山形建設株式会社は、山形県を中心にさまざまな建設事業の指揮を執る総合建設会社です。2018年から「健康経営優良法人」の認定を取得している同社では、建設現場での熱中症対策や産業医のカウンセリングなどを通して、社員の健康意識を高めています。
今回は山形建設株式会社の常務取締役 後藤寛典さんに、健康経営に着目したきっかけや社員の方の変化、今後の展望を伺いました。
「建設」というオーケストラの指揮者、山形建設株式会社
ーー本日はよろしくお願いします。まず御社の事業内容について教えてください。
後藤さん(以下、後藤):当社は山形県山形市に本社を置く総合建設業の会社です。建設業のなかでも元請けとよばれる、ゼネコンの役割を担っています。お客様からオーダーを受けてその建設事業プロジェクトの工程と品質、コストを管理しています。
学校や病院、ホールといった公共的プロジェクトから民間のお客様の工場、商業施設、さらに土木分野の道路、トンネルまであらゆる構造物が当社の事業領域です。
ーーありがとうございます。健康経営に着目されたのはなぜだったのでしょうか?
後藤:当社はいわば「現場監督」の会社です。お客様の建物を建てるために、当社の現場監督がさまざまなパートナー企業から人と物を集めて、一つの建築物を造っていくための指揮を執ります。まさにオーケストラでタクトを振る指揮者という役割ですね。
一つのプロジェクトのために集まったほかの会社の職人さんや作業員さんも管理する立場ですので、健康面についても会社としてきちんとサポートし、現場での事故や病気による欠場を防ぐことが重要だと考えています。
ーープロジェクトを滞りなく進めていくためには健康が不可欠なのですね。
後藤:建設業にとって、まず安全管理はとても重要です。事故が起こるとお客様にも大きな迷惑をかけてしまいます。そのため当社も「安全」の意識は以前から高いのですが、近年はそれに加えて「自分自身の体調を整えたうえで出勤する」という「衛生」の意識が急速に高まってきました。
体調不良の状態で現場作業をすると、例えば足場の上から転落する、鉄骨の搬入時に足元がふらついて下敷きになってしまうといった命の危険につながりかねません。純粋に本業として健康管理をしていく必要があります。
また、建設現場に入場する作業員さんや職人さんの担い手が不足し、年々高齢化しています。若い世代の健康管理とはまた別の体調管理が必要な年代が増えている状況です。
「体調が悪い」と言える雰囲気づくりから
ーー御社で実施されている取り組みについて教えてください。
後藤:血圧計と体重計、空気清浄機の設置、保健師による健康講話の開催などさまざまな取り組みをしています。
夏は熱中症対策として現場に製氷機を設置し、休憩時間にかき氷を食べられるようにしたり、現場に設置する自動販売機に協賛して一本50円で販売したりするなど、こまめに水分が摂れる仕組みをつくっています。
ーー熱中症対策によって、効果はありましたか?
後藤:熱中症で不調を訴える人数は目に見えて減りましたし、それ以前に「熱中症は病気」という意識づけができたと思います。
昔は暑さに関して「我慢」「根性」という言葉もよく聞かれたと思うのですが、熱中症はれっきとした病気の前兆です。放っておくと死に至る場合もありますので、体調が悪い、気分がすぐれないということを言いやすい雰囲気を作るのも大切だと思います。
予防策はもちろん大事ですし、会社が対策を講じていくことで現場監督者の意識も変わり、「休ませよう」「病院に連れて行こう」という解決思考が働くようになるのではないでしょうか。
「長く働く」意識によって産業医への相談が増加
ーーほかにも、社員の皆さんの意識が変わったことはありますか?
後藤:定年を60歳から65歳に引き上げたところ、「より長く働きたい」という意識が高くなったように思います。そのため自分で体調管理をする、持病がある場合の働き方について産業医へ積極的に相談するなど、前向きに行動する社員が増えました。病気があっても、それと向き合っていけるようになった姿が印象的です。
ーー以前は会社に相談をされる方が多くなかったのでしょうか。
後藤:以前は「持病は個人的なものであり、自分で対処しなければいけない」という認識の人が多かったように思います。しかし今後は、体調不良や通院に関しても会社に対してある程度情報を開示し、産業医などのサポートを得ながら一緒に対処していく意識が必要です。
例えば勤務自体はできるものの、持病の影響でほかの社員と働くペースに差が出てしまう社員がいました。でも産業医に相談して就業時間や日数を調整するなど、雇用契約を見直したことで、現在も勤務し続けることができています。
「会社に相談して良い」というモチベートも大切
ーー健康増進を進めるうえで、難しいと感じることはありますか?
後藤:一人ひとりの健康状態は全く違いますので、会社で制度をつくる際になかなかパターン化ができません。相談に来る一人ひとりの事情を聞きながら、半分オーダーメイドのような形で人事的な制度の運用方法を変えていくことへの難しさは感じます。
また、先ほどもお話したように病気や健康状態はセンシティブな話題なので、会社側からどこまで積極的に関わっていくかというさじ加減は難しいですね。
社員のほうから歩み寄ってもらう必要もあるので、「会社に相談しても良いんだよ」とモチベートを先に進めていく必要があります。「こういう仕組みを作ったから使ってください」と一方的に伝えるだけでお互いの共通認識、同じ温度感がない状態だと、ただの枠組みで終わってしまいますから。
ーーその難しさのなか、社員の方からの相談にどのように対応されていますか?
後藤:ここが経営とのバランスになりますが、費用的な問題や社内体制の状況をみながら、会社からは複数の選択肢を提案して、社員の希望を聞かせてもらっています。
イエスかノーの2択にしてしまうと、「ノー」の場合に道がなくなってしまいますよね。そのため、会社として可能な範囲な選択肢をなるべく多くもてるようにしていきたいと考えています。
定年制を延長したことで、社員自身の健康問題についてだけでなく、家族の介護と仕事の両立に関する相談も少し増えてきました。こうした相談も含め、できる限りフレキシブルに対応していきたいですね。
未病に注力し、マネジメント観点の健康経営を進めたい
ーー健康経営について、今後の展望をお聞かせください。
後藤:未病のために、人間ドックの受診率を上げていきたいと考えています。受診するだけではなく、受信後の結果も産業医のカウンセリングを通して対処していけるよう、促していきたいですね。
健康経営優良法人の上位500社を示す「ブライト500」取得も目指していますので、今後もさまざまな制度づくりや社会に向けた広報活動を行なっていく予定です。
ーー最後に、健康に関心のある方や健康経営の推進ご担当者に向けて、メッセージをお願いします。
後藤:先ほどもお話したように、これまで社員の健康はパーソナルなものとして考えられてきました。しかしこれから、少子高齢化にともなって社員の平均年齢も高くなっていき、担い手の確保が難しい時代になっていきます。そんな状況で社員が健康状態を崩すのは、そのまま企業経営にとってリスクになる可能性が非常に高いでしょう。
社員の健康を守るのは会社を守り、雇用を守っていくことにつながると思いますので、社会貢献活動や福利厚生という観点よりも「マネジメント」という観点で取り組んでいくものなのではないかと考えています。
ーー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
今回お話を伺った企業はこちら:山形建設株式会社
インタビュアー:青柳和香子