1. そもそも体力とはなにか?
「体力」という言葉は、日常生活でもよく使われます。しかし、体力を正確に定義して説明してほしいと言われたら、誰しも困ってしまうのではないでしょうか。ここでは、そもそも体力とは何か、健康的に生活するための体力とは何かを説明します。
1-1. そもそも体力とはなにか?
体力の定義として学術的に一般的なのは「ストレスに耐えて、生命を維持する体の防衛能力」と「積極的に仕事をしていく体の行動力」です。要するに、健康に生活するための体力と、運動をする体力の2つの意味が、体力という言葉に含まれています。
健康的に生活するための体力とは、たとえば感染症など病気に対する抵抗力です。ほかにも、精神的なプレッシャーなどに対するメンタルの強さ、意志や判断力をキープする力などもこれに入ります。運動をする体力は、簡単にいうと、体力テストや身体測定で数値化できる能力のことです。たとえば、持久力、瞬発力、筋力などは、20mのシャトルラン(往復持久走)、反復横跳び、上体起こしなどの種目で測定できます。また、身長や体格も、この運動をする体力として扱われます。
1-2. 健康的に生活するための体力とは
現在では、健康的に生活するための体力として、特に、生活習慣病にならずに健康な生活を維持するための体力、と呼ばれているものがあります。それが「健康関連体力(health-related fitness)」と呼ばれる、「心肺持久力」「筋力・筋持久力」「身体組成」「柔軟性」の4つの要素で構成される体力です。
心肺持久力は、一般的にスタミナと呼ばれる要素です。肥満や高血圧、糖尿病などと深く関連しています。日ごろから適度な運動を心がけることで、心肺持久力を高めることが可能です。筋力・筋持久力は、足腰、腹筋、背筋などの筋力、およびその持久力を表す要素です。歩く・立つ・姿勢を維持するなど日常生活の基本的な動きに関連しており、衰えると、疲れやすくなったり腰痛を引き起こしてしまったりします。
身体組成はあまり耳慣れない言葉といえるでしょう。これは体に占める筋肉や脂肪、骨の量などのバランスを意味する用語です。たとえば、体脂肪率は身体組成のひとつです。脂肪が増えれば、生活習慣病を誘発して肥満につながります。骨の量が減れば、骨粗しょう症になるリスクが高まります。
日常の生活動作をスムーズにしてくれるのが、柔軟性の高さです。昔は和式便所や正座、布団の出し入れなど、自然に柔軟性が鍛えられる場面がありましたが、現在の快適な暮らしの中では、体の稼働領域が減ってきているといわれています。柔軟性があれば、筋肉や関節の負担を減らし、けがを予防できます。
2. 体力低下はいつ起きる?
年齢を重ねれば体力低下が起こるのは事実です。体力低下が起きる年齢は何歳ぐらいか、また、日常の中で体力の低下を感じるときはどんなときかを紹介します。
2-1. 体力低下は何歳から起こるのか
体力低下には2段階あると考えるほうがよいでしょう。体力の水準は男女の差はなく6歳頃から向上を始めます。そして、運動をする体力を総合的に評価すれば、1段階目の体力低下が始まるのは、男女いずれも20歳からです。男性は17歳ごろ、女子は14歳ごろが体力のピークですが、20歳をすぎると緩やかに衰えていきます。しかし、体力に直結する筋肉量は、男女ともに20~40代は維持されます。アスリートの中には、30歳代でキャリアのピークを築く人は多いことからも、これは納得しやすいのではないでしょうか。少なくとも衰えらしきものがみえないケースは、多々あります。しかし、この体力に直結する筋肉量も、50~60歳代に急激に衰えます。この2段階目の体力低下が来るのは避けようがありません。しかし、日ごろの運動などによって個人差が大きく出るのも、2段階目の衰えです。
2-2. 体力低下を感じるのはどんなときか
