性のほとんどが京阪神などに出稼ぎに出ていました。そこで昭和46年3月、企業誘致によって大阪の自動車部品中堅メーカーが掛合町で操業開始したのです。

ところがこの企業は、ニクソンショックの影響で創業からわずか8カ月で倒産してしまいました。再建や新しい企業誘致の目処が立たなかったのですが、「故郷に灯った火を消すな」を合言葉に、町ぐるみで協栄金属工業株式会社を設立しました。

協栄金属の「協」は、3つの「力」を足す(+)という字で構成されています。この3つの力とは株主、地域、そして社員のことで、それぞれの力を合わせた会社になろうという地域の願いを込めた社名となりました。ここでいう「株主」とは、過疎地域の雇用を守るために弊社へ出資してくださった地元企業や商店主など、地元有志の方々を指しています。

ーー現在、社員の方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。

小山:社員数は男性が64名、女性が14名で、合計78名の方にお勤めいただいています。「多様性は可能性」という言葉を掲げており、地方にある金属製品の製造業としては非常にバランスの良い年齢構成です。50歳以上のベテランの方が約36%、40代の中堅層が約29%、20代以下の方が約35%となっています。

全国で下から2番目に人口が少ない島根県内でも、雲南市掛合町は特に人口が少ない地域です。人口密度は1km²当たり23人という少なさですが、それでも毎年新卒入社の社員を迎えることができています。社員の約78%は地元の雲南市在住ですが、松江市から片道51kmかけて毎日通ってきてくれている方もいるんですよ。

倒産の危機から生き残るため、全社員で大改革

ーー健康経営の取り組みを始められたきっかけについて教えてください。

小山:目的は、会社の業績をアップさせることでした。昭和47年の創業後は順調に売上が増えて利益も積み上がっていきましたが、バブル経済が崩壊したのちは、売上が上がっても利益がともなわないという時代が20年近く続きました。

そして平成19年前後にリーマンショックが起き、一気に大赤字となって債務超過状態、倒産の危機に陥ったのです。主要取引先の大幅な受注減少や原材料高騰、円高デフレなど、厳しい外部環境にさらされました。

この時期に私が社長に就任したのですが、会社はそれまで蓄えてきた利益剰余金も使い果たしている状態でした。大量解雇や全社員対象の賃金カットを行ないましたし、長期入院を伴う労働災害が次々と起こり、会社にたびたび救急車が来ているような日々でした。

ーーその状況をどのように打破されたのですか?

小山:まず、全社員の力を合わせて社内大改革を行ないました。具体的には、工場内の無駄な動きをなくすためのレイアウト変更や3S(整理・整頓・清潔)活動、業務の徹底的な見える化などです。また、取引エリアを拡充するために東京や大阪、名古屋の展示会に出展したり、合同商談会に積極的に参加したりして営業活動を広げました。

その結果、島根県だけでなく関西方面にもどんどん営業エリアを拡大することができていますし、取引先の業種も多様化しています。決算では10期連続の黒字を継続しており、今期の業績も非常に好調です。

ストレスチェックの結果から、職場環境を大幅改善

ーー職場環境の大幅な改善にも取り組まれたそうですね。

小山:まずは労働災害がたびたび起こるような状況を変えるため、安全衛生委員会を立ち上げました。社員全員が安全衛生意識をもつことを重視し、毎月の会議で問題点を徹底的に排除しています。管理職による毎月の安全衛生パトロール、産業医の先生による定期巡視をしていただき、不良箇所はすぐに解決するようにしました。

また、通常の定期健康診断だけでなく、粉じん作業の環境測定や局所排気装置の性能検査、有機溶剤に関する健康診断や特殊健康診断(じん肺)も実施しています。

メンタルヘルスケアにも力を入れ、ハラスメント相談窓口やメンタルヘルス相談窓口を設けています。平成29年度は高ストレス者が全体の20%に上り、分析したところストレスのおもな原因になっているのが「職場環境による身体的負担」だとわかりました。

そこで屋根への遮熱塗装施工、工場内への冷暖房設備導入、LED照明採用ほか多数の設備投資を行ないました。

例えば総重量79kgもある製品の梱包作業では人力の負担がとても大きかったのですが、簡易クレーン導入で負担を軽減しました。また、一日に9,000回プレスをする作業では指や腕が痛くなりますので、タッチするだけで良いスイッチに切り替えました。ほかにもさまざまな設備投資を行なっています。 

また、トイレや休憩室のリニューアルを行なって働きやすい職場づくりに努め、受動喫煙防止として冷暖房完備の喫煙専用棟も2つ建てています。喫煙者の「排除」ばかりではなく、喫煙者への「配慮」も大切ではないかと考えてのことです。 

そのほかの健康増進施策として、50年間続く毎朝のラジオ体操、夏場の熱中症対策として塩飴の支給、感染症対策として使い捨てマスクや防塵マスクの手配なども行なってきました。

障害者雇用数が市内ダントツ1位。救済や貢献ではなく「戦力」

ーー御社の特徴の一つである、障害者雇用についても教えてください。

小山:業績が絶好調である理由は、もしかすると障害者雇用にあるかもしれません。弊社は障害者の職場実習を多数受け入れており、その数は行政や金融機関、大企業を含め雲南市内でダントツ1位だそうです。その結果、障害者雇用率も市内1位の8.22%になりました。障害者雇用率が2%を超えてから、ずっと黒字を出し続けています。

ーー職場実習の受け入れと障害者雇用を増やした理由もお聞かせいただけますか?