日常のふとした際に体力の低下を感じることがあります。通勤途中の駅の階段などで、足腰の衰えや息の乱れを感じることで、体力が低下していることがわかるなどです。歩いていて多くの人に追い抜かされると、数年前はこのようなことはなかったのに、と気づくこともあります。
10~20歳代では夜通し遊んでいた、という経験がある人もいるでしょう。趣味に没頭して、毎日夜更かししても平気だったという人もいるかもしれません。2017年に総務省統計局が調査した年齢階層別就寝時刻をみると、20~24歳が0:30ごろと最も遅く、その後は徐々に早寝になっていきます。平日の就寝時刻の平均をおおまかにいえば、30~34歳では0:00前後、40~44歳では23:45前後です。また、50~54歳では23:30前後、60~64歳では23:00前後、70~74歳では22:15前後となっています。夜更かしができなくなったことは、加齢のサインというわけです。
また、体を動かすとすぐに腰や肩に痛みを感じることも、年齢を重ねるにつれ、増えてきます。風呂場の掃除など、何気ない日常生活の動きで腰痛になってしまう場合も少なくありません。こうしたときも、体力の低下を感じるのではないでしょうか。
3. 体力低下の原因とは?
ここでは、なぜ体力低下が起きてしまうのか、その原因とは何かを解説します。
3-1. 加齢による運動能力の老化
加齢によって思うように体が動かなくなることは、比較的わかりやすい変化です。身長が低くなったり、見た目が老化したりすることにも気づきやすいでしょう。これらの変化には、筋力の低下だけでなく、柔軟性がなくなっていくことや神経伝達が遅くなって俊敏性が衰えるなど、総合的な運動能力の低下が関係しています。
そして、血管や心臓などの循環機能の変化、骨密度や骨量の低下、関節軟骨の減少による関節の変形なども同時進行します。これらは、加齢とともに、体を動かす能力そのものが低下しているといえるのです。もちろん、老化が始まる時期や進行の度合には、性別や生活環境で個人差が出ます。日ごろから適度な運動をする、健康によい食品を取るなどによって大きく改善できるのも加齢による運動能力の低下です。
3-2. 基礎代謝の低下による体脂肪の増加
基礎代謝も加齢とともに減少していきます。基礎代謝とは、心臓を動かす、呼吸をするといった生命を維持するために必要最低限なエネルギーのことです。つまり、寝ていても消費し続けるエネルギーが基礎代謝です。もし、基礎代謝が減ったのに同じ生活を続けていたら、当然ながら太ります。そして、体脂肪が増加すると筋肉への負担を増して体力が低下しますし、疲れを感じやすくもなります。平均的に、基礎代謝量のピークは男性が18歳、女性が15歳です。その後は、基礎代謝量が徐々に減っていきます。
3-3. 生活習慣による運動不足
運動不足は体力低下の大きな原因です。運動をしないと筋肉が使われなくなり、弱っていくからです。また、血液の循環も活発でなくなることから、さらに筋力は衰えていきます。結果として、疲れやすい体質へと変わってしまうのです。
大人になると体を動かす機会は減り、気づけば運動不足になっているケースは多いといえます。たとえば、仕事や家事に追われて、運動する時間を取れないなどです。もともと運動が苦手な人は、さらに体を動かさなくなるかもしれません。かつては休日に、子どもの遊びに付き合うなどで体を動かしていたものの、現在はもっぱら家で過ごす人も多いのではないでしょうか。体力が低下すると疲れやすくなるため、ますます運動しなくなるという、負のスパイラルに陥ることもめずらしくありません。
3-4. 低栄養によるたんぱく質の不足