小山:この辺りは過疎地域ですので、以前は求人を出しても応募が全然ありませんでした。また、離職率も高かったため、現場では人手不足状態が続いていました。その頃、障害者就労支援をしている機関からたまたま職場実習受け入れの依頼があり、先入観はありましたが、少しでも作業補助になればと受け入れたんです。

実際に働いていただくと、障害のある方はとても真面目で、単調に思えるような作業でも「楽しくてやりがいがある」と言ってくれました。素直な態度と丁寧な仕事ぶりに、障害者に対する偏見が全社員から徐々に無くなり採用につながりました。得意・不得意はもちろんありますが、不得意な部分を解消するために、こちらが表示の工夫や治具の用意をとおして作業手順を簡素化するように心がけています。

例えば部品を16個ずつ詰めていく作業があるのですが、なかには16という個数を数えられない知的障害を持つ方もいます。それなら数えなくても作業を完了できるようにすればいいので、部品をセットする位置をすべて埋めれば16個になるように治具をつくり変えました。このような工夫の例はほかにも多数あります。

障害者雇用は弱者救済、社会貢献といった考えで始めたわけではありません。もし明日、障害のある方が一斉に休まれたら工場の生産が止まってしまいます。それくらい、彼らは会社の大切な戦力です。

もちろん能力に見合った仕事をしていただく、体調に合わせた勤務時間にするなど、配慮はしています。「絶対に孤立させないこと」も重要です。特に入社して3カ月程度は、1秒たりとも独りぼっちにしないように、みんなが寄り添って指導をするようにしています。

こうした働きかけを新卒社員にも水平展開した結果、新卒社員の離職率も大幅に下がりました。私が社長に就任したときは離職率が非常に高かったのですが、障害者雇用に取り組み始めてからは、大幅に離職率を下げることができて業績も上がっています。

社員自ら提案し、会社を変えていくように

ーー健康経営のお取り組みを経て、社内にどのような変化がありましたか?

小山:高ストレス者が大幅に減少しました。特に職場での対人関係と、仕事の量的・質的負担のコントロールについてのデータが良くなっています。今後は働きがいをより感じていただけるように、社員のスキルアップを目指していきたいですね。

また、我々経営者の想いや行動が変わったことで、社員の行動も変わってきました。今では社員から、職場の美化活動や工場のペンキ塗り、外部講師をお招きしての社内研修などたくさんの提案が生まれています。みんなで積極的に社内を変えていこうという空気ができてきました。

ーー社外からの関心・評価はいかがでしょうか。

小山:この10年間で200回くらいの講演をさせていただきました。小・中学校、高校などでの出張授業もたくさんさせていただいておりますし、新聞やテレビ・ラジオなどさまざまなメディアで取り上げていただきました。また、外国人の方も含めてこの過疎地域の田舎の町まで延べ2,500名ぐらいの方が工場見学に来られています。

公の評価としては、雲南市初の「地域未来牽引企業」、「日本で一番大切にしたい会社大賞」の審査委員会特別賞、そして「健康経営優良法法人 ブライト500」などさまざまな認定・表彰を受けました。

一番大事なものさえわかれば、手段はいくらでもある

ーーこれまでの社内改革を経て、今後の展望をお聞かせください。

小山:健康経営とはただ健康を維持したり社員が仲良くしたりすることではなく、一番大事なものを守るための手段だと考えています。弊社にとって一番大事なのは、関係するみんなの力を合わせ、地域の雇用を守り、地域とともに成長・発展していく企業であることです。

掛合町は、この50年余りで人口が半分以下になりました。このままだとあと10年経たずして掛合町から小学校や商店が無くなり、今年入社した高卒の社員が51歳になったときには町自体が無くなってしまいます。

そうなると弊社も事業を継続できず、故郷を守ることができません。私もこの掛合町で生まれ育っていますし、町の皆さんの期待を込めてつくられたこの会社を発展させていくために社員を大切にし続け、事業を拡大していきたいと考えています。

ーー最後に、健康に関心のある方や健康経営を推進されている方にメッセージをお願いします。

小山:まず自分やその会社が何を一番大事にしているのかを考え、それに向かって進んでいただけるといいのではないでしょうか。

弊社が3S活動に取り組み始めた当初は、社員から「忙しくて掃除なんてしている暇がない」と反対を受けました。ただお客様が来るときは会社をきれいにするという社風があったので、私は頻繁にお客様を招くようにしたんです。

そうしたら工場内がピカピカになって、生産効率が上がり、製品の不良率は下がっていきました。今では3S活動を徹底している会社といわれるようになりましたが、それを目指したわけではありません。会社が大事にしたいものと、それを叶えるために必要な手段を考え、実践していけば、自社に合う取り組みができるのではないかと思います。

ーー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

今回お話を伺った企業はこちら:協栄金属工業株式会社

インタビュアー:青柳和香子

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