「低栄養」という、体の中のたんぱく質が不足している状態を表す用語があります。低栄養になる原因は、食欲が低下したり、仕事や家事が忙しすぎたりして、食べる量が減ることによって起きます。たんぱく質が不足しているのは、体を動かすエネルギーが足りていない状態です。筋肉、皮膚、内臓などに、必要なたんぱく質が届かなくなります。そのため、体重が減り、骨格筋の筋肉量や筋力が低下していきます。元気が出ないと感じることも多くなったり、免疫力が低下して病気にかかりやすくなったりすることも、低栄養が引き起こす症状です。
4. 体力低下を感じたら取り入れたい改善方法
体力低下を感じたら、運動や食事に少し気をつかってみませんか。ここでは、日常生活に簡単に取り入れられる運動と食事の改善方法を紹介します。
4-1. 日頃から軽い運動に取り組む
体力低下の予防に効果的なのが運動です。しかし、普段運動をしていない人が、いきなり激しい運動をしても体力が続きません。日常的に取り組める軽い運動から始めましょう。
4-1-1. ウォーキングする
運動する時間が取れない人に向いているのが、通勤時間を利用した運動です。通勤時に1駅前で降りてウォーキングしてみてはどうでしょうか。ライフスタイルを大きく変えなくてよいので、習慣にしやすいメリットがある運動法です。ウォーキングは正しい姿勢を意識して歩くのが効果的です。こだわるなら、左右均等に重さがかかる、リュックサックを利用しましょう。某メジャーリーガー選手も、筋力や骨格に左右の偏りが出ないように、荷物は常にリュックサックで運んでいるようです。
高齢者の場合は、近所をウォーキングするのが手軽な運動です。無理のない範囲で、いつもより大股で歩くと、運動の効果が高まります。このとき、かかとからつま先へと、足裏を転がすように重心移動をするのがポイントです。また、肘を曲げたときに前に軽く振り、逆に、後ろへは深く引くのを意識するのもポイントです。そうすることで、肩甲骨がよく動き、姿勢もよくなります。
4-1-2. 階段を使う
ウォーキングする時間すらない忙しい人は、エレベーターやエスカレーターではなく、階段を使ってはどうでしょうか。オフィスや駅など、さまざまな場所で手軽に運動ができます。体力がない場合は、下りだけでも階段を利用してみましょう。下りは心理的に楽ですが、実は、筋肉への負荷は上りより大きく、運動効果が高いのです。
4-1-3. ストレッチをする
柔軟性も体力のひとつです。年齢を重ねるにつれて、筋肉の柔軟性がなくなっていき、体の動きが小さくなることで、体力が低下していきます。また、けがのリスクも高まってしまいます。柔軟性を高めるには、風呂上りや寝る前にストレッチをするのがよい方法です。注意点は、筋肉に過度な負担をかけないことです。反動をつけずにゆっくりと伸ばす「静的ストレッチ」が安全といえます。太ももの表・裏、お尻、ふくらはぎ、すねなど下半身を中心にストレッチをすると効果的です。ストレッチを習慣付けて、柔軟性という体力を向上させましょう。
4-2. 食事を1日3食美味しく食べる
「低栄養」の対策は、食生活を変えることです。食欲が低下して、食事量が減るのが低栄養の主な原因です。このような場合、1日3食の習慣を守り、たんぱく質、摂取エネルギーが不足しないようにするのが大切といわれています。それでも食欲がなく食べられない人は、牛乳や果物などを間食としてとるのもよい方法です。また、市販の栄養補助食品でカロリーを補うのも効果的です。心理的に食欲をなくしているケースもあります。献立に変化を付ける、会話を増やして楽しい雰囲気で食事をするなど、少しの工夫で食欲がアップします。
体力低下を感じたら食事や生活習慣を見直し健康的に生活しよう
加齢によって、体力が低下していると感じる人は多いでしょう。実際、20歳から体力は衰えていき、50~60歳で急速に低下することもあります。年齢による体力低下は、仕方がないことです。しかし、何もしないよりも、運動やストレッチ、食生活で体力を維持することが大切です。生活の一部に無理のない運動を取り入れたり、健康食品を取り入れたりしましょう